henrytennisの……といった紹介より、もう全く新しいグループの誕生だ、と宣言したいくらいだ。ハーモニーが中心にあり、コーラスによってメロディの良さと美しさを重奏的に彩り、ノスタルジーを喚起させる音作りとアレンジが、ラブ&ピースの時代の60年代ポップスのマナーを継承していて……MellMellとはそんなバンドとして、我々の前に堂々と全貌を見せてくれた。こんなバンド、今、少なくとも日本のどこを探してもそう簡単には見つからない。

ボーカル/ギターのオクムラヨシヒト(henrytennis)、キーボードのカメダタク(オワリカラ)、ボーカルの夢千代(盃唐浪漫)、ベースの前田竜希、そして先ごろ正式加入が発表されたギターの黒澤勇人(毛玉)によるMellMellがファーストアルバム『すてきな果実』を発表した。ゲストにRyo Hamamotoが3曲目“サテンの悪魔”のギターと編曲で、須藤俊明がドラムとパーカッション、エンジニアリングでも参加したこの作品は、ソングライターのオクムラが長年培ってきたハーモニーやコーラスへの思慕と、60年代の洋楽への愛情がまさしくみずみずしい果実となった、21世紀も4半世紀が過ぎようとしている今となっては奇跡のようなスウィートポップス集だ。とにかくその甘酸っぱいハーモニーとドリーミーな旋律に触れてみてほしい。ポップスが幸せだった時代は確かにかつてあり、そしてそのときに蒔かれた種は今だって水が撒かれるのを待っているということに気づくだろう。

かつてビリー・ホリデイは黒人差別へのやるせない抵抗を“奇妙な果実”という作品を通して咽び泣くように歌った。彼女がモチーフにした〈果実〉は理不尽に殺められ木に吊るされた黒人の死屍だったわけだが、MellMellはジャケットに写るパイナップルやバナナを、ポップスのたわわに実った幸せの象徴として描こうとしていることがわかる。今回はオクムラと夢千代にバンドの本質部分について訊いた。

MellMell 『すてきな果実』 TBKgao(2025)

 

ポップな歌ものバンドへの原点回帰

──もともとhenrytennisでのソングライティングの方法が歌ものの曲を作るようにして、そこから歌を抜いてインストゥルメンタルにしていく……というものだそうですね。そう考えると、自然に歌ものバンドであるMellMellをスタートさせたように思うのですが、いきさつから教えてもらえますか。

オクムラヨシヒト「僕のキャリアを振り返ると、実は最初、歌ものバンドをやっていたんですけど、シカゴ音響派とか古いジャズとかフュージョンとかに興味が湧いたのもあって、そのポップバンドは解散することになって。そこからインストバンドであるhenrytennisを始めることになったんです。

henrytennisはそうして20年以上やってきて、〈ゆっくりなペースになったとしても新作を頑張って作ろう〉みたいな感じになっているんですけど、同時にポップバンド……歌もののバンドもまたやりたいって思い始めたんですね。それで結成したのがMellMellです。

言っていただいた通り、僕はインスト曲を作る際もひとまず歌もので作るんですよ。今までいろいろと試してみたんですけど、その方法が一番完成度が高い自覚もあったので、改めて歌ものの曲を演奏するバンドをやってみようかなと」

──原点に立ち返ったわけですね。

オクムラ「そうですね。自分の母が音楽好きな画家だったんですけど、その影響で小学生の頃に音楽を好きになって。お年玉もフルに使ってひたすらCDを買い続ける子供になったんです。

いろんな音楽を知っていくうち、自分の中の〈クオリティが高い〉ものを好みの範疇で作り上げるようになったんですね。多くの人がいろいろな音楽を聴いていて、それぞれ好みが違う。そういうことに鑑みて、〈クオリティが高い〉って言葉は危険だと思って。だから、自分のセンスで良いと思ったものを信じよう……と、決めたんです」