古今東西のありとあらゆる音楽を網羅した新しい音楽図鑑

 これまで20種類以上が刊行されてきた小学館の「図鑑NEO」シリーズ、最新刊は「音楽」。子供向けの図鑑ということで敷居の低い内容を想像していたら、かなりディープな音楽図鑑で驚いてしまった。その意味では大人にとっても知るべき〈知〉を与えてくれる図鑑といえる。

池辺晋一郎 『小学館の図鑑NEO 音楽 DVDつき』 小学館(2023)

 ここでは古代から現代まで古今東西ありとあらゆる音楽が網羅されており、紹介されている楽器の数は実に300以上。各ページにはQRコードがついており、実際にその音色を聞くこともできる。付属のDVDにはドラえもんとのび太が各地の音楽文化を巡る全70分の映像も収められている。

 本書の特色として挙げられるのが、全体を構成するうえで何らかの中心が設定されているのではなく、無数の点が散りばめられていることだ。たとえば、西洋のクラシック音楽を中心とし、〈第三世界〉のものを周縁に分類するのが古めかしい音楽世界地図だとすれば、この図鑑ではクラシック音楽も各地の古典音楽、大衆音楽、民俗音楽、さらにはロックやヒップホップも同じ〈音楽〉として分類されている。日本の章では雅楽や能楽と同様、沖縄とアイヌの音楽にも等しくスペースが与えられている。さらにいえば、従来であれば沖縄音楽を紹介するうえでどうしても沖縄本島という絶対的な中心を設定しがちだが、ここでは八重山諸島のものにも光があてられている。

 こうした中心なき構成は、インターネットを通じてあらゆる音楽文化に触れることのできる現代ならではのものであると同時に、西欧とクラシック音楽に軸足を置いてきた日本の音楽教育を捉え直すものでもあるはずだ。制作にあたっては膨大な人数の研究者と音楽家が関わっており(ピーター・バラカンさんやサカキマンゴーさん、常味裕司さん、町田良夫さんなど本誌読者には馴染みの方々も)、クレジットを見るだけで本書の完成までに費やされた労力と時間が伺い知れる。

 本書で音楽の世界の摩訶不思議に魅せられ、成長とともに音楽家や研究者の道を志す子供もいるかもしれない。個人的には、子供のころにこんな本と出会いたかったものである。