早くも2021年の最注目作品が登場! 強烈な存在感と圧巻の歌声で世界を魅了し、賞賛も栄誉もすでに手に入れた英国の新星は、ここからさらに輝きを増していく……
エイミーやアデル級の傑物
〈批評家賞〉を授かった2020年2月のブリット・アワード授賞式でパフォーマンスした“Strange”がビリー・アイリッシュとその兄フィニアスから絶賛され、数か月後にフィニアス制作の“I Can See The Change”を発表したセレステ。オコンネル兄妹からの賛辞に加え、エルトン・ジョンも自身のプレイリストに選ぶなどした2019年のシングル“Strange”は、他人から友人となって恋人関係に発展したふたりが破局するとふたたび他人同士に戻ってしまう〈不思議〉をピアノと弦のみをバックにハスキーな声で歌うスロウ・バラードで、これで彼女の存在が一気に知れ渡った。そんなセレステが、このたび待望のファースト・アルバム『Not Your Muse』をリリース。BBCが選ぶ注目の新人〈Sound Of 2020〉では先日同タイミングでアルバム・デビューしたアーロ・パークスらと競って1位を獲得していたように、すでに多くのメディアが故エイミー・ワインハウスやアデル級の傑物として称賛している。

CELESTE (R&B) 『Not Your Muse』 Polydor/ユニバーサル(2021)
もっとも、彼女は2015年の時点で故アヴィーチーの“Touch Me”でペンと声を交えていたし、2018年にポリドールと契約したのもマイケル・キワヌーカの推薦なら、メジャー契約前にはリリー・アレンが主宰するバンク・ホリデイからシングルやEPを出すなど、早い段階で大物たちのラヴコールを受けていた。94年にLAで生まれ、幼少期に母の祖国イギリスに移ったセレステ・エピファニー・ウェイトは、16歳の時に亡き父へ捧げた自作曲“Sirens”をYouTubeにアップしたところ後のマネージャーに発見されてプロとして活動を始めるが、かように音楽関係者の心を動かし、虜にするほどの得難い魅力を備えていたのだ。ポール・ウェラーの“You Do Something To Me”をポール本人とスタジオ・ライヴで共演したことは英国音楽界からの勲章と言ってもいい。
アンドラ・デイにも通じる、セピア調のレトロな画が浮かぶようなスモーキー・ヴォイスは古い映画から流れてきそうで、エディット・ピアフ“La Vie En Rose”をカヴァーしていたことも頷ける。思えば、Netflix映画「シカゴ7裁判」では“Hear My Voice”、ディズニー&ピクサー映画「ソウルフル・ワールド」の英国版ではジョン・バティステと共演した“It’s All Right”(インプレッションズのカヴァー)が、それぞれのエンド・ソングとなり、懐かしいムードを漂わせる彼女の声が映画の感動を後押しした。これらに加えて、ガッツ・ストリート・パークとの共演や亡き父を想って書かれたトム・ハヴロック制作の“Father’s Son”といったEP『Lately』(18年)の収録曲、また、ジャスティン・パーカー制作のピアノ・バラード“I’m Here”やテラス・マーティンが手掛けたレイジーな“In The Summer Of My Life”などのプロモ・シングルおよび単発企画の曲だけでも別のアルバムが作れそうなほど精力的に作品を発表してきた彼女にとって(それらの楽曲は『Not Your Muse』のデラックス盤や日本盤にボーナス収録)、今回のファースト・アルバム発表のタイミングは、パンデミックを受けての延期とはいえ遅すぎるくらいだった。
英国音楽史において
出世曲と言っていい“Strange”や英国の老舗百貨店ジョン・ルイスのクリスマスCM曲“A Little Love”をプロデュースしたジェイミー・ハートマンと大半の曲を共作した『Not Your Muse』は、当然のようにUKアルバム・チャートで1位をマーク。そのコンセプトについて彼女は、「私が無力に感じていた時に見い出した力についての作品。アルバムを作るにあたって、自分が力づけられる場所に辿り着かせ、力強く目を見開かせ、満たされた」と語るように、もどかしい気持ちや不安に苛まれながらも、それを克服して勇気を取り戻していくような強さをヴィンテージなサウンドと一緒になって表現している。そう思うと、UKポップスの名匠チャーリー・ヒューガルが手掛けたバラードの表題曲は、静謐なムードからサイケな音像を交えてスケール感を増していき、まさに彼女が言う〈無力の中で見出した力〉を音そのもので描いたかのようだ。“Strange”と対になるような、不意の別れと出会いについて歌ったジェイミー制作のアコースティックなバラード“Some Goodbyes Come With Hellos”まで、アルバム本編ではそんな気持ちが生々しく綴られている。
楽器の繊細な響きや音の隙間、余韻を重視したサウンド・プロダクションは、彼女のアンニュイでエモーショナルな歌声を存分に引き立てる。〈あなたが思う理想の人とは違うかもしれない〉と歌う、音数を最小限にとどめたシンプルなバラード“Ideal Woman”を筆頭に、ヒューガルと並んでアルバムをメインでプロデュースしているジョシュ・クロッカーの手際は特に見事だ。ギターのアルペジオでうつろう感情を描いたような“A Kiss”、古き良きムード音楽風のサウンドをバックに〈私の思い通りになるなら、ずっとここにいてほしい〉と歌う“Beloved”、アコースティックで浮遊感のある“The Promise”など、カリ・ウチスも手掛けていたジョシュの細やかな音使いが、セレステのシンガーとしての魅力をありのままに輝かせている。
大晦日から元日に年を跨ぐかたちでシングル・リリースした“Love Is Back”など、20代のポップ・シンガーらしい勢いを打ち出したキャッチーな曲もある。近年はリゾへの楽曲提供でも再注目されているショーン・ダグラスがペンを交えた“Tonight Tonight”は、離れようにも離れられず〈今夜はあなたのもとに向かう〉と駆けつけたい気持ちをアップ・ビートに乗せて歌う。燃え上がった炎のように抑止できない自分の感情をニーナ・シモン“Sinnerman”を引用したトラックと一体になってぶつける“Stop This Flame”の疾走感も痛快だ。また、ブラスを含めた生バンドのオーガニックなグルーヴで突き進む“Tell Me Something I Don’t Know”では、なぜ生きる人と死ぬ人がいるのか、騒がしくなる日々の中で道を失いそうになる自分を正しい方向に導いてほしいと訴える。直接誰かを名指ししているわけではないが、これはある男が引き起こした衝突や混乱に対しての揶揄とも受け取れる。
シャーリー・バッシーやダイアナ・ロスを思わせる60~70年代風の衣装を現代風に着こなす彼女は、自他ともに認めるファッショニスタでもある。「私にとってファッションは、ただ洋服を身に着けることではない。特定の歌におけるキャラクターやムードに合わせるためのルックを創作すること」と話すように、そのファッションは確かにヴィンテージなサウンドと結び付くものだ。ブリティッシュ・ソウルの系譜に連なりながら新しい風を運ぶソングストレスはリスナーの目と耳を潤し、早くも自国の音楽史に太字で名を刻んでいる。
左から、アヴィーチーの2015年作『Stories』(PRMD/Universal)、2020年のサントラ『The Trial Of The Chicago 7』(Concord)、ジョン・バティステの2020年作『Music From And Inspired By Disney Pixar Soul』(Walt Disney)
『Not Your Muse』に繋がるミューズたち

セレステのルーツにあたる存在としてよく名の挙がるビリー・ホリデイだが、ちょうど配信されるその伝記映画にて主演のビリーを演じたのは、これまたセレステを語る際に引き合いに出されるアンドラ・デイだ。こちらのサントラでは数々のスタンダードをブルージーに熱唱している。 *轟

JORJA SMITH 『Lost & Found』 FAMM/The Orchard/HOSTESS(2018)
同じジャマイカの血を引くUKのシンガーという共通点もあり、セレステのファンであることを公言してもいるジョルジャ・スミス。モダンなサウンドに乗りつつ歌唱はエイミー・ワインハウスの影響下にあるもので、アコースティックな“Goodbyes”などで滲み出る情緒はセレステにも通じるか。 *轟

ARLO PARKS 『Collapsed In Sunbeams』 Transgressive/BIG NOTHING(2021)
BBCによる〈Sound Of 2020〉にセレステと並んでピックされた彼女は、また違う角度から英国産R&Bの知的なニュー・フォームを描くロンドン出身のアーティスティックな新星。ナイジェリアやフランスをルーツに持つリリカルでネオ・ソウルな歌世界は、ここから大きく越境していくはず。 *轟

ジャズ~ブルースから多方面にクロスオーヴァーした偉大なる個性。セレステが今回“Stop This Flame”でネタ使いする前からタリブ・クウェリ“Get By”などに引用されてきた“Sinnerman”はこちらに収録。そういえばアンドラ・デイもたびたびニーナのレパートリーを取り上げていた。 *轟

コロンビアにルーツを持ち、ヴァージニアを拠点にしつつUKでも支持の厚い多才なシンガーのファースト・アルバム。後にセレステやメイベルとの仕事で名を挙げるジョシュ・クロッカーが確かなセンスで主役のヴァーサタイルな持ち味を引き出している。ジョルジャ・スミスの客演も。 *轟

ALESSIA CARA 『This Summer: Live Off The Floor 』 Def Jam(2020)
強引に言えばディズニー映画のエンド・ソング繋がりもあるカナダ出身の歌姫。R&Bというよりは王道ポップス方面からのアプローチでレトロ・ソウルやブルースとの好相性も窺わせ、似合う意匠はセレステにも近い。こちらの最新EPではノラ・ジョーンズ感も前面に出てきている。 *轟

オールドタイミーなジャズやソウルへのアプローチでモダン・ヴィンテージの流れを作り出し、レディ・ガガやアデル、エミリー・サンデー、サム・スミスら多くの後進に絶大なインスピレーションを与えてきたエイミー。セレステもその影響から逃れることが難しいのは言わずもがな。 *轟