インタビュー

小山実稚恵、一層深化した豊かなピアニズムでベートーヴェンの〈魂〉に触れた集大成的録音を語る

小山実稚恵『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番・第31番・第32番』

©大塚日出樹

〈深化〉し続けるピアニスト、小山実稚恵のベートーヴェンの集大成がここに!

 音楽への誠実な姿勢、探求心が紡ぎ出すスケールの大きな音楽が常に多くの聴衆を魅了する小山実稚恵。2019年からはリサイタル・シリーズ〈ベートーヴェン、そして…〉をスタートし、昨年7月は『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番&第29番「ハンマークラヴィーア」』をリリース。小山の演奏はベートーヴェンという存在の大きさ、彼の音楽に込められた豊かな人間性を伝えてくれる。待望のベートーヴェン・アルバム第2弾は『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番・第31番・第32番』。深化の歩みがさらに豊かな響きとなって届いてくるようだ。

小山実稚恵 『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番・第31番・第32番』 ソニー(2021)

 「かつては〈ピアノを弾く〉ということに精一杯でしたが、私の感じていることや感動を音に乗せて届けることが自然にできるようになってきたと思います。〈どう弾くか〉ではなく、〈どう感じるか〉により意識が向くようになったのかもしれません。それと共に身体の使い方が変わってきたような気がしていて……」

 小山は2006年から12年間、リサイタルシリーズ〈小山実稚恵の世界〉を開催し、その際もベートーヴェンの最後の3つのソナタを演奏。以後、折に触れてベートーヴェンの作品の演奏を聴かせてくれているが、そのたびに音色、そして音楽づくりに〈深化〉が感じられる。今回のアルバムでも、特にフォルテの音色の豊かで包み込まれるような響きが印象的だ。

 「〈フォルテ〉を見たときにただ強く弾くのではなく、音の裏にあるものを読み取り、どのような想いがそこにあるのかを考えます。そしてフォルテに至るまでの過程やその後など、前後関係を検討することで、同じ強弱記号でも曲の中で様々な色や感情を作り出すことができるのです。こうした〈俯瞰〉は、平野昭先生とピアノ曲やピアノを含む様々なジャンルの作品について深く検討した音楽雑誌での3年間の連載、そしてそれを本にまとめた経験が大きかったかもしれません。様々な角度からベートーヴェンを見て、考える機会を頂きましたし、作品の構造や技術的なものの美しさ以上に、込められた想いや魂のようなものに触れられるようになったと思います」

 今回の録音も大賀ホールで行い、64年製のスタインウェイを使用。このピアノからのインスピレーションも大きかったという。

 「弾いているうちに様々な音が生み出されていくピアノです。レコーディングの期間中も常に音色や状態が変化するので、そのときの音色にあった作品を選んで録っていきました。それぞれの曲にあった最高の状態のピアノの音で録音でき、とても幸せです」

 ベートーヴェンの録音もひと段落し、〈ベートーヴェン、そして…〉も終盤だが、小山は今後も更なる挑戦で聴衆に驚きと感動を与えてくれるはずだ。

 


LIVE INFORMATION

小山実稚恵ピアノシリーズ『ベートーヴェン、そして…』
第5回〈結晶体〉

2021年6月27日(日)大阪 住友生命いずみホール
2021年7月3日(土)北海道・札幌コンサートホール Kitara 小ホール

所沢市民文化センター 新シリーズ第1回[リサイタル](全3回)
2021年7月24日(土)埼玉・所沢市民文化センターミューズ

https://www.amati-tokyo.com/artist/piano/post_30.php

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