北アイルランド発、30年以上のキャリアを持つ3人組がついに憧れの宇宙へ飛ぶ!
蒼すぎるメロディーは、遥か彼方から見たこの星のように美しく輝きを放っていて……

原点回帰を経て、充実の現在

 英国内でブリットポップの盛り上がりが本格化しつつあった94年2月に、ファースト・シングル“Jack Names The Planet”を引っ提げ、世に登場したアッシュ。当時、ティーンエイジャーだった彼らは、その年代ならではの甘酸っぱさと、10代とは思えないスケール感の双方を同居させた楽曲で、ロックの〈アンファン・テリブル〉として話題を集めた。

 とはいえ、ブリットポップの一環として捉えられることには違和感があったという。もともと彼らが好んで聴いていたのはメタルやハード・ロック。さらにグランジやオルタナなどアメリカの音楽への志向性が強かった3人は、北アイルランドという出自も含めて、英国文化(のみ)を礼賛するような風潮に居心地の悪さを感じていた。

 そして、それから30年以上を経て、不動のトリオを維持しながら、フックに溢れたメロディー × パワフルなロック・アンサンブルという根幹を一切崩すことなく活動を続けている3人の存在は、それだけで奇跡と言えるのではないか。彼らのおおまかな歩みは別掲のコラムにまとめたので、ここでは2023年の前作『Race The Night』から振り返ろう。

 2018年の『Islands』から約5年ぶりのアルバムとなった8作目『Race The Night』は、パンデミック中にソングライターのティム・ウィーラー(ヴォーカル/ギター)がレーナード・スキナードやアイアン・メイデンを改めて聴きながらギターを弾いていたことの影響もあり、メタルやラウド・ロックの要素が濃く出た作品となっていた。そのワイルドな演奏は、コロナ禍を経て、久しぶりに集まれたバンドの興奮や幸福感を反映したものだったという。『Race The Night』は高く評価され、商業面でも成功。アッシュとは最初期に関係のあったフィアース・パンダだったこともあり、原点回帰を告げる作品のようでもあった。

 「僕らのマネージャーがフィアース・パンダを主宰しているサイモン(・ウィリアムズ)とたまたま飲んでるときに、なんとなく〈アッシュはレーベルを探しているんだよね〉と言ったら、〈じゃあうちでやろうよ〉と返してくれたんだ。その次の日に他のレーベルと契約を詰める予定だったんだけど、そっちはキャンセル(笑)。申し訳ないことをしたけれど、このタイミングで一緒にやることにすごくしっくりきたんだよね」(ティム:以下同)。

 『Race The Night』発表後はサブウェイズとのダブルヘッダー・ツアーや世界各地でのフェス出演など精力的なライヴ活動を継続。メンバーみずからもコンディションの良さを感じていたらしく、2024年の夏にツアーを終えてすぐ、新曲のレコーディングに取り組んだ。中断期間も設けつつ、今年の夏前に完成したのが、このたびリリースされたニュー・アルバム『Ad Astra』だ。

 「サブウェイズはエネルギーに溢れたバンドだし、あと今年はダークネスともツアーを回ったんだけど、彼らもテンションの高い演奏をするから、その点で『Race The Night』という作品はすごく合っていた。実は前作のあとにシンセ・ポップっぽいアルバムを出す予定にしていて、それもほとんど出来上がっているんだけど、ツアーをしていくうちにモードが変わっていって。それで、今回の『Ad Astra』を作ったわけ」。

ASH 『Ad Astra』 Fierce Panda/only in dreams(2025)

 前作同様、『Ad Astra』の日本盤は、アッシュとは20年以上に渡って親交が深いASIAN KUNG-FU GENERATION(以下AKG)の後藤正文を中心に運営されるonly in dreamsからのリリース。この日本盤は、〈NANO-MUGEN FES.2011〉にアッシュが出演した際、AKGのギタリスト・喜多建介を迎えて演奏した7曲のライヴ録音がボーナス・トラックとして収録されている。ちなみにこの取材は、10月中旬に開催されたアッシュとAKGが日本5か所を回るスプリット・ツアー最終日に当たる横浜公演のライヴ前に行われたもの。ティムにツアーの印象を尋ねると……。

 「彼らとは長い付き合いだし、何度も一緒にやっているから、初日から最高だったよ。〈アジカン〉のファンも本当に良いんだよね。あと、今回は福岡や仙台など最近は行けていなかった街で演奏できたのも嬉しかったな」。