和楽器バンドの無期限活動休止から約11か月。鈴華ゆう子からニュー・アルバム『SAMURAI DIVA』が届けられた。その音楽の中心にあるのは、もちろん〈和〉の要素。和楽器バンドではメンバー間で生まれる化学反応を重視し、和洋折衷なスタイルは海外でも高く評価されてきたが、そこで得た経験をもとに鈴華はみずからの表現の枠を広げている。日本の伝統的な音楽とロック、クラシック、ジャズ、メタル、ダンス・ミュージックなどを融合させることで、鈴華ゆう子というソロ・アーティストの独創性へと結び付けているのだ。

鈴華ゆう子 『SAMURAI DIVA』 コロムビア(2025)

 鈴鹿が「収録曲からアートワーク、プレミアム盤の限定グッズまで、すべてに自分の想いを反映させています」と語る本作。〈SAMURAI〉と〈DIVA〉を合わせたアルバムのタイトルは、彼女自身の在り方と直結しているそうだ。

 「(和と多ジャンル)両方のエッセンスを持っていることこそが、私が音楽をやる意義だし、それを切り離すのは不自然なんですよね。和の音楽といろいろなジャンルを融合させることで世界を繋げる、平和を願う。このアルバムにはそういうテーマもあります」。

 本作のメッセージ性/音楽性を端的に示しているのが、表題曲“SAMURA DIVA”。作詞は鈴華、作曲は「サクラ大戦」シリーズや「ONE PIECE」の劇伴などで知られる田中公平、さらに雅楽師の東儀秀樹が参加した〈和 × ハード・ロック × オーケストラ〉な楽曲だ。

 「“SAMURAI DIVA”は初めて〈詞先〉で作った曲。田中さんに歌詞をお渡ししたら、〈歌のメロディーよりも先にオーケストラが頭のなかで広がった〉と言ってくださって。そのイメージを形にしたくて、生のオーケストラで録音しました。東儀さんとは以前から、音楽番組などを通して知り合いで。ずっと〈一緒に何かできたらいいですね〉とお話していたんです」。

 さらに東儀は、和とジャズを融合させた“Bloody Waltz”にも参加。

「和とジャズもすごく相性が良いと思っているんですよ。東儀さんもこの曲を気に入ってくださって、篳篥でクールなソロを吹いてくださいました。私自身、ジャズは両親の影響で幼少期から親しんでいました。デビュー前はホテルのラウンジでジャズを歌っていたこともあるし、ずっと好きなんですよね」。

 コロナ禍で活動がストップした時期に書かれ、〈どんなときも私はあなたのうたいびとでありたい〉という願いを込めた叙情的なバラード“うたいびと”をはじめ、鈴華自身の生々しい感情が反映された楽曲も本作に深みを与えている。なかでも個人的にもっとも印象的だったのは“巡り巡る”。〈悲しみよ幾千の星となれ/夜を超えて 輝き続ける〉と情感たっぷりの節を豊かな感情表現と共に響かせるこの曲には、死生観が反映されているのだとか。

 「私は幼いときに父親を亡くしていて、そこから立ち直る過程のなかで、自分で歌を作り、届けたいという思いが生まれた。曲を作っていると、私のなかの死生観みたいなものに着目する瞬間があるんです。身近な人の死は誰もが経験するし、それを乗り越えるのはとても大変。だけど、歌によって少しでもそれを緩和できたらいいなと。“巡り巡る”もそういう気持ちで書いた楽曲ですね」。

 そのほか、ファンの間で音源化が待たれていた“泥棒猫”、鈴華の故郷・水戸の藩主、徳川斉昭が残した〈楠木正成〉を讃えた詩吟をEDMに乗せた“SHIGIN BEATS-大楠公-”、ORANGE RANGEのHIROKIとコラボしたファンク・ロック・チューン“The Battle of the Monkey and the Crab”、CDのみのボーナス・トラックとしてファンのリクエストで選ばれたカヴァー曲“サムライハート”(原曲はアニメ「鎧伝サムライトルーパー」の主題歌で森口博子が歌唱)などを収録。「私にとってはリスタートの作品。バンドが休止して、それでも応援してくれる皆さんへの想いも詰まっています」という『SAMURAI DIVA』は幅広いリスナーに鈴華ゆう子を知らしめるだろう。その先にあるのは、彼女の音楽で世界中の人たちが繋がる、豊かで美しい光景だ。

 


鈴華ゆう子
和楽器バンドのヴォーカリストとして知られるシンガー・ソングライター。幼少期よりクラシック・ピアノや詩吟・詩舞・剣舞を学び、詩吟師範の免許を取得している。ソロとしては、2016年に「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」挿入歌を収録したアルバム『CRADLE OF ETERNITY』でメジャー・デビュー。声優やラジオ・パーソナリティなど活動の幅を広げるなか、10月29日にソロとしては9年ぶりとなるセカンド・アルバム『SAMURAI DIVA』(コロムビア)をリリースする。