「曲は植物の種のようなもの。適切な環境で育てられたなら、美しい樹木になる」
チリのサンティアゴ生まれで、現在はニューヨークを拠点に活動しているカミラ・メサ。7人編成のザ・ネクター・オーケストラとのコラボレーションによる『アンバー』は、弦楽四重奏団を含むアンサンブルによって、より幅広い音楽志向を打ち出した意欲作だ。
「ストリングスによって曲に込められた感情やドラマ性を表現することには、昔から興味がありました。それで今回は、昔に作ったものの、出来がいまひとつだったのでアルバムに採用しなかった3曲をまず試しにアレンジしてみたのですが、見違えるほどのものに仕上がりました。その結果、曲というのは、植物の種のようなもので、適切な環境で育てられたなら、美しい樹木になるというイメージを抱くことができました」
デヴィッド・ボウイが映画のためにパット・メセニーと共作した“ジス・イズ・ノット・アメリカ”。今回カミラは、この曲を取り上げている。パットは、2017年1月21日付のFacebookにこの原曲のヴィデオをアップしていたが、カミラがカヴァーしたことも、トランプ政権に対する異議申し立てに他ならない。
「その通りです。この曲を取り上げたのは、ふたつの偶然が重なったから。昨年、私はパット・メセニーのトリビュート・コンサートに出演する5名のギタリストのうちの一人に選ばれたので、彼の曲をかなり聴き返しました。そして昨年4月に本人の前でメセニーの曲を演奏し、10代の頃からのヒーローだった彼についに会うことができました。その一方で、米国ではトランプ政権によって、人々の間に不協和音が生じるようになりました。それで私も、現在の政治状況に対する自分の不満を表明する必要があると感じました」
これまでカミラは、チリだけでなく、プエルトリコやブラジルの曲も取り上げてきた。この才媛の音楽的な立脚点は、〈ジャズ〉であると同時に〈ラテン・アメリカ〉だ。今回もミルトン・ナシメントの曲やメキシコの曲“ククルクク・パロマ”などを取り上げている。
「中南米の人間にはどこかしら共通体験があり、お互いの国や文化のことをよく語り合います。私の最初のアルバム(2007年)はグレイト・アメリカン・ソングブック集的なものですが、その直後から私は米国の伝統的なポピュラー音楽と中南米音楽の繋がりを意識するようになり、自分が子供の頃から好きだった中南米の音楽と、新しく知った欧米の音楽をジャズ的にまとめることが、次のステップだと思いました。ブラジル音楽は、自分の声質や歌唱法にしっくりくると感じたので、他の中南米音楽以上に惹かれています。でも、私はいまだにブラジルを訪れたことがありません。自分でも信じられないんですけど」
LIVE INFORMATION
カミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラ
○9/9(月)10(火)
18:30/21:00開演(2ステージ)
会場:ブルーノート東京
出演:カミラ・メサ(g,vo)、エデン・ラディン(key,p)/ノーム・ウィーゼンバーグ(b)/小川慶太(perc,ds)/他