衝撃のデビューから25年、異能のシンガーソングライター、鬼束ちひろの初期4年間を振り返る重要なアイテムがこのたびリリースされた。3枚組Blu-ray BOX「WITHOUT MY DREAM -Second Code-」がそれだ。彼女がアーティストとして歩みを始めたばかりの頃から、絶大な人気を獲得して日本武道館の大舞台に立つまで、激動のなかをがむしゃらに進む鬼束を生々しく映し出すこの映像集。ディスク1は、2001年に開催されたファーストツアー〈CHIHIRO ONITSUKA LIVE TOUR 2001〉のファイナル公演の模様を伝える〈CRADLE ON MY NOISE L*I*V*E ~LIVE INSOMNIA VIDEO EDITION~〉、ディスク2には、一夜限りの伝説の武道館ライブを記録した〈ULTIMATE CRASH ’02 LIVE AT BUDOKAN〉が収録されており、どちらも今回初のBlu-ray化となり、VHS & DVD化の際には未収録だったテイクもふんだんに散りばめられている(ディスク3は初期4年間に制作されたプロモクリップをすべて網羅した〈ME AND MY DEVIL & PRINCESS BELIEVER-Music Video Collection-〉を収録)。

言うまでもなく見どころは、圧倒的な表現力で観る者を釘付けにする稀有なライブパフォーマンスだ。曲によって別の人格が憑依したかのようにガラリと歌い方を変化させるところ、またひと声発するだけで会場の空気を様変わりさせてしまうところなど、異次元の凄みが随所に散りばめられているが、実際のところ、ライブ時の彼女はどのような様子だったのか。それを知るには当時いちばん近くにいた方にお話を伺うのがいいだろう、ということで初期4年間にメインで舞台監督を務められた萩原克彦氏に会いに行った。DREAMS COME TRUE、TM NETWORK、レベッカ、チャットモンチーから、かのジェームス・ブラウンまで数えきれないほどのアーティストたちのステージをサポートしてきた音楽業界の大ベテランが振り返る鬼束ちひろの赤裸々な裏側。

鬼束ちひろ 『WITHOUT MY DREAM -Second Code-』 ユニバーサル(2025)

 

萩原克彦

小節のアタマに入った瞬間、ガラッとモードが切り替わる

――鬼束さんとの最初の出会いというのは?

「『the Monster』の頃のDREAMS COME TRUEを担当していたときだったかな? 〈面白いアーティストを紹介する〉と誘われて白金のスタジオに行き、プロデューサーの土屋(望)さんに紹介された記憶があります。そこでいきなり“月光”を聴かされて、その場で固まってしまったんです。なんじゃこの子は!?って」

――曲を通じての出会いが最初だったと。

「そうです。何この歌詞!?ってすごく衝撃を受けました。それからジャクソン・ブラウンのような“BACK DOOR”を聴いて、〈この曲調の差は何!?〉と思ったこともおぼえています。それから、〈今度ライブをやるので手伝ってほしい〉と言われて、〈面白い、やりましょう〉という話になりました」

――彼女の第一印象についてお聞かせください。

「可愛い子でしたよ。〈はじめまして……〉とちょっと緊張気味で、落ち着かない感じで。でも気さくに話していましたね。こちらが過去にどんなことをやってきたのかとかを気にしない子だったから、〈こんなことをやるのが舞台監督のお仕事だよ〉と説明したんです。土屋さんが、〈ステージでやりたいことがあったら全部ハギさんに言うんだよ〉と彼女に言っていましたっけ」

――曲と実像とのギャップはかなりのものがあったと。

「曲の1Aのひと言目に入るまではただの普通の女の子。で、小節のアタマに入った瞬間、ガラッとモードが切り替わるんです。歌い終わったらまた普通に戻るんですけどね。

あと羽毛ちゃん(サウンドプロデューサーの羽毛田丈史)がまだピアノを弾き終わっていないのに、うしろへ移動してコーラを飲み出したり。こちらとしては、〈曲が終わるまでそこに立っててよ、照明を残すんだから〉と言ったことがあります(笑)」

――(笑)。

「コーラの缶をどこでもずっと持っているから、心配して〈土屋さん、これイイの?〉と訊いたら、〈好きだからいいんじゃない〉ということでした。

それで、何曲かやるってなったあるとき、いきなり裸足になったんです。そうやって歌うのが好きなの?と訊いたら、地に足がついている感じがして声が出しやすいんだと。〈じゃあステージでもそうしようか〉となったんですよね」

――なるほど!

「〈ステージ上は俺がかならずキレイにしておくよ〉と約束して。それで100%ウールの半円状のブルーのカーペットを作ったんです。あれね、うちの会社の倉庫にまだ残っているんですよね。いろんな人のライブでも使って、すごく重宝しました」