女王の名はキング――媚びない、甘えない、大胆不敵なロックンロール!

 昨年2月に本国USで発表され、その後ジワジワと全米チャートを上昇したエル・キングのデビュー・アルバム『Love Stuff』。ヒットのきっかけは、リリースから3か月後にLAのローカルなラジオ・ステーション、KROQがシングル曲“Ex's & Oh's”を頻繁に流しはじめたことだった。そこから波及するようにTOP40局もヘヴィー・ローテーションに選出。そして、第58回グラミー賞で同曲が〈最優秀ロック・ソング〉と〈最優秀ロック・パフォーマンス〉の2部門にノミネートされるところまできたのだ。惜しくも受賞は逃したものの、彼女の評価はこれによって確かなものとなり、日本でも存在を気にする人が増えはじめたかな……というタイミングで、〈サマソニ〉への出演が決定! アルバムの日本盤もようやく登場する運びとなった。しかも嬉しいことに、この日本盤には2012年のEP『The Elle King EP』が丸ごと追加収録。ライヴ音源も含まれているので、聴けばおのずと〈サマソニ〉のステージに対する期待感が募ってくるはずだ。

ELLE KING Love Stuff RCA/ソニー(2015)

 LAに生まれて幼少期をオハイオ州の片田舎で過ごし、その後フィラデルフィアやNYにも住んでいたという現在26歳のエル・キングには、新人らしからぬ貫禄が備わっている。アデルを上回る重量級の体型がそう思わせる一因かもしれないが、とにかく声量が途轍もなく、そのしゃがれ声は物凄くエモーショナル。〈エイミー・ワインハウスホワイト・ストライプスの中間〉と評したメディアもあったほどで、もちろんそれに異論を唱える気はないが、声質的にもっとも近いのはGLIM SPANKY松尾レミじゃないかと考えている。いや、声質だけじゃなく、音楽性もGLIM SPANKYに通じる部分があるなと、アルバムを聴き返してそう思った。

 エルは60年代の泥臭いロックンロールに表現の根を張り、ブルースのリフを軸にして曲を組み立てながら、洗練と歪みをバランス良く配合した現代のサウンドへと昇華させていくタイプのアーティスト。本作の4曲目“Last Damn Night”はレッド・ツェッペリンを想起させる大陸的なハード・ロックで、ブラック・キーズっぽさもあったりするが、続く5曲目“Kocaine Karolina”や“Song Of Sorrow”は彼女の弾くバンジョーの音色が印象的なカントリー・タッチ。重い曲でも軽やかな曲でも、デカダンな曲でも明るい曲でも、自然に無理なく自分らしさを出している――そのあたりからGLIM SPANKYとの共振を感じ、僕は勝手に嬉しくなるのだ。また、“Under The Influence”や“I Told You I Was Mean”など、エイミー・ワインハウスが歌っていたようなレトロ・ソウル方面へも行けるのがエルの特徴。そんな引き出しの多さを感じさせる『Love Stuff』には、マーク・ロンソンジェフ・バスカーエッグ・ホワイトらが裏方として関与している。

 〈私に何を期待しているの/私はアメリカの恋人じゃない(万人受けするような女性じゃない)/それでもどのみちあなたは私を愛しているのよね〉――マムフォード&サンズ以降のフォーク・ロック作法を用いた“America's Sweetheart”でこのように歌うエル。きっと〈サマソニ〉でも、強気の姿勢で日本のオーディエンスを圧倒してくれることだろう。