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ミャンマー・ナガ族の歌とインドの楽器ディルルバの異色な融合

――1曲目の“SECAI”はミャンマーのナガ族の歌が使われているそうですが、現地で録音されたのですか?

「井口寛さんというレコーディングエンジニアの方がいるんですけど、彼はミャンマーの僻地に行って、その村にしか伝承されてない音楽を採集している音楽版インディアナ・ジョーンズみたいな人なんです(笑)。彼とは長い付き合いで、現地で録った音を送ってもらっていたんですけど、ナガ族の歌を聴いた時、〈これで音楽を作れると面白いですね〉という話を井口さんとしていて、それを実現させました。

この曲と4曲目の“Lore”では、ディルルバというインドの楽器をフィーチャーしているんですけど、ディルルバ奏者のジャティンダー・シン・デュルハイレイ(Jatinder Singh Durhailay)が僕の初期のアルバムをずっと聴いてくれていて、〈一緒に曲を作らない?〉って声をかけてくれたんです。

ディルルバとミャンマーの部族の歌はすごく相性が良いなと思ったので、“SECAI”ではその2つを組み合わせてみました。ジャティンダーがディルルバの演奏をいっぱい送ってくれたので、それを素材にして曲を作り、ミャンマーの歌を混ぜ合わせてみたんです」

――インストはもう一曲、 “Under The Starry Sky”が収録されています。ガタゴトと鳴る音やキューッと軋む音が入っている点が気になりました。

「『SEASONS』の時と同様、ピアノのメカニカルノイズをかなり大きく出しているんです。

この曲では、僕のピアノにホリー・ケニフがシンセサイザーやアンビエンスを足してくれています。アメリカのアンビエント系アーティストで、旦那さんのキース・ケニフもミュージシャンなのですが、夫婦で交流があるんです。ホリーから〈一緒に曲を作らない?〉と誘ってもらって作った曲なんですよね」

 

子供の眼差しの先にある未来

――今回、様々な人の声をフィーチャーしてみて、改めて感じた声の魅力や面白さはありました?

「楽器は弾く人によって音色が変わってきますが、声は楽器に比べてはるかに情報量が多い。歌声は、声色や歌い方、ちょっとしたアクセントの付け方など、その人にしかない要素がすごく詰まった宝物なんです。そういうものを提供してもらえるというのは、すごくありがたいというか。今回のプロジェクトには5年ぐらいかかったんですけど、もうちょっと突き詰めてみたいと思いました。これからの作品作りにおいて、可能性がすごく広がった気がします」

――メッセージを伝えたい、という気持ちがアルバムの出発点にあったということですが、小瀬村さんがこのアルバムに込めた想いとは、どんなものだったのでしょう。

「歌詞でメッセージを伝えるというより、音楽全体で伝わればいいなって思っているんです。いろんな国の楽器、言語、ジャンルを融合した音楽を通じて、いろんなものが共生できる、という大きなメッセージがこのアルバムにはあります。それは音楽の世界だから可能なユートピアかもしれないけど、もしかしたら、ほかのことでも実現できるかもしれないっていうことがアルバムを聴いてくれた人に伝わると嬉しいですね。

あと、やる前から諦めちゃうことってあるじゃないですか。こんなことありえないとか、無理だとか。でも、そこで立ち止まってしまうと新しいものは生まれない。これまでは〈外国のアーティストに日本語を歌ってもらうなんてどうなの?〉と思っていたんですけど、やってみたらすごく良いものができたし、ミスター・ハドソンとのコラボレーションもうまくいった。理想論かもしれませんが、いろんなことに挑戦する勇気も、このアルバムを通じて新しい世代の人に伝わってくれると良いなと思います」

――多様性というのは大切ですが、闇雲にいろんなものを詰め込むと軋轢が生まれてしまう。そこに調和を生み出すことが重要だということも本作からは伝わってきますね。

「僕が音楽でやっていることって、そういうことなんです。生まれも、育ちも、住んでいる場所も違う人たちと一曲一曲向き合って、お互いの音楽をリスペクトしながら何か一緒にできる道がないか探る。そこで気持ちが一方的になりすぎちゃうと良くないんです。だから、相手がやりたいことがあるんだったら、それに対して自分が寄り添っていけるところは寄り添うようにする。

今回、曲によって作り方が違うのはコミュニケーションの結果なんです。お互いに相手のことを尊重して、相手の音楽が好きじゃないと作業は続けられないし、そういう気持ちじゃないと良いものは生まれないんですよね」

――それは日頃の人間関係にも言えることですね。小瀬村さんの息子さんが誰かに肩車されているアルバムのジャケットが印象的なのですが、これはどういう写真なのでしょうか。

「家族で長崎の五島っていう島に行った時の写真です。そこに写真家の阿部(裕介)さんが現地の友達と経営している范冰冰(ファンビンビン)という一棟貸しの宿があるんですけど、そこで何日か過ごした時に阿部さんが何気なく撮った写真なんですね。

今回のアルバムはどんなカバーにするのかすごく迷ったんですよ。この音楽やメッセージを視覚で表現することはできないと思って。でも、この写真を見た時に、子供の眼差しが未来を見ているように感じたんです。アルバムを作り始めたパンデミックの時期も、今も未来に希望を持ちづらかったじゃないですか。そんななかで、〈未来はこの視線の先にある〉という気持ちで、この写真をカバーに選びました」

――子供と一緒に笑える未来に向かって歩き出そうと。

「そうです。それがすべてかなって思いますね」

 


RELEASE INFORMATION

小瀬村晶 『MIRAI』 Decca/schole(2025)

リリース日:2025年6月27日(金)
配信リンク:https://akirakosemura.lnk.to/miraiPR

■CD
品番:SCH-087
価格:3,300円(税込)

■LP
品番:UCJY-9003
価格;4,950円(税込)

TRACKLIST
1. SECAI
2. Atlas (feat. Tom Adams)
3. Always You (feat. Mr Hudson)
4. Lore
5. Autumn Moon (feat. Miyuki Hatakeyama)
6. The Walking Man (feat. Baths)
7. Under The Starry Sky
8. Underflow (feat. Saro)
9. MIRAI (feat. Benjamin Gustafsson)
10. Ongaku (feat. Devendra Banhart)

参加ゲスト:デヴェンドラ・バンハート、畠山美由紀、トム・アダムス、ミスター・ハドソン、ベンジャミン・グスタフソン、サロ、バス
プロデュース:小瀬村晶
マスタリング: Zino Mikorey

 


PROFILE: 小瀬村 晶
1985年6月6日、東京生まれの作曲家。在学中の2007年にソロアルバム『It’s On Everything』を豪レーベルより発表後、自身のレーベルschole recordsを設立。以降、ソロアルバムをコンスタントに発表しながら映画やテレビドラマ、ゲーム、舞台、CMの音楽制作で活躍。主なスコア作品に瀬々敬久監督による長編映画「ラーゲリより愛を込めて」「少年と犬」、河瀨直美監督による長編映画「朝が来る」(カンヌ国際映画祭公式作品)、ハリウッド制作のドラマ「Love Is__ 」、石田スイ総合プロデュースによるNintendo Switchのゲーム「ジャックジャンヌ」、テレビアニメ「ハニーレモンソーダ」「青のオーケストラ」、TBS系テレビドラマ「中学聖日記」、ミラノ万博・日本館展示作品などがあり、米Amazonオリジナル映画「ジョナス・ブラザーズ 復活への旅」やヴェネチア映画祭・金獅子賞を受賞したフランス人監督オドレイ・ディワンのデビュー作「Mais vous êtes fous (Losing It)」の劇中音楽がある。またスティーヴン・スピルバーグ監督作品「フェイブルマンズ」の米国予告編映像にも楽曲が使用された。近年は国際的なブランドとのコラボレーションが多く、是枝裕和監督が手掛けたSK-II STUDIOのドキュメンタリー「The Center Lane(池江璃花子)」やアパレルブランドTAKAHIROMIYASHITATheSoloist. SS22/AW23コレクションランウェイの音楽、ドゥ・ラ・メール ブルーハート、ランドローバー、ロクシタンへの楽曲提供、米アーティストのデヴェンドラ・バンハートとの共作など特定の枠に収まらない独自の活動を展開。またSpotifyが発表する〈海外で最も再生された日本人アーティスト/楽曲 Top 10〉に2017年、2018年に連続でランクインしたほか、米国メディア〈Pitchfork〉、豪新聞〈The Age〉、フランス公共放送〈FIP〉、カナダ公共放送〈Ici Musique〉にその才能を賞賛されるなど国内外から注目されている。2022年に名門デッカと契約を結び、メジャーデビューアルバム『SEASONS』をワールドリリース。ジョン・レジェンドの新作『LEGEND ACT I & II』収録の“The Other Ones (feat. Rapsody)”で楽曲がサンプリング使用されるなど世界を舞台とした活躍を続けている。

飽きることの無い彼の旋律は果てしなく、他の音楽家と一線を画するものだ――Pitchfork
ファンタスティックだ――ジャイルス・ピーターソン
ピースフルで喚起的な音楽――Fact Magazine

■小瀬村晶各種リンク
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