結成21年目を迎えたパンク・3ピースから、14年ぶりとなるニュー・アルバムが到着! 芳醇さを増した演奏に乗る天性のグッド・メロディーは、きっと君の街まで運ばれて……
MUGWUMPSは2004年に結成されているから、すでに20年以上のキャリアを積んでいる。2008年にアルバム『At Pop Speed』でデビュー後、同年にラグワゴンの日本ツアーをサポート。その頃はメロディックなUSパンクの影響が色濃い英語詞の3ピース・バンドで、高速の曲を得意としていた。変化が顕著になったのは堀江博久がプロデュースしたセカンド・アルバム『Hola, Quota!』(2011年)から。スーパーチャンクなどUSインディー・バンドも熱心に聴いていたコイケヒロユキ(ギター/ヴォーカル)の嗜好がリズムの解釈やギターのフレーズに表れはじめた。
途中に活動休止期間を挟んだが、メンバー各自の活動とバンドとしての活動を両立。ドラマーのKOZOは2015年から2023年までWiennersに在籍していたし、コイケは2016年から個人のプロジェクトEupholksを始動させ、インディー・ロックやポスト・ロックへの傾倒を強めて自由な創作に励んできた。
2019年には長年の付き合いだったというKOGAから、8年ぶりの作品であったEP『plural』を発表。その後コロナ禍の影響もあって制作が滞ったが、ついにセルフタイトルのサード・アルバム『MUGWUMPS』を完成させた。『plural』が初期からの延長線上で聴けるEPだったのに対し、Eupholksでシングルとアルバムに取り組んだ後の『MUGWUMPS』は、Eupholksの質感も部分的に反映しながら、アルバムとしてはむしろ過去最高にオーソドックスな佳曲揃いの作品に仕上がっている。
「それは『plural』を出した後に、立て続けにアルバムを作らなかったからかも。あのEPを作った頃はEupholksとの差別化を意識していて、MUGWUMPSでは〈パンク色が強いもの、3ピースで完結するようなもの〉を作ろうと思っていました。でも、アルバムの制作がいったん止まっている間に、Eupholksがどんどん進化していって。いまコイケがやりたいようにやったらEupholksに少し似ちゃうかもしれないけど、リズム隊が変われば全然違う感じになるんじゃないかなとも思った。そちらの方向で現在のコイケの色を出せたのが、このアルバムだと思います」(KOZO)。
ポップ・パンクに軸足を置いたまま、ビルト・トゥ・スピルやペイヴメント、ザ・バンドにも影響されている……そう言われても即座に音が思い浮かばないかもしれないが、本作を聴くとそれが納得できてしまう。そんなアルバムの冒頭を飾る“penguins”は、アレンジを変えていくなかで〈いまの気分〉にしっくりくる形が見えたという、本作の鍵になる曲。ここで進むべき方向を察してから、すでに書き上げていた曲の多くを破棄したそうだ。
「僕の場合、好みがガラッと変わるんじゃなくて、もともと好きなものはずっとあって、そこにどんどん足されていく感じなんです。考え方とかもあんまり変わってないけど、出てくるものはどうしても変わってしまうというか……それにあえて抗わないようにしました」(コイケヒロユキ)。
さらにストレートだった詞世界も、抽象的な語り口に移行。WATER CLOSETのASUKAとSHIMOが参加することを頭に置いて書いたという快活なパワー・ポップ“flush it away”も、曲の印象とは相反するような、心につきまとう不安との葛藤が詞に刻まれている。
また、アコースティック・ギターの響きが印象的な“this town is yours”の背景は、コイケの地元である静岡県三島市。そこで活動している人々へのシンパシーを表しながら、いまでは自分が他所の住人であることの寂しさも滲ませ、表現の深化を感じさせる。
バンドとしての語彙が豊富になったぶん、グッド・メロディーを生み出す天性の才能が伝わりやすくなったのは明らか。共演経験があるというNOT WONKのファンや、良質のインディー・ロックを愛する人々にも届いて欲しい、文字通り〈会心〉の一枚だ。
MUGWAMPSの作品と参加作。
左から、2011年のアルバム『Hola, Quota!』(INYA FACE)、2019年のミニ・アルバム『plural』、2020年のコンピ『HAPPY CHRISTMAS FROM SHIMOKITA』(共にKOGA)
Eupholksの2022年作『hua』(FLAKE SOUNDS)