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何年もかけて聴かれること

 白日夢の如きサイケデリアが彼我の境界を溶かしていくサマー・ソング“ノートには鍵”と、シュールな脱力ダンス・ロック“ワンダフル・VHS”は長瀬自身の作詞作曲。今回のアルバムのコンセプトと関係なく作り溜めていたデモから採用されたものだというが、矢口のアレンジも相まって見事にどちらも抽象的ながらポップな楽曲に仕上がっている。

 「“ノートには鍵”の歌詞は自分自身のことを書いています。過去の自分は辛い時に音楽を聴いて助けられることが多かったけど、この活動を始めてからは幸せで嫌なことが全然なくなったので、それが逆に創作には良くないんじゃないか?ということを、パッと見はわからないようにぼかして書いていて。過去にフィーチャリングでご一緒したNyaronsのchikaさんも、引退する時に同じようなことを書いていたんです。曲に関してはレディオヘッドの“Creep”のコード進行がかっこいいなと思って、ギターでそういう感じに弾いていたら自然と出来ました。“ワンダフル・VHS”は本当に何も考えず5秒くらいで作った曲です。意味のない言葉をただただ歌うみたいな曲が欲しいなと思って、夏休みにおばあちゃんちに泊まりに行ったこととか、本当に好きな昔の記憶のことだけを考えながら作りました」(長瀬)。

 他にも「変なところとまっすぐなところのコントラストが楽しい曲」(長瀬)という変拍子だらけのプログレ・ポップ“スケルトン”から、佐藤のペンによるファンタジックな宇宙遊泳曲“われらスプートニク”、広村がシュルレアリスムをテーマに自動筆記(オートマティスム)などの概念を自分なりに消化して制作したというアヴァン・ポップ“遠くはなれる思考の聞き取り”まで、ワンダーな刺激に満ちた楽曲がズラリと並ぶ。実験精神は旺盛ながらあくまでもポピュラー。〈もふもふ〉としていて捉えどころはないかもしれないが、それがいい。間違いなくやがてクラシックになり得る野心作だ。

 「正直、これが流行ってドンと売れることはないと僕は確信していて(笑)。ただ、もともとのコンセプトとして、別にいまじゃなくてもいいから、5年後、10年後に〈こんな名盤があったらしい〉という聴かれ方をしてくればそれでいい、というのがあるんです。日本に限らず、世界で聴かれていい品質だと僕は思っているし、そういう長い目でいろんな人に聴かれるアートになればいいなと思ってます」(矢口)。

 「そういう話は矢口さんと常々していて。勢いはあるけど一過性で終わるのではなく、何年もかけて聴かれることが大事だと思いますし、そういう作品は作れたと思っています」(長瀬)。

 そんな『Mofu Mohu』のリリース直後には、アルバムを引っ提げた〈もふもふツアー〉が開催。昨年の初ツアー〈effect〉に続くものだが、今回は5月30日の東京・Shibuya WWWを皮切りに福岡、名古屋、仙台の計4都市4公演が行われる。

 「自分はライヴのことを〈今年の長瀬有花はこうなってます〉というのを見せる研究発表会みたいな場だと思っていて。長瀬有花はたぶんこれからも変容していくと思うので、ぜひそれを目撃してほしいなと思います」(長瀬)。 *北野 創

『Mofu Mohu』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。
左から、佐藤優介の2023年のシングル“反時代ゲーム”(KAKUBARHYTHM)、ペペッターズの2020年作『KUCD』(健友レコード)、清水正太郎が在籍するせだいの2025年作『Underground』(tomoran)