
一音一音、全ての音に対して妥協しない
――さて、『パラレルワールド』について、制作に時間かかったとのことですが、具体的にはいつ頃から作り始めたのでしょう?
「2019年に『Metéôros』を出してからアルバムに入りきらなかったイメージが沢山あったのですぐに作曲を始め、“ユメミルヒツジ”と“アデールの蝶”を作りました。その2曲が完成したのが2020年の暮れぐらいです。それから同時進行で『魔術師の城』を作り始め、2022年にそれを完成させたのち本腰を入れて『パラレルワールド』の制作に入りました。2020年に完成したものを今回のアルバムに入れるのに若干抵抗はありましたが、通して聴くと意外と違和感がなかったです。つまり制作には正味3年くらいかかりました」
――『Metéôros』の延長ということでしょうか。そうとは思えない箇所も多いです。違いはどこでしょう?
「延長ということは確かですね。『Metéôros』では一部作り込みが甘いところがあったのが心残りだったので、まず一音一音、全ての音に対して妥協せずに作るという目標がありました。さらに3rdアルバムで作ったクラシックの要素も入れたり、『Metéôros』よりもっと幅広いタイプの曲を収録したいと思っていました。一方で好きな音に対する解像度が上がっていて、自分の声を素材にすることやDAWソフトにも少しずつ慣れてきていたので、2ndと比べて突飛なことはしていないです」
――録音の際、歌い方で工夫したことは?
「無機的な感じにしたかったので、ボーカリストとしての主張が入らないようにしていたと思います。また、曲に合う素材として使うので単語やフレーズで区切って何度か録り直し、一番イメージに近いものを編集して繋げるというやり方で録音していました。100回ぐらい録り直した箇所もありましたね」
――ここ数年はChu Makinoや蜂谷真紀といったボイスパフォーマーとのセッションも多かったですね。
「即興シーンで声を使っている方は、声を素材としてもクラシックの声楽やジャズのボーカルとしても使えていてすごいです。同時にやはり人の声というのはものすごい情報量があるというか、圧倒的なパワーがあると思います」
――昨年(2023年)、参加してもらったあがた森魚『乙女の儚夢』のトリビュートアルバム『乙女の儚夢 NOEL』の録音が終わったとき、4枚目のアルバムを出したい、と話をもらったんですよね。内容について口出しするつもりはありませんでしたが、ただ、リズム面での冒険をしてほしい、新しいリズムに取り組んでほしいとは言いました。リズム面での具体的な取り組みはありましたか?
「メロディとリズムを別々に組み立てるというのをやったと思います。1曲目の“狂想・未来・ロマンチカ”と8曲目の“アデールの蝶”では、頭に浮かんだメロディとリズムのうち、リズムの部分だけを消去してDAW上で一つずつ打音を足していき腑に落ちたところでリズムを固定させ、それに合わせてメロディやコードも少しずつ変えていくというのをやっていました。今までは頭の中にある音楽をそのまま吐き出していましたが今作はそこが違うと思います」
――今作は、作詞面で言葉の選び方が巧いと思いました。
「メロディを口ずさんでいる時になんとなく歌いやすい節回しが浮かんでくるので、その曲の世界観と節回しがうまく腑に落ちる言葉を選んでいく感じですね。あとその曲の登場人物になりきって書くのが面白いし、言葉でももっと遊んでみたいです」