劇を伴奏する音楽にはドラマの構造が入り込み、非音楽的な反復やモチーフが音楽の自律した運動を別な方向へ誘導することが往々にして起こる。それに映画では演出効果を狙って音を使うことは当然のことだ。本書「芥川也寸志とその時代」は、芥川の映画音楽を分析し、その特徴を明かすのだが、その方法として音楽が使用されたシーンをスチールやプロットなどを詳細に併記して、劇中の音楽の〈なぜ〉を明らかにする。100本を超える映画に作品を提供して、芥川のコンサート用作品に聴こえる明快な輪郭の旋律の動きが、やがて映画のなかで、単なる劇伴からドラマを支えるテーマ音楽としての役割を担うまでに育っていく様を浮かび上がらせる。