田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週はまず、2人のミュージシャンの訃報をお伝えしなければなりません。スペンサー・デイヴィス・グループの活動で知られるスペンサー・デイヴィスが肺炎のため81才で逝去。そして、元ガールズのメンバーだったチェット“JR”ホワイトが40才で亡くなりました。JRの死因は発表されていません」

天野龍太郎「ガールズの解散後、JRはエンジニアとしてキャス・マッコームズやトバイアス・ジェッソJr.の作品に関わっていました。ガールズは2000年代末~2010年代初頭のUSインディーを象徴する存在ですし、素晴らしい楽曲をたくさん残したバンド。JRの死は、かなりショックですね……」

田中「明るい話題もお伝えしましょう。ポール・マッカートニーがニュー・アルバムを12月11日(金)にリリースすることを発表しました! イギリスがロックダウンしていた最中に一人で作り上げたアルバムだそうで、『McCartney III』と名付けられています」

天野「70年の『McCartney』、80年の『McCartney II』というこれまでの2作は、ポールがほぼ一人で録音した、まさに〈ソロ・アルバム〉という内容。きっと新作もパーソナルかつチャレンジングなアルバムなんでしょうね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. MAMAMOO (마마무) “Dingga (딩가딩가)”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はMAMAMOOの“Dingga”! 11月3日(火)にリリースする新作『TRAVEL』でカムバするMAMAMOOの新曲です」

田中「MAMAMOOは、ソラ、ムンビョル、フィイン、ファサの4人組。所属はONEUSなどがいるRBWで、デビューは2014年。『TRAVEL』は、なんと10作目のミニ・アルバムです。たくさんのアーティストが群雄割拠していて、とにかく競争が激しいK-Popシーンでは、人気の高さを保ったまま活動を続けている稀有なグループかもしれませんね。また、メンバー4人のそれぞれが活発にソロ活動も行っています」

天野「MAMAMOOって活動の初期から国外への進出を積極的にしていて、2016年には〈SXSW〉に出演しているんです。アメリカや日本を含めたアジア各地でコンサートをやって、地道にファンダムを築いていったグループ、という印象です。そんななか、今回の“Dingga”はアメリカでもヒットをねらえる力強い曲なんじゃないかなと思いました!」

田中「BTSは言わずもがな、後輩のBLACKPINKの世界的な成功で、ここにきてMAMAMOOもさらに国際的な注目を集めそうです。“Dingga”は、2020年屈指のヒット・ソングであるBTS“Dynamite”を思わせるダンス・ナンバーですよね。太くうねるベースとギターのカッティング、4つ打ちのビートがとにかくファンキーで、80sのサウンドを現代的に解釈したブルーノ・マーズの音楽を思わせます」

天野「でも、“Dynamite”とはちょっとちがうと僕は思うんですよ。4人の歌とラップを聴いてください。ほとんど韓国語で歌われているでしょう? サビの〈Dingga, dingga(딩가딩가할래)〉というフレーズに象徴されるように、韓国語のリズム感がうまく活かされているんです。全編英語詞だった“Dynamite”よりも韓国カルチャーや彼女たちのエスニシティーを打ち出しているので、K-Popらしくていいなと思います。新作『[12:00]』でカムバしたLOONAの“Why Not?”もいい曲でしたし、最近またK-Popの勢いを感じています。MAMAMOOの『TRAVEL』が楽しみですね!」

 

2. Arlo Parks “Green Eyes”

天野「2位はアーロ・パークスの“Green Eyes“! 英サウス・ロンドン出身の彼女は、ここ1、2年で注目を集めているシンガー・ソングライター/プロデューサーです。この“Green Eyes“は、1月29日(金)にリリースするアルバム『Collapsed In Sunbeams』からのリード・ソング。〈ついに!〉という待望のデビュー・アルバムですね」

田中「こっちが〈SOTW〉でもよかったかも! 実は当連載、彼女のことをかなり早い段階でおすすめしていて、2019年2月4日の記事でセカンド・シングル“Super Sad Generation”を取り上げています。なかなかやりますね、僕ら(笑)。それ以降も楽曲が公開されるたびに、〈今週の5曲〉の候補になっていました。イージー・ライフ“Sangria”や、今週発表されたばかりのグラス・アニマルズ“Tangerine”のニュー・ヴァージョンなど、ゲスト・ヴォーカルとして参加したものも印象深いですね」

天野「この“Green Eyes”も、これまでの彼女の曲と同様にメロウで、聴き手に優しく寄り添ってくれるバラードです。にわかに冷えこんできた、いまの季節に沁みる一曲ですね。あと〈PSN〉として押さえておきたいのは、バッキング・ヴォーカルとギターでクレイロ(Clairo)をフィーチャーしていること。クレイロについては、〈ベッドルーム・ポップ(Bedroom Pop)を知るための10曲〉をぜひ読んでください。アーロとクレイロというバイセクシャルを公言している2人が〈みんながいる前まで、あなたは私の手を握らなかった〉と歌うリリックは、とても切実な表現のように感じますね。それと同時に、〈普通の恋〉の甘酸っぱさを感じます」

田中「クレイロが弾くギターのアルペジオも、とてもいいですよね。ちょっとカールトン&ザ・シューズみたい。楽曲のロマンティックな感覚をさらに高めている印象です」

天野「パークスはアルバム『Collapsed In Sunbeams』について、次のように語っています。『私の思春期と、それを形成した人々についての一連のスケッチ、あるいは親密なポートレイト。ストーリーテリングとノスタルジアに根ざしていもの。普遍性と超特殊性、その両方を感じてもらえたら』。2021年最初の話題作になりそうですね。楽しみです」

 

3. Julien Baker “Faith Healer”

天野「ジュリアン・ベイカーの“Faith Healer”が3位です。ジュリアンは、フィービー・ブリジャーズとルーシー・デイカスとのグループ、ボーイジーニアス(boygenius)での活動でも知られるSSWですね。2018年の来日時に収録したインタビューには、亮太さんと2人で立ち会いましたよね。ベイカーのことが大好きすぎるオタクな上野功平さんの前のめりに取材していて、〈私のことなんでそんなに知っているの!?〉と笑っていたジュリアンの顔が忘れられません(苦笑)。この“Faith Healer”は、2021年2月26日(金)にリリースされることが発表された新作『Little Oblivions』からのシングルです」

田中「こっちも〈SOTW〉でもよかったかも! メランコリックなギターとスケール感の大きなリズム・セクションによるサッドコア的なサウンドですが、打ち込みのドラムや独特の浮遊感を持ったシンセサイザーが効果的に使われていますね。彼女がかねてからファンであることを公言しているスコットランドのバンド、フライトゥンド・ラビットの近作に近い印象です。2018年に自死してしまったフライトゥンド・ラビットのフロントマン、スコット・ハッチソンのトリビュート・アルバム『Tiny Changes: A Celebration Of Frightened Rabbit’s The Midnight Organ Fight』にも、ベイカーは参加していました」

天野「亮太さん、フライトゥンド・ラビットのこと本当に好きですね……。で、今回の“Faith Healer”のリリックは、これまで彼女がたびたび語ってきた、自身の薬物とアルコール中毒がモティーフになっています。心身に害のあるものであることをわかりつつ、一時の救いを求めてドラッグやお酒に手を出してしまう、というアンビヴァレントな心の動きが歌詞に表れていますね」

田中「〈信仰療法者よ、どうか私に手を〉というコーラスがすごく切実です。ちょっと僕自身にも響きすぎる歌詞ですね……。なお、『Little Oblivions』はすべての楽器をほぼ彼女一人で演奏したそう。彼女のディスコグラフィーのなかでも、とりわけパーソナルな部分に踏み込んだ作品なのかもしれませんね」

 

4. Skullcrusher “Farm”

天野「4位はスカルクラッシャーの“Farm”。彼女のことはずっと紹介したいと思っていたので、今回取り上げることができてよかったです」

田中「スカルクラッシャーことヘレン・バレンティーニ(Helen Ballentine)は、米NY生まれ、LA在住のシンガー・ソングライターです。初めての楽曲“Places/Plans”を作ったのは2019年だそうで、キャリアはまだ1年ちょっと。それなのに、名門のシークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)と契約したっていうのはすごいですね。彼女は今年4月にEP『Skullcrusher』でデビューしたばかりです」

天野「シンガーとしてもソングライターとしてもそんなに初々しさを感じないというか、スタイルが確立されているように思います。リヴァーブの効いたローファイでドリーミーな音像、シンプルなアコースティック・ギターのコード・ストローク……。特徴的なのは、ヴォーカルのダブル・トラックですね。すごくパーソナルで、聴き手に親密さを感じさせる音像がスカルクラッシャーの個性になっています。あと、僕は〈どくろを打ち砕く者〉という名前がかっこいいなと思っていて、森や湖の情景が浮かんでくるような音楽なのに、ステージ・ネームは〈メタルかよ!〉みたいな(笑)」

田中「今回の“Farm”のイントロでは、虫の声や自然の音が聴けますしね。聴いていると、アメリカの山奥にある夜の森が、目の前に浮かび上がってくるかのようです。ちなみに、録音はNYのウッドストックだそうです。人里離れた山小屋で新作『songs』『instrumentals』を吹き込んだというエイドリアン・レンカーにも近い感性だと思いました。“Farm”ではヴォーカルを重ねていなくて、代わりに音像の奥のほうから、ふわっとしたコーラスが聴こえてきます。ピアノやノイズ、エコーがどんどん分厚く重なっていく展開も圧倒的です」

天野「アンビエント/ドローン的なフォークという点ではグルーパーのようでもありますし、フォークやSSWの表現として新鮮味を感じます。単なるチルな癒し系フォークとか、ありがちなアメリカーナとはちがう。“Farm”との両A面として発表されたレディオヘッド“Lift”のカヴァーもめちゃくちゃ感動的。こちらにはバンジョーが入っていてちょっとアメリカーナっぽいですね。スカルクラッシャー、とにかく注目してほしい才能です!」

 

5. Loski feat. Popcaan “Avengers”

天野「さて。ラストです。今週は女性アーティストが4組で、彼らだけ男性アーティストでしたね。ロスキーがポップカーンをフィーチャーした“Avengers”。〈アベンジャーズ〉という曲名からしてもう、MCUファンの僕たちは〈おっ〉って思うわけですが……」

田中「〈Loski〉を〈Loki〉に空目しちゃいましたよ。サビでは〈俺はスパイダーマンみたいに気取って/相棒はアイアンマンだぜ〉なんて歌っていますし、ロスキーは相当なMCU好きと見た」

天野「……というMCUトークはさておき、ロスキーは南ロンドンのストリートを生きるラッパーです。ドラッグの売買や銃の所持で逮捕された経験もある、サグいMCですね。〈ハーレム・スパルタンズ(Harlem Spartans)〉というヒップホップ・コレクティヴに所属していることでも知られています」

田中「ロスキーはドリルMCですが、“Avengers”のビートやフロウはレゲエ/ダンスホール色が強いですよね。最近、天野くんが熱心に推しているアフロビーツの要素も感じます」

天野「そうなんですよ! この曲は、どちらかというとダンスホールの色合いが濃いんですけど、同時にアフロビーツとしても聴ける。J・ハスに代表される、UKで独自に発展したアフロスウィング(Afroswing)、アフロバッシュメント(Afrobashment)っていうやつですね。僕はジャマイカのポップカーンが大好きなので、この曲はそこもぐっときました。これぞいまのロンドンのストリートの音楽だなと」

田中「今週はフレッシュなアーティストの楽曲を優先して紹介したので、アリアナ・グランデ“positions”やカニエ・ウェスト“Nah Nah Nah”といった話題曲はスルーしちゃいました。読者のみなさまにおかれましては、ぜひプレイリストでフォローしてもらえれば、と思います!」