ジャワのガムランによる、ガムランではない音の風景

 コンコンコンコン…きっちりとしたテンポを示すゴングの音。やがてそこに大小様々なゴングや太鼓が加わり、いつの間にか音の砦を築いていく。文字面だけならこれがガムラン楽団の風景だが、響いてくる音楽は明らかにガムランではない。よく見れば演奏者もアジア人ではないことに気がつく。

 「きっかけは、僕が参加している〈カーサ・デ・ムジカ〉がジャワのガムランの楽器を揃えたことでした。それと一緒に本場のガムラン奏者を招いて、プロジェクトに関わったメンバーは、これらの楽器の奏法を学びました。さらに現地にも行って伝統的な奏法を学んだんです」

 そう語るのは、このガムラン・プロジェクト〈エンセンブレ・デ・ガメレォン〉の中心人物であるジョルジュ・ケイジョ。普段はドラム&パーカッション奏者、コンポーザーなどとして、ジャズ、現代音楽、即興音楽など様々なフィールドで作品を創り上げるクリエイター。さらにポルトガルで音楽を通じた活動を展開する団体〈カーサ・デ・ムジカ〉にも深く関わっている。

 さて、この〈エンセンブレ・デ・ガメレォン〉。普通なら現地の演奏を模倣し、そこから追求していく(特に日本人はそういった傾向がある)ところだが、彼らの動きは違っていた。

 「伝統的なガムランに挑むのはスキルや奥にある背景などが欠けている僕たちには無理です。だから伝統的な奏法はそのままにしながら、自分たちなりのものを創ることにしたんです」

ENSEMBLE DE GAMELAO カンジェン・ロー アモルフォン(2015)

 こうして生まれたのが本作。確かに楽器の音色はガムランだが、作品は明らかに異質。もともと存在するミニマル・ミュージック的な要素がさらに高められていくようだ。他にも様々なゴングが発するさざ波のような音の響きで空間を埋め尽くす、即興的な要素を感じる作品(「セニョール・ゴング」)もある。

 「この作品には特に決まった楽譜は無くて、ただ指示があるだけです。メンバーはジャズやクラシック、即興系…いろいろなジャンルのプレイヤーやコンポーザーが集まっています。以前インドネシア大使館の皆さんの前で演奏する機会があったときは緊張しました。だって彼らの国の楽器でとんでもない事をするわけだから(笑)。でもインドネシアにも同様に先鋭的なグループがあるそうで、思いのほか好意的に受け止めてもらえました」

 ちなみにジョルジュは、近々リリースされるスティールパン奏者/クリエイターの町田良夫(本作の紹介者でもある)とのトリオ編成でのアルバムにも参加しているが、こちらは全く違う表現者としての顔だ。比べてみるのも面白いかもしれない。

JORGE QUEIJO Luminant アモルフォン(2016)