GWEN STEFANI
辛い別れと新たな恋――ジェットコースターのような日々を、カラフルなサウンドに乗せて

 過去1年間にグウェン・ステファニーの身に起きたことを知っていれば、ただ楽しいだけの音楽は予測していなかっただろう。そもそも、ノー・ダウトのフロントウーマンを務めつつ3人の子供を育てる超多忙な人が、よほどの理由でもない限り、またソロでアルバムを作ろうとは思わなかったはず。実際に彼女は、「作りたかったというより選択の余地がなかった」と話す。

 「とにかく真実を語りたくて、曲を書くしかないと思った。それが辛い試練を乗り越える手助けをしてくれたわ。アルバムが私を救ってくれたのよ」。

GWEN STEFANI This Is What The Truth Feels Like Interscope/ユニバーサル(2016)

 実に10年ぶり3枚目のソロ・アルバム『This Is What The Truth Feels Like』の誕生を促したその辛い試練とは、20年来のパートナーであるギャヴィン・ロスデイルブッシュ)との別れだ。これまでも常に実体験をもとに曲を書いていたグウェンだが、かつてなく直接的で激しい感情の振幅を擁する本作には、ビョークの『Vulnicura』に通じる部分もある。そして、同作でビョークを支えたアルカに近い存在が、ずっとグウェンの大ファンだったという売れっ子ソングライターで、セミ・プレシャス・ウェポンズの一員でもあるジャスティン・トランターだ。

 「彼は私の考えを一緒にまとめてくれて、私を支え、自信を与えてくれた。私はジャスティンが何者か知らなかったのに、彼は私の曲を全部知っていたから、不思議なコンビだったけど、きっとコラボする運命にあったのね」。

 そんなジャスティンとほぼ全編で共作し、破局の数か月後から自分の心境を詳細に綴りはじめた彼女は、失意のドン底にあった頃の曲を「皮肉満々で辛辣でダークで、怒りに満ちていた」と評する。“Red Flag”や“Naughty”のように。でもご存知の通り、その後、新たな恋に落ちたことからトーンは徐々に変わり、“Make Me Like You”や“Rare”などの曲で希望を覗かせていく。時系列に収められているわけではないのだが、歌詞を読めば、書かれた順序や背景は想像に難くない。それに、音作りを一任されたグレッグ・カースティンJR・ロテムといったプロデューサー陣は、歌詞に込められた思いを阿吽の呼吸で汲み取り、レゲエからディスコまでを網羅して前述した感情の振幅を鮮烈に描出する。そう、衝撃に打ちのめされ、怒りに燃え、悲嘆に暮れて、そして新しい出会いにときめいて……という波瀾の日々を。

 「自分にこんなアルバムが作れるとは夢にも思っていなかったし、人生は予測不能で、奇跡もたくさん起きるってことを学んだわ」と語るグウェン。真実の探求に終始した本作はデビューから4半世紀を経て、アーティストとして、ひとりの女性として、我々が知らなかった彼女の一面を浮き彫りにしている。