(C)Daisuke Oki

 

 音楽はときに台詞以上に感情を語る。不朽の名画『砂の器』のテーマ曲《ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』》は、まさにそうした作品だ。加藤剛扮する天才音楽家・和賀英良が、自身のピアノと共に『宿命』を指揮するラスト・シーン。音楽に彼の半生と悲哀の心情が重なり、台詞を超えた言葉を放つ。曲自体は、すこぶる美しい。だがそれゆえに、悲劇的な宿命が我々の心を熱くする。

 菅野光亮作の『宿命』が、約40年ぶりに全曲再演された。映画の根底にある社会的差別が、現代社会でいっそう問題視されているだけに、その意義は大きい。

【参考動画】74年の映画『砂の器』より“宿命”

 

 『宿命』の音楽は、ロマンティックな旋律が滔々と流れ、劇的な展開を遂げる。それは華麗かつ繊細なピアノと相まって、ラフマニノフを彷彿させる。21世紀の今、かような直に胸を打つ音楽は貴重だ。さらに本作を監修した芥川也寸志作品の演奏も、公演の音楽的意義を深める。

 西本智実のドラマティックな指揮は、むろん本作に相応しく、彼女の作品への共感と社会問題への取り組みも熱演を後押しする。外山啓介の色彩感豊かなピアノへの期待も大きい。しかも彼の活躍ぶりと風貌には、映画の加藤剛のイメージが重なる。オーケストラは、充実顕著な日本フィルハーモニー交響楽団。この日本屈指の顔ぶれがおくるライヴは、美しく感動的な音楽がもたらす喜びと哀しみを、心の芯から体感させてくれる。

 

 

LIVE INFORMATION

西本智実指揮「宿命」 ~映画『砂の器』公開40周年記念~

美しくも哀しい運命の旋律!

日時:2014年11月2日(日)14:30開場 15:00開演
会場:昭和女子大学人見記念講堂コンサートホール
出演:西本智実(指揮)、外山啓介(ピアノ)、日本フィルハーモニー交響楽団
曲目:
菅野光亮 ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』
芥川也寸志 「弦楽器のためのトリプティーク」
ラフマニノフ 前奏曲作品3-2「鐘」、前奏曲作品23-4、ヴォカリーズ(リチャードソン編曲)他

billboard-cc.com/classics/
※チケットのお求めはプレイガイドにて

 

(C)Daisuke Oki

 

『砂の器』の映画のビデオを初めて観たのは、私がまだ中学生の頃だった。あまりにも悲しい宿命に大きな衝撃を覚え、思わず、すぐに原作を買い求めた。美しい日本の情景の中で繰り広げられる回想シーン…。この組曲『宿命』の音楽があったからこそ、私はこの作品を今も傍らに置いている。
西本智実(指揮)

 

(C)Yuji Hori

 

『宿命』、その言葉の持つ意味の深さ…。それを音で伝えることができたら幸いです。このような素晴らしい映画の音楽を演奏させていただくことを、心から光栄に思います。
外山啓介(ピアノ)