
音に包み込まれる空間
――今回発表するアルバム『草蔭』は、京都の岡崎にある喫茶・バー・カルチャースペースの〈しばし〉でのライブ録音作品です。ここもそんなライブで旅をする中で出会った場所?
「そうですね。しばしは2~3年ほど前に京都で友達になった男の子に教えてもらって、ライブまで企画してくれたことでつながった場所です。
最初に演奏した時、音が衝撃的によくて。今回も録音とミックスをしてくれた東岳志さんがスピーカーをいっぱい持ち込んで、完全に音に包み込まれる空間にセッティングしてくださったんです。町屋みたいな場所でライブをやらせていただくときは、生音でやることも多くて。反響がほぼないデッドな音でやることの面白さがあるんですけど、しばしはその特徴もありつつ、しっかりPAで音響のバランスをとってくれる。そこが最高だなと初めから感じていました」
――このスペースは昨年から音楽レーベルのdisk sibasiも運営していて、本作はそこからのリリースとなります。しばしからの提案で制作に至ったそうですね。
「はい。でも日程がなかなか合わなくて、急遽決まったのが2024年12月30日。年明けにまたがるような日程で京都に行けたのは楽しかったです」
――どんな作品にするか、しばしと相談したことやご自身で想定していたことはありましたか?
「バタバタで会場に集まったので、そこで〈何の曲をやりますか?〉と聞かれて初めて〈このライブ盤ってどういうものにしたいんだろう?〉と、慌てて考えました。
これまでリリースしてきた曲も、今ライブでやるときは気持ちが変わっているし、アレンジも違う。〈音源に自信がない〉とまでは言わないですけど、やっぱり今の歌を聴いてほしいので、録音した当時と現在では変わってきたなという曲を中心に録音してもらいました」
歌うたびに変わる曲をありのまま捉える
――特に『三度見る』(2020年)収録の“風は流れて”はオリジナルとは大きくグルーヴや醸す雰囲気が変わっているし、その変化を聴き比べるのも面白い。
「半年に1回くらいライブに来てくれる友達は〈観るたびに歌い方が変わっている〉と言ってくれるし、私も常に変わっていないと嘘ついてるみたいだなと思う。〈音源そのままですね〉と言われると落ち込みますね(笑)」
――意識的に変化させようとしているのか、自然と変化していくものと捉えているかでいえば、どちらの感覚に近いですか?
「どの曲にも〈こんな風に歌いたい〉という理想が細かくあって、それを意識しながら試して定着していったり、やっぱ違うなと思ったりの繰り返しです。でも〈気がついたらこう歌っていた〉という無意識的な部分もあるので、どちらもありますね」
――『あかるいくらい』のリリースからも約3年経って、〈今のこの曲はこんな感じです〉とそっと合間を埋めるものということですね。
「まさに〈今の状態を収める〉という感じ。音源にするからといって、完成品でもベストでもなくて、それぞれの曲のありのままを捉えておきたかったのかもしれません」
――基本は弾き語りですが、内4曲で京都在住のギタリストの山内弘太さんがゲスト参加されています。どんな思いでお誘いしましたか?
「最近ライブで京都に行く時は、一緒に演奏する機会が増えていて。積み重ねていくのが楽しい相手なんですよ。例えばイガキアキコさんは初めてご一緒した時からビビビとシンパシーを感じたんですが、弘太さんは人柄や性格が音楽性に直結しているからか、会う回数が増えて仲良くなっていくほど演奏がどんどん強固になっていく感覚がする。
あと今までの私の作品にエレキギターが入ったことがないので、常に新しい試みをしていたいし、せっかく京都で作るアルバムなので弘太さんに入ってもらいたかったんです」
――あとライブ盤ですが、お客さんは呼んでいないのも特徴ですよね。
「そうなんです。居合わせたのは5人ほどのスタッフや関係者のみで、お客さんに向けた演奏ではありません。でもレコーディングスタジオではなく建物のきしみや町家に漂う空気とか、この空間を録音するという意味ではすごくライブならではの音になっているなって、じわじわ納得してきました」