即興演奏や実験音楽を出自に持つ黒澤勇人(ヴォーカル/ギター)を中心とするポップ・バンド、毛玉。彼らが2021年4月1日にリリースしたニュー・アルバム『地下で待つ』は、過去の作品とは異なる音と意味合いを持つ作品になっている。
前作『まちのあかり』(2019年)のリリース後に新メンバー2人を加えて5人編成になり、毛玉は新たな一歩を踏み出したかに思えた。しかし、コロナ禍の影響は彼らにとってもやはり小さくなかったようで、バンドで録音した曲も収められているものの、結果的に黒澤による宅録が制作の中心になっている。また、これまで3作を発表したHEADZからのリリースではなく自主リリースであることも、作品の特殊性を物語っている。黒澤いわく、このアルバムは〈2020年の停滞と奮闘の記録〉だ。
今回は、そんな『地下で待つ』の背景について黒澤に訊いた。インタビューには、毛玉の演奏にたびたび参加し、黒澤とのデュオで即興演奏作品『we oscillate!』(2019年)を吹き込んだミュージシャンのhikaru yamada(hikaru yamada and the librarians/feather shuttles forever)にもう一人の聞き手として参加してもらった。
生活環境の変化、コロナ禍による制約、それを逆手に取った自由度の高い制作……。黒澤によるセルフ・ライナーノーツ(Bandcampでアルバムを購入するとダウンロードできる)を参照しながら、ポジティヴともネガティヴとも言いがたい複雑な表情を浮かべた『地下で待つ』というアルバムの、さらにその深層を探った。
5人編成になった毛玉
――前作『まちのあかり』のリリース後、2019年4月のライブで深田篤史さんと岸真由子さんが加入して、現在の5人編成になったんですよね。
「コーラスとキーボードの岸さんにはセカンド・アルバム(2016年作『しあわせの魔法』)のときから参加してもらっていて、ライブにも出てもらっていたので、自然な流れなんです。ギターの深田くんは大学時代からの友人で、バンドを一緒にやっていた時期もありました。そのバンドには、yamadaくんが参加したこともありましたね」
――(hikaru yamada)黒澤さんと深田さんは仲がよくて、かなり昔から一緒にやっていますよね。毛玉をやる前、#NULL!という黒澤さんのインスト・バンドがあって、その最終形態に私がギターで参加しました。黒澤さんと深田さんと私の3人がギター、上野(翔)くんがベースで――。
「毛玉のドラマーの露木(達也)さんがドラムでした。毛玉とメンバーは共通していますが、インストで音楽性もちがっていましたね」
――(yamada)検索したら、#NULL!の2013年のライブ映像がありました。それと、懐かしい写真も出てきましたね。
毛玉(黒澤勇人/上野翔/落合四郎/露木達也/五野上欽也)+影山朋子/山田光/福岡宏紀/池田若菜@ SuperDeluxe(2015年11月1日) pic.twitter.com/KHZrcZcw9N
— Eigen Kino (@eigenkino) November 6, 2015
「この写真は六本木のSuperDeluxeでやった、ファースト(2014年作『新しい生活』)のレコ発ですね。このときは、空気公団に対バンとして出てもらいました」
――マリンバ/ヴィブラフォン奏者の影山朋子さん、サクソフォニストの福岡宏紀さん、フルート奏者の池田若菜さん、そしてyamadaさんと、すごいメンバーで大合奏していますね。
「そうですね。この日、基本は5人で演奏しましたが、メンバーが出たり入ったり、曲によって変えていましたね」
――(yamada)深田さんは、いつ頃から毛玉に参加しているんですか?
「サード・アルバム(『まちのあかり』)の頃にギターの上野くんが活動休止して、〈ライブのギタリストをどうしよう?〉と思ったときに、頼むとしたら彼しかいないだろうと思いました。深田くんはギターがすごく上手いので」
――毛玉に歴史あり、ですね。では、もう一人の新メンバーである岸さんが参加した経緯は?
「ファーストとセカンドの録音とミックスをしてくれた岡田靖さんから、セカンドを作るときに〈毛玉には女声コーラスがあったほうがいい〉と言われて紹介していただきました。それで、レコーディングでコーラスをやってもらったんです。声もすごくいいし、人柄も優しい方なので、そのままいろいろとバンドのことをお願いするようになりました」
――サポートで参加していたミュージシャンをメンバーとして迎え入れることは、バンドが大きく変化する要因になりますよね。その決断をされた理由を訊きたいです。
「上野くんの活動休止が大きいとは思います。このままだとメンバーが減っていって、パワー・ダウンしていきそうだと思ってしまって。そこで、メンバーが2人一気に増えるのもおもしろいんじゃないかなと。
深田くんは、録音では前作の最後の曲“まちのあかり”に参加してもらっていて、次のアルバムから全面的に参加してもらおうと思っていたんです。それだったらサポートではないなと思いましたし、岸さんにも毎回ライブに出てもらっていたのでメンバーでいいんじゃないかなと。
いまの5人編成はいい感じで、バランスは悪くはないと思います」