音楽の世界にだって、芥川賞はある!
芥川也寸志サントリー作曲賞、今年はライブ配信も!

 音楽の世界にだって、芥川賞はある。芥川也寸志サントリー作曲賞(旧称は芥川作曲賞)だ。

 作曲家・芥川也寸志の功績を讃え、90年から行われている新進日本人作曲家を対象とした現代音楽の登竜門。夏の風物詩、サントリーホール サマーフェステバルの名物企画でもある。

 審査対象となる3曲のオーケストラ作品が、この日に演奏される。対象となるのは、過去一年間に初演された新作ばかり。

 文学賞のほうが料亭で審査するのに対し、こちらは白昼堂々、サントリーホールの舞台で公開審査を行う。これは黛敏郎のアイディアらしい。

 これがまた見物なのだ。新しい音楽を選んでいく基準がどこにあるのか、どこに行こうとしているのか、期待度か完成度か、といった喧喧諤諤がライブで楽しめるのだから。

 毎回、審査となる3作品の演奏に先だって、2年前の受賞者による新作が披露される。アイスの棒に当たりと書いてあったらもう一本、受賞者には新たなオーケストラ作品が委嘱されるというわけである。

 今年は、稲森安太己の“ヒュポムネーマタ”の初演だ。リズム構造の追求をユニークな方法で音楽にした2年前の優勝作品。今回は、ピアノ協奏曲という形式を取りながら、彼ならではのユニークなコンセプトかつ完成度の高い作品が期待できるのではないか。

 今年のノミネート作曲家は、中堅、ベテラン、若手の3人。中堅作曲家である桑原ゆうの“タイム・アビス”は、昨年3月にドイツで初演された。国内での管弦楽作品の委嘱が減っている現在、海外からの委嘱やイヴェントで演奏された作品がノミネートされるケースが最近とくに多くなった。

 桑原の音楽は、地に足をしっかりと付いた作風という印象。文学など他の文化からのインスピレーションも重視、手堅くも表現豊かにまとめてくる。今回の作品は、テンポとリズムの仕掛けによって様々な時間を描くという。

 そして、すでにベテラン作曲家といっていい杉山洋一の“自画像”。この作品の初演は、昨年のサントリーホール サマーフェステバル(一柳慧プロデュースのオーケストラ スペース)。すでに檜舞台に上がっている作品が、新人を対象とした作曲賞にノミネートされる、なかなかないケースだ。

 作品は、作曲家が生きてきた半世紀における世界各国の戦争や紛争地域の国歌などを並べる、モダン・アート的な構想。それをオーケストラという集団で鳴らすというのも、またコンセプトの1つなのだろう。

 杉山は、指揮者としても活躍。作品の良さをさっと引き出すスタイルで、国内のオーケストラに客演することも増えてきた。そして、今回の作曲賞の指揮も彼が行う(2014年より、昨年を除き彼が指揮を担当)。候補者みずから、他の候補作をすべて演奏するのは、やはり前代未聞。

 若手のほうは、原島拓也だ。琵琶とオーケストラのための“寄せ木ファッション”は、日本音楽コンクール作曲部門入賞作品で、〈大正ロマン〉がテーマだという。琴や琵琶といった邦楽器を自在に羽ばたかせ、最も影響受けた音楽は中島みゆきの“夜会”だというポップな感覚がどのように響き、そして評価されるのか楽しみだ。

 審査員の顔ぶれにも注目。近藤譲と原田敬子に、2018年にこの賞を受賞したばかりの坂田直樹が加わる。ここ10年ほどの傾向だが、受賞して間もない若手に審査の一翼を担わせるのも、この賞のユニークな特色といえるだろう。

 そして、今回はライブ配信も行われる。ますます注目度がアップした選考会になるのは間違いない。

 


LIVE INFORMATION
第31回芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
2021年8月28日(土)サントリーホール 大ホール
開場/開演:14:20/15:00
出演:椎野伸一(ピアノ)/原島拓也/杉山洋一/新日本フィルハーモニー交響楽団

■曲目
第29回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱作品
稲森安太己:『ヒュポムネーマタ』ピアノとオーケストラのための 世界初演

第31回芥川也寸志サントリー作曲賞候補作品
杉山洋一:『自画像』オーケストラのための
原島拓也:『寄せ木ファッション』琵琶とオーケストラのための
桑原ゆう:『タイム・アビス』17人の奏者による2群のアンサンブルのための 日本初演

https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20210828_M_2.html