シャイ・マエストロを共同プロデューサーに迎え、劇的な飛躍を遂げた野心作
鮮やかな進化/深化に驚嘆するばかりである。チリ出身の女性シンガー・ソングライター/ギタリスト、カミラ・メサの6年ぶりのアルバム『ポータル』は、前作からの劇的な跳躍を感じさせる、一点の曇りもない傑作に仕上がっている。現代のジャズ界をしょってたつピアニスト、シャイ・マエストロを共同プロデューサーに迎えたことも大きかったのだろう。音響構築の妙が際立ち、時にプログラミングされたビートが前景化し、幻惑的シンセサイザーが彩りを添える本作は、もはやオーセンティックなうたものとしては片づけられない。特に音色や響きへの細かな配慮はこれまでになく緻密かつ徹底している。

コンテンポラリー・フォルクローレ、今様ジャズ、チェンバー・ポップなど、様々なタイプの曲が揃っている本作だが、新境地と言えるのが5曲目の“ポータル”だ。ビョークを想わせるハイトーン・ヴォイスがハープと絡み合いながら、徐々にドラムンベースのリズムがせりだしてくる。最新型のエレクトロニック・ミュージックへの彼女なりの回答といった趣きのこの曲が、本作の尖鋭性と実験性を象徴していると言える。これをタイトル・トラックにした意図は分かりすぎるほどよく分かる。
脇を固める布陣も実力派揃い。リズムの要となるドラムはシャイ・マエストロのバンドでも活躍するオフリー・ネヘミヤ、ピアノはイスラエルのジャズ・シーンを代表するGTOトリオのガティ・レハヴィ。マーガレット・デイヴィスによる美麗なハープの音色も印象的だ。もちろんカミラはギタリストとしても才気煥発なところを見せている。メロディックかつ複雑で入り組んだフレーズを淀みなく弾きこなすテクニックは前作同様だが、ギター・ソロにもうたごころが込められているのが新鮮だ。グレッチェン・パーラトとベッカ・スティーヴンスが参加した“アンカヴァード・グラウンド”も筆舌に尽くしがたい美しさでリスナーを魅了するに違いない。
LIVE INFORMATION
CAMILA MEZA presents “Portal”
2025年6月8日(日)ブルーノート東京
[1st]開場/開演:15:30/16:30
[2nd]開場/開演:18:30/19:30
2025年6月9日(月)ブルーノート東京
[1st]開場/開演:17:00/18:00
[2nd]開場/開演:19:45/20:30