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曖昧でぼんやりしたもの

 そのように楽しい実験をしてきた長瀬が、音楽の森にさらに深く踏み込んで冒険した作品が、今回のコンセプト・アルバム『Mofu Mohu』。〈もふもふ〉というタイトルはとても彼女らしいが、そこには〈境界の曖昧性(リミナリティ)や超現実主義(シュルレアリスム)といった概念の形象化〉という本作のやや難解なコンセプトを象徴する意味合いがあるそうだ。プロデューサーの矢口はこのように説明する。

 「彼女は最終的に〈概念〉になりたい、と言っていて。ただ、そうなるためには〈長瀬有花〉という主語をモヤッとさせなくてはいけない。そのために二次元と三次元に分けたり、アイデンティティをなるべくぼかそうとしているのですが、いまは情報社会なので、例えば〈長瀬有花はインターネット・シンガー〉のように、誰かによって定義付けされてしまうというジレンマがあって。であれば、音楽自体がよりふわっとしたもの、空気みたいなアルバムを作れたら、僕らがめざす概念化に近づけるのではないか、という発想で企画したのが今作になります。テーマとしては〈曖昧でぼんやりしたもの〉。で、いろいろ調べていたら、曖昧模糊という四字熟語の〈模糊〉は〈ぼやっとしたもの〉という意味の中国から伝来した言葉で、中国語では〈モーフー〉と発音するらしいんですね。その言葉自体がかわいすぎるし、もふもふしたものを愛でる意味合いの〈モフる〉とのダブルミーニングにもなるので、このタイトルにしました」(矢口)。

長瀬有花 『Mofu Mohu』 RIOT MUSIC(2025)

 その〈曖昧〉というテーマは楽曲制作の面においても一貫している。打ち込みメインで作られていた前作『Launchvox』(2023年)に対して、今回はぼんやりした空気感を出すために、佐藤優介(想像力の血)や広村康平(ペペッターズ)らバンド・メンバーと共に山中湖のスタジオで合宿を行い、生演奏でレコーディング。プログラミングした音素材も一度スタジオのスピーカーから出力してリマイクするというこだわりようだ。アレンジ面では以前から興味があったというシューゲイズやドリーム・ポップなどに取り組み、先行曲“hikari”にはインディー・ロック界隈で注目を集めるkurayamisakaの清水正太郎が楽曲提供およびギターで参加。轟音の壁と儚い歌声が揺らめくジャパニーズ・シューゲイザーど真ん中の一曲に仕上がっている。

 「最初はもう少し感情やニュアンスを付けて歌うつもりだったんですけど〈もっと無でいい〉〈半分寝てる感じで〉と言われて。なるべく無意識状態で歌ったら、より曖昧で聴く人によって想像する景色が変わる曲になったと思います。シューゲイザーは音がデカくなるほど物理的な距離感が遠く感じるのが不思議で、でも自分の内面との距離はすごく縮まっていく感じがあって。過去の景色がどんどん引き出されて、記憶がぼんやり戻ってくる感覚になるのが好きですね」(長瀬)。