大人の視点と情熱
アルバムはカントリーのメッカであるナッシュヴィルで録音され、ブレイクやダン+シェイを手掛けるスコット・ヘンドリックスが全面プロデュースにあたっている。だが、グウェンの視点の先にあるのは70年代のソフト・ロックへの憧憬。音楽活動を始める以前の、もっと幼い頃に耳にしていたイーグルスやスティーリー・ダンのようなアーティストにインスパイアされている。彼女自身の言葉でいうなら〈ヨット・ロック〉というジャンル。アメリカのウェストコースト・ロックやAOR、それらに触発されたいわゆるシティ・ポップな要素も備わっていて、オレンジカウンティ出身の彼女のルーツとも合致する。そんな方向性はアルバムのオープニングを飾るシングル“Somebody Else’s”を聴けば、瞬時に納得してもらえるのではないかと思う。近年のヒット曲のトレンドに逆行するかのように、ちゃんとイントロから始まり、Aメロ、Bメロや、しっかりブリッジもあって、ギター・ソロまで飛び出し、後半なるほどさまざまな楽器の音色や捻りが重ねられていく。実によく練り上げられた3分間のポップソングという構成は、昔ながらの基本に忠実な楽曲スタイルだ。
とはいえ、決してノスタルジックではないのがユニークなところ。懐かしさよりも新しさが勝っている。例えば“Marigolds”からはポリス“Every Breath You Take”のギター・リフが聴こえるが、まるで別曲の仕上がり。〈ほらね!〉と、彼女がウィンクしながら微笑んでいるかのように。このモダンかつ新鮮なアプローチには、曲作りに関わったソングライター陣によるところも大きいはずだ。「The Voice」仲間でもあるアダム・レヴィーン(マルーン5)に紹介されたというJキャッシュことジェイコブ・ヒンドリン、セレーナ・ゴメスやエイバ・マックスを手掛けるマディソン・ラヴ、新進シンガー・ソングライターのニコ・ルビオなど、フレッシュな顔ぶれが並ぶ。その一方で、大御所ソングライターのダイアン・ウォーレンが“All Your Fault”というナンバーを書き下ろしていたりもするのだが。
ブレイクと共演した〈紫のアイリス〉〈マリーゴールド〉といった曲名からもわかるように、アルバムには花にちなんだ事柄やテーマが多数まとめられている。それらを束ねて、アルバム・タイトルの〈ブーケ〉というわけだ。そのタイトル曲“Bouquet”では、〈私たちでブーケを作るの〉と歌われ、“Late To Bloom”では〈この愛は遅咲きだったわ/私の若かった頃、22か23であなたと出会いたかった〉と歌われ、大半の曲が恐らく、いや間違いなく夫ブレイクに捧げられている。人生を俯瞰した大人の視点による、だが情熱的なラヴソング集なのだ。
今年4月の〈コーチェラ〉では9年ぶりにノー・ダウトを再結成し、いまをときめくオリヴィア・ロドリゴもステージに飛び入りした。思えばロック界からポップに踏み入ったグウェンと、ポップ界からロックに踏み入ったオリヴィアとは、世代は違えど同じような地点に立っているのかもしれない。飛ぶ鳥を落とす勢いのチャペル・ローンからもグウェンの影響が聴こえて、しばしばハッとさせられる。ソロ・デビューから今年で20年。常に半歩先を歩んできた〈グウェン姐さん〉に、いまふたたび時代が擦り寄りはじめているようだ。
左から、ノー・ダウトのシングル集『The Singles 1992-2003』(Interscope)、グウェン・ステファニーが客演したショーン・ポールの2022年作『Scorcha』(Island)、グウェンとブレイク・シェルトンが参加した2023年のトリビュート盤『A Tribute To The Judds』(Broken Bow)