ロジャー・ニコルスが84歳で死去した。

ロジャーの死は、彼と長きにわたりコラボレートしてきたポール・ウィリアムスのInstagramなどを通じて明らかとなった。アンソロジストの濱田髙志が主宰するTV AGEのXアカウントによれば、ロジャーは現地時間2025年5月17日の深夜に息を引き取ったという。

ロジャー・ニコルスは、アメリカはモンタナ州出身の作曲家/ソングライター。中学時代の同級生マレイ・マクレオドと彼の妹メリンダの3人でロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズを結成すると、1968年にアルバム『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』をリリースした。

同アルバムは本国アメリカを含め、発売当時はまったく注目を集めなかったが、大滝詠一が自身のラジオで紹介するなど一部のコアなリスナーのみがキャッチしていた。1987年に長門芳郎の監修によって世界で初めてCD化され、大きな話題となった。

その後、ロジャーはポール・ウィリアムスとの出会いをきっかけにクロディーヌ・ロンジェの“It’s Hard To Say Goodbye”(1968年)、スリー・ドッグ・ナイトの“Out In The Country”、カーペンターズの“We’ve Only Just Begun”(1970年)や“Rainy Days and Mondays”(1971年)など多数のヒット曲を2人で手がけていく。

80年代には一時音楽活動から離れていたが、先述した『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』のCD化にあわせて日本を中心に熱心なリスナーが急増。そうしたリスナーの多くが90年代に渋谷系と呼ばれるムーブメントに関与したことで、ロジャーにも改めてスポットが当たることとなった。

そんなロジャー・ニコルスの訃報が届いたばかりだが、彼の手がけてきた楽曲をまとめた日本独自企画盤『ロジャー・ニコルス・ソングブック』が、2025年8月6日(水)にリリースされることが決定した。

本作は、濱田髙志が8年前からロジャーと共に選曲を進めてきたもので、初の本人公認による作品集となっている。代表曲から隠れた名曲、さらには世界初CD化、日本初CD化となる音源も収められたファン垂涎のソングブックだ。

生前のロジャー・ニコルスが残した今回の企画盤のためのコメントは以下のとおり。

素晴らしい!
この作品集が発売されることをとてもありがたいと思う。
トラックリストを眺めていると、とてもいい気分になるよ。
曲それぞれに、いろいろな想い出があるからね。

これまで一緒に仕事をした作詞家のなかで、
特に印象深いのはポール・ウィリアムスとビル・レーンのふたりだ。
そして、私が作曲した曲のなかで好きな曲を5つ挙げるなら
「We’ve Only Just Begun」「Rainy Days And Mondays」
「Out In The Country」「Times Of Your Life」そして「Let Me Be the One」。
どれもヒットした曲なんだ。

ありがとう、ありがとう、ありがとう!
これを手にとってくれるあなたは、私の忠実なファンだと思う。
私の音楽に対する熱意に心から感謝します。

2025年5月5日
ロジャー・ニコルス

彼がいなければ渋谷系も、また今日にいたる日本のポップスも大きく変わっていたに違いない。ソフトロックの流行を生み、良質な音楽を生み出し続けたロジャー・ニコルスがもうこの世にいないと思うと、ただただ悲しい気持ちになる。

そうした悲しみも背負いながら、彼が生前に日本のリスナーのための着手していた『ロジャー・ニコルス・ソングブック』を、今は心から楽しみにしていたい。

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS 『ロジャー・ニコルス・ソングブック』 ソニー(2025)

リリース日:2025年8月6日(水)
品番:SICP 31776~7 (2CD)
価格:2,860円(税込)
高音質Blu-spec CD2
監修・解説:濱田髙志
特別寄稿:朝妻一郎 、ポール・ウィリアムス
歌詞、対訳付
日本独自企画

TRACKLIST
CD 1
1. Just Beyond Your Smile/ザ・サンシャイン・カンパニー
2. Love So Fine/ニーナ・ショウ
3. Just What I’ve Been Looking For/ザ・ヴォーグス
4. Watching You/マリアン・ラブ
5. Can I Go/ダニー・ストリート
6. It’s Hard To Say Goodbye/クロディーヌ・ロンジェ
7. To Put Up With You/ザ・サンド・パイパーズ
8. Bitter Honey/ホリー・マッケラル
9. She’s Too Good To Me/ホセ・フェリシアーノ
10. I Can See Only You/アル・マルティーノ
11. Poto Flavus/ジョン・アンドリュース・タータグリア
12. Let’s Ride/ロイヤリティー
13. Always You/サンダウナーズ
14. The Drifter/ケニー・リンチ
15. Don’t Take Your Time/ザ・マッチ
16. Mornin’ I’ll Be Movin’ On/ザ・マッチ
17. The Age Of Astrology - Part I/ジョニー・マグナス
18. Trust/ポール・ウィリアムス
19. I Know You/ポール・ウィリアムス
20. Time/ザ・マッチ
21. Someday Man/ジョージィ・フェイム

CD 2
1. We’ve Only Just Begun/アンディ・ウィリアムス
2. When Love Is Near/オリジナル・キャスト
3. Only Me/ザ・ニュー・ドゥードゥルタウン・パイパーズ
4. Talk It Over In The Morning/エンゲルベルト・フンパーディンク
5. Do You Really Have A Heart/ゲイリー・パケット
6. So Many People/チェイス
7. Rainy Days And Mondays/キャロル・バーネット
8. I Won’t Last A Day Without You/シルク
9. I Kept On Loving You/ヘヴン・バウンド・ウィズ・トニー・スコッティ
10. I’m Gonna Find Her/スティーヴ・ローレンス
11. Somebody Waiting/カレン・ワイマン
12. Somethings Never Change/森山良子
13. Traveling Boy/アート・ガーファンクル
14. Have You Heard The News/ヴィッキー・カー
15. I’m Coming To The Best Part Of My Life/キャス・エリオット
16. Let Me Be The One/ヴィッキー・カー
17. That’s What Makes The Music Play/ジョニー・マティス
18. No Love Today/ミシェル・フィリップス
19. Times Of Your Life/ミシェル・ルグラン
20. Soyo kaze to watashi/トワ・エ・モワ
21. Look Around/ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ

◉世界初CD化
*国内初CD化

 


PROFILE: ROGER NICHOLS
ロジャー・ニコルスは、1940年9月17日、音楽家の両親のもとに生まれた。父はジャズのサックス奏者、母はクラシックのピアニスト、さらに兄がトランペットを習っていたことから、物心がついた頃にはすでに音楽は身近な存在であったという。家ではクラシックやビッグバンドのレコードが流れ、その影響で彼も自然と楽器への興味を抱くようになる。

幼い頃、最初に手解きを受けた楽器はピアノだったが、これは教師との相性が悪く、自ら練習を放棄。それ以後は独学で練習に励んでいる。そして、次に手にしたのがヴァイオリンで、こちらは個人教授を受け、高校ではオーケストラの一員として演奏に参加するなど本格的に取り組んだ。また、学生時代は並行してバスケットボール部にも在籍し、当時は〈スタープレイヤー〉だった。ところが、ある時期から彼の心は音楽とスポーツの間で揺れ動くようになり、遅疑逡巡の末にオーケストラでの活動を断念することを決意。ヴァイオリンを下取りに入れるが、その場で手にしたギターが再び彼を音楽の道へと引き戻した。

ロジャーは、中学の同級生マレイ・マクレオドとその妹メリンダとロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズというバンドを初めて組む。1968年に発表した1stアルバム『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』は、当時、泣かず飛ばずだったが、1987年に日本で世界初CD化され大きな話題となる。

一方、バンドのアルバム完成直後にロジャーはポール・ウィリアムスと出会い、彼らは数多くのヒット曲を共作した。2人が書いて初めて世に出た曲はクロディーヌ・ロンジェが歌った“It’s Hard To Say Goodbye”で、以降、ニコルス=ウィルアムス名義では、カーペンターズ“We’ve Only Just Begun”“Rainy Days and Mondays”をはじめ数多くのヒットがある。

ロジャーはほかにもビル・レーンら複数の作詞家と組んで共作、職業作曲家としてのキャリアを重ねるが、80年代半ば以降は音楽活動を中断。建築やアクセサリー販売などの仕事に従事し、時折、番組テーマやCM音楽のために作曲を続けている。

そんな折、90年代に渋谷系界隈で彼がさまざまな歌手のために書いた楽曲が注目を集め、2007年には、世界に先駆け日本制作で約40年ぶりとなるザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ名義の2ndアルバム『Full Circle』を、2012年には3rdアルバム『MY HEART IS HOME』を発表。その後、2016年にCMやテレビ/映画のために書かれた楽曲やデモ音源で編んだ『Roger Nichols Treasury』を発表している。

『ロジャー・ニコルス・ソングブック』の企画を立ち上げたのが2018年。しかし、翌年からのコロナ禍を受けて許諾作業が停滞、あわや頓挫と思われたが、2024年半ばから作業が再開。企画者の濱田髙志と共に選曲に関わり、生誕85周年記念盤となるはずだった。

しかし、2025年5月、2年前に発症したパーキンソン病の療養中に呼吸器系疾患の悪化で体調を崩し、5月17日午後11時53分、オレゴン州の自宅で、家族が見守る中、天に召された(享年84)。