三人の芸術家から受け取った魂の音像化、多様の美が堆積するサウンドトラックの誕生

 〈「創造」とは何かを受け継ぐこと〉という本盤のブックレットの一節を引用することで、この作品の全てを語り尽くせてしまうかもしれない。

 スティールパン/モジュラーシンセサイザー奏者として活躍する作曲家:町田良夫の最新作はNHKドキュメンタリー番組群を彩ったサウンドトラックアルバム。2020年の谷崎潤一郎、2022年の大竹伸朗、そして2023年の円山応挙。時代もジャンルも異なる芸術家を扱った映像作品に付した音楽たちだが、アルバムを通して聴いてみると何か共通する高潔・深遠・幽玄とも形容し難い〈美しさ〉を纏った一枚に仕上がっている。

町田良夫 『ドキュメンタリー・ミュージック』 アモルフォン(2025)

 単音のピアノが印象的な幕開けを告げるTr. 1“円山応挙”、緊迫したビートとノイズが織りなすTr. 3“Bug”、耽美なエレクトロニカのTr. 15“海”、仄明るいフィナーレを演出するジャジーなTr. 17“街の灯”など音像的にもバラエティに富んでいる。アウトテイク集も潤沢で、中でも共通のメロディを和風アンサンブルアレンジとスティールパンアレンジとで聴かせるTr. 5/16“Creation #1/#2”は非常に興味深い音楽だ。様々な表現が織り交ぜられた17トラックの71分間は幻想的、それでいて澄み切った心地よさをもたらしてくれる。

 またこのアルバムには12Pに及ぶ書き下ろしエッセイ〈芸術の本質〉がブックレットに収められている。ドキュメンタリー番組制作のこと、生成AIの話題などに触れ〈芸術とは、創造とは〉を問うている。冒頭に引用した言葉をもう一度思い返すならば、三人の巨匠が歴史に刻んだ足跡、それを伝えるために制作されたドキュメンタリー、そしてそれを享け産み出された町田良夫の音楽という系譜がここにある。さあ、この一枚の〈創造物〉から聴き手である我々は何を受け取るだろう。美しい音楽群の中に継承されている芸術のエネルギーを見逃してはならない。