
グラミー賞の殿堂入りを果たした“愛のプレリュード”を筆頭に名曲・名演42曲を収録!
ロジャー・ニコルスの名と出会ったのは、ポール・ウィリアムズの『オールド・ファッションド・ラヴ・ソング』だったから、1971年、随分前のことになる。若いシンガー・ソングライターたちが、借り物ではない自分自身の言葉やメロディを通じて、時代を共有するような意識をぼくらに問いかけていた頃で、このアルバムも例外でなかった。その中で二人が共作していた“愛のプレリュード”が、カーペンターズでヒットした。銀行のCMソングが発端で、結婚式のスタンダードとして定着する曲だが、後に、結婚からの旅立ちを祝うだけでなく、年齢を重ねていくことへの讃歌としても素敵じゃないか、などと感じられるようになった。
『ロジャー・ニコルス・ソングブック』は、アンディ・ウィリアムスが歌うその“愛のプレリュード”を含めて、ロジャー・ニコルスの作品を集め、初めての彼の公認という形で完成されたコンピレーション・アルバムだ。クロディーヌ・ロンジェの“さよならはつらいもの”、ザ・サンダウナーズの“オールウェイズ・ユー”、スティーヴ・ローレンスの“アイム・ゴナ・ファインド・ハー”等々との再会、あるいは初めての出会いが楽しめた。
日本でも熱心な支持を得ていて人で、ここでも、森山良子の“変わらぬ心”が聴けるし、竹内まりやが、以前、彼の“Heart to Heart”に詞をつけて歌っていたことを思い出したりもする。
聴き進むにつれ、ヴォーカル・ハーモニーやストリングスの美しさに、ああ、これがロジャー・ニコルスという宝の鉱脈の鍵だったなあ、と改めて耳を奪われたりもした。誰もが知る主要な高速道路を避けて、一般道路をスピードを緩めながら走る感覚とでも言えばいいだろうか。仰々しさや物々しさよりは、普段の、でも、少しばかり素敵な景色に出会ったなあ、と気の合う友だちと酒でも飲むときに自慢げに教えてあげたくなる、そんな心地のいいドライヴを楽しんだ感覚に近いものを味わった。