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小山実稚恵がさらなる深化を感じさせる新録音を含むベスト・アルバムをリリース

 常に作品の本質を紡ぎ出し、聴き手に感動を与えるピアニストの小山実稚恵。ここ数年は特にバッハの“ゴルトベルク変奏曲”やベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタへの取り組みによってさらにその音楽を深化させている彼女は今年演奏活動40周年を迎え、記念リサイタルやサントリーホールでの全4回の協奏曲シリーズ〈Concerto<以心伝心>〉を行い、新譜『アルバム』もリリース。

 「ベスト・アルバムは2016年の『カンタービレ』以来ですね。今回はいままでの音源のほか、新たに3曲を録音いたしました。まずショパンは入れたいと思い、新しく発見されたワルツイ短調(2024年公表)と少しドラマティックなマズルカ第29番を選びました」

小山実稚恵 『アルバム』 ソニー(2025)

 もう一曲はチャイコフスキーの“四季”から“10月 秋の歌”。チャイコフスキーの旋律の美しさと繊細さが際立つ楽曲が、小山の歌心あふれる演奏で紡がれている。

 「チャイコフスキーコンクールを受けたときに演奏した思い出の曲で、ちょうど秋リリースのアルバムですし、ぴったりかなと思い選びました。“四季”はアンコールで演奏することはありましたが、なかなかコンサートプログラムとして演奏する機会がないので、珍しい選曲といえるかもしれません。小さな作品ですが、そのなかに様々な色彩があってとても素敵ですよね」

 『アルバム』はバッハの“ゴルトベルク変奏曲”の〈アリア〉からはじまり、新録音のショパンとチャイコフスキーが続き、バッハの“平均律”第1巻第4番の前奏曲、シューマンにブラームス、シューベルトが続いていく。最後を飾るのはシューマン=リストの“献呈”だ。

 「なにしろたくさんすばらしい小品があるので、選ぶのは大変でした。曲順もいろいろな候補が出ました。ただ、最後は幸せな雰囲気で終わりたい、というのがあり、“献呈”を最後にして……というのは早く決まりましたね。これまでの小品をあつめたアルバムと比べると落ち着いた曲想のものが多いですが、心に訴えかけてくるようなあたたかさのある楽曲を並べられたと思います」

 曲想はもちろんだが、小山の楽曲への深い愛情が感じられる演奏だからこそ、より作品の世界観が感じられる内容となった記念すべき盤となっている。40周年という節目を迎え、さらにその音楽の深化を感じさせる内容である。