
いかついメタル・バンドのようなアーティスト名でありながら、その実、幽玄なアンビエント・フォークを鳴らすヘレン・バレンタインによるプロジェクト、スカルクラッシャー。2020年のEP『Skullcrusher』から少しずつ注目され、ファースト・アルバム『Quiet The Room』(2022年)では親密なソングライティングと繊細な音響の両立を実現し、ジュリアナ・バーウィックやグルーパーに続く音楽家として評価された。その『Quiet The Room』には収録されていないが、シングル“Song For Nick Drake”はスカルクラッシャーの音楽的なルーツを表現した一曲だ。
「ニック・ドレイクには音楽的な部分だけじゃなくて、彼自身の人生や、抱えていた葛藤のあり方にもすごく惹かれた。悲劇的なアーティストとして語られることが多いけど、私は彼が音楽を通して苦しみのなかに少しでも美しさや光を見い出そうとしていた姿勢にすごく感動したんです。それから、ボーズ・オブ・カナダも自分にとってすごく重要な存在。初めて聴いたとき、自分が音楽でもっとも惹かれるのは、雰囲気そのものなんだなって気付いた。まるで別の世界に入り込む感覚というか」。
ダーティ・ヒットからのリリースとなるセカンド・アルバム『And Your Song Is Like A Circle』は、そんなスカルクラッシャーの音楽的な特性を推し進めた一枚だ。1曲目の“March”に顕著なように核にあるのは静謐なフォーク・ソングだが、その周りを彼女自身の声が浮遊するように漂い、幻想的な空気を生み出している。
「今回は自分の声を使ってアレンジ全体を組み立てることを意識していた。プロデュースは友人のアイザック・アイガーと一緒にやったんだけど、彼も実験的なアンビエント音楽が好きで、感覚がすごく合うんですよね。全体のアプローチとしてはすごくミニマルで、余白や空間をどう作るか、音をどう呼吸させるかを常に考えていた。サウンドが完璧であることよりも、少し未完成に聴こえるくらいがちょうどいいと思っていて。そのほうが、作品のなかに生きた時間や呼吸が残る気がするんです」。
そのような穏やかさや心地良さが感じられる作品ではあるものの、“Change”をはじめとして、恋人との別離やLAからNYへ移住した経験を反映し、喪失や孤独が大きなテーマとなっている。
「このアルバムは、〈暗闇のなかの光〉みたいな存在だと思う。自分の生活には辛いこともいろいろあったけど、音楽と向き合うこと自体が支えになっていた。それから、ずっと考えていたのが〈受け入れること〉について。音楽を通して、自分の状況をそのまま受容して、流れに身を任せることで、自分のなかに小さな平和を見つけられる。そんな感覚を曲に込めたんです」。
また、子どもの頃から好きだった宮崎駿の「千と千尋の神隠し」に改めてインスパイアされたところもあったという。
「人生でもっとも影響を受けている映画のひとつなんです。最初に観たのは6歳くらいだったんだけど、ノスタルジーみたいな感覚を初めて味わった気がして。どんな時期の自分にとっても何度でも立ち返れる作品だと思う。今作では変化や年齢を重ねることの難しさをテーマにしていたから、あの作品の影響はすごく意識していました」。
最後に、なぜ〈音楽を聴くこと〉〈音楽を作ること〉をよくモチーフにするのか尋ねると、「音楽に対する好奇心が大きいんです。どうしてこんなに力を持つんだろう?というシンプルな疑問かな。説明できないし、理由もわからないけれど、そこに美しさがある。そんな感覚を大切にしたい」と話してくれた。スカルクラッシャーは、音楽を通して得られる内面的な探求や深い癒しの感覚を立ち上げようとしているのだ。
スカルクラッシャー
NYを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ヘレン・バレンタインのソロ・プロジェクト。LAの大学を卒業したのち、ミュージシャンを志すようになり、2020年にシングル“Places/Plans”でデビュー。同年にシークレットリー・カナディアンよりファースト・アルバム『Quiet The Room』をリリースし、2022年に地元NYへと帰郷。コンスタントに楽曲を発表し話題を集めるなか、このたびセカンド・アルバム『And Your Song Is Like A Circle』(Dirty Hit)をリリースしたばかり。