(左から)たかはしほのか、小池貞利

 

今年の6月にリリースしたHelsinki Lambda ClubとのスプリットEP『split』が話題を集めた4人組、tetoが8月30日(水)にファースト・ミニ・アルバム『dystopia』をリリースした。ライヴでの爆発っぷりと、喉がちぎれるような熱量高い歌唱によって光輝くグッド・メロディーを武器に、結成からわずか1年半にして、インディー・シーン屈指の注目株へ。苫小牧のNOT WONK、足利のCAR10、大阪のAnd Summer Club、京都のTHE FULL TEENZなどここ数年国内パンクの新たな主人公を担う可能性を持ったニューカマーが次々と現れるなかで、彼らもその座に向けて一気にその名を広めつつある。そんな期待を反映してか『dystopia』は2017年8月度の〈タワレコメン〉にも選出。本作をきっかけに、さらなるリスナーを獲得することになるだろう。

そして、『dystopia』における唯一のゲストとして“9月になること”にコーラスで参加しているのが、3人組のガールズ・バンド、リーガルリリーのフロントマン兼ギタリスト、たかはしほのかだ。彼女たちもまた、7月に2作目のミニ・アルバム『the Radio』をリリースしたばかり。全員10代という若さだが、胸がすくような豪快なストロークと音圧で魅せるギター・ロック・サウンド、独特の文体を持った森田童子を思わせる達観的な歌詞と素朴な歌唱が魅力的であり、しばらく日本の3ピース・ガールズ・バンドにおいて根強かったチャットモンチーの文脈とは完全に独立している印象がある。

今回は両バンドのフロントマン――tetoの小池貞利とリーガルリリーのたかはしほのかとの対談を実施。たかはしのコーラス参加への経緯や、それぞれの最新作を軸とした音楽的な背景、さらにお互いへの印象などを語ってもらった。みずからのスタイルは貫きつつも数少ない共感できる存在としてお互いを挙げてくれた2人。この2組の台頭によって日本のオルタナティヴ・ロックは新たな潮目を迎えるかもしれない。

teto dystopia UKプロジェクト(2017)

tetoは初めて食べたおやつみたい

――小池さんがリーガルリリーを知ったきっかけは?

小池貞利(teto)「YouTubeで観た“リッケンバッカー”のMVだったと思います。その後、tetoの“PainPainPain”のMVを大塚さん(大塚ユウコ:映像ディレクター、リーガルリリーのマネジメントも務めている)に撮っていただいて、そのときに音源をいただきました。ライヴ映像を使った“リッケンバッカー”のMVで印象的だったのは、〈音楽も人をころす〉と〈明日に続く道が今日で終わるなら〉の間に息を吸うところで、ほのかちゃんがすごくいい目をしている瞬間があって。あの目を見たときには久々の感覚が引き起こされました。戸川純さんの“好き好き大好き”のMVの〈愛してるって言わなきゃ殺す〉という歌詞のところ――男を突き飛ばしてキッと睨むシーンを思い出しました」

リーガルリリーの2016年のミニ・アルバム『the Post』収録曲“リッケンバッカー”
小池の指摘した箇所は1分18秒あたり
戸川純の85年作『好き好き大好き』収録曲“好き好き大好き”
小池が想起したシーンは3分40秒あたり
 

たかはしほのか(リーガルリリー)「その曲は知らなかったです……」

――逆にたかはしさんがtetoを知ったのは?

たかはし「下北沢の定食屋さんで(大塚)ユウコさんと2人で熱く語り合っていたときに、〈最近すっごくかっこいいバンドがいるんだよ〉と目を輝かせながら教えてもらったのがtetoだったんです。あんまり目を輝かせない人だから〈そこまで言う?〉と思い、SoundCloudで聴いてみたらすごくよかった。最近って〈新曲出しました!〉とアピールしていても、いざ聴いてみたら〈めっちゃ聴いたことがある~〉というものが多いじゃないですか。いままで誰かしらが歌っていたメロディーが使われていると思ってしまう。でもtetoは、いままでまったく聴いたことがないメロディーでありつつも、耳に残るすごくポップな音楽だと思いました。初めて食べたおやつみたい」

小池「おやつみたい(笑)。ありがとうございます」

2016年に公開した楽曲“ルサンチマン”。『dystopia』には新録ヴァージョンで収録
 

――2人が初めて話したのは?

小池「〈下北沢にて’16〉に出演したとき、ライヴ直後に会ったのは覚えています。でも会話と言えば、挨拶したくらいで。というか今日までそんなにしっかり喋ったことはないですね」

――そうなんですね。そんななかtetoの新作『dystopia』に収録された“9月になること”に、たかはしさんがゲスト・コーラスで参加されたわけですが、彼女を誘った経緯は?

小池「もともと、アルバムのなかにゲスト・コーラスは入れたいなとは思っていて。“9月になること”で加えるというのも決めていました。この曲が持つ物語性を表現するための一要素として、女性の声を入れたいと考えていたんです。ただ、物語が重要だし、そもそも曲の雰囲気に合わなければ元も子もないので、高音が出るとか技術的な面からではなく、それらにマッチする声を選ぶ必要があった」

――そのうえでたかはしさんに声を掛けた理由は?

小池「彼女の声は透き通っているんですよね。ライヴを観ていても、こんな小さな身体からこんなに美しい声が出るのかと驚いた。だから、〈美しい声だから〉というのがいちばんしっくりくるかと思います。自分が知っているヴォーカリストのなかでダントツに声が良い人」

たかはし「オファーをいただいたとき、絶対にやりたいと思いました。デモを聴かせてもらったときも、この曲を歌うのが他のバンドのヴォーカリストじゃなくて私で良かったと思えたくらい嬉しかった。私が歌をやっているいちばんの理由は歌いたいからなんですけど、歌う曲がないから自分で作っているという感じなんです。でも今回は、私が作らなくても私の歌える曲がその場にあることが嬉しかったです」

――tetoの曲作りやレコーディングにおいてメンバー以外のゲストが入るのは初めてだと思いますが、たかはしさんが入ったことで刺激を受けましたか?

小池「レコーディングがうまくいってない時間って絶対あるじゃないですか。この演奏は違うなぁとか考えながら、フラストレーションがたまることもあって。でも彼女が来てくれたときは自分も含めてみんな和やかになって、リラックスできました。ほのかちゃんの性格もあるかと思いますが、やっぱり自分たち以外の刺激があると空気が変わることを感じましたね」

――この曲は全体的に青春を感じさせる歌詞ですし、メロディーもすごくポップで風通しがよいですよね。加えてたかはしさんのコーラスが後半のCメロで登場し、最後のサビでは小池さんと共にユニゾンで歌っています。たかはしさんの歌声が加わったことで、よりエモーショナルになっていく感じは、YUKIが参加した銀杏BOYZの“駆け抜けて性春”を彷彿とさせました。

小池「どのパートをどんなふうに歌ってもらうかも決めてなくて、ほのかちゃんにいろいろなパターンで歌ってもらったんですけど、最終的にミックス聴いて決めたのがいまの形で。もちろん“駆け抜けて性春”は好きな曲ですが、意識したわけではなく、結果的に近い印象に仕上がったのかもしれません」

銀杏BOYZの2005年作『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』収録曲“駆け抜けて性春”
 

たかはし「デモ音源を聴かせていただいたとき、まず自分の頭のなかでMVを作ったんです。歌詞に〈サイダー〉と出てくるので、水色と灰色を使ったイメージを描いていて。自分が想像するそのMVに出てくる女の人の声を〈コーラスでは出せたらいいな、私ならできそうだなって〉思えた」

 

新しくなけりゃ意味がない

――『dystopia』を通して聴いたときのたかはしさんの印象は?

たかはし「全曲、サビがいままでに聴いたことがないようなメロディーでした。新しいジャンルの音楽だと思います」

小池「自分から生み出されるものは、過去の音楽を吸収したうえで出てきたものですし、いままでにないメロディーを絶対に生み出そうと強く意識しているわけではないんですけど、2017年のいま、この環境から生まれるものは新しいはずですし、新しくなけりゃ意味がないと思っています」

『dystopia』収録曲“暖かい都会から”
 

――今作の制作にあたってのコンセプトは? これまでの曲作りと変えた点はありますか?

小池「これまでにもあった曲や新曲などいろいろと入れたうえで仕上げたので、曲作りにおいて自分が変わったところは、今回においてはないですね。むしろもっと変わらなければいけないところもあって、まだ変わることができていないと思っています。もちろん以前の作品もメロディーと歌詞がいいというのは大前提でやっていましたが、今回はよりいろんなところに届いてほしくて、しっかり伝わるようにとは意識したと思います」

――タイトルこそ『dystopia』だし、特に作品の前半は“暖かい都会”の〈「叶う叶う」と自称暖かい都会から見下ろす気分はどうだい〉や“this is”の〈知らないフリをして生きていくには知ることを知りすぎた〉など何かを悟って諦めたような歌詞表現が目立ちますが、“9月になること”から“utopia”を経て〈魅了したいされたい続けていたい、し続けていたいよ〉と歌う“あのトワイライト”に辿り着く後半にかけての展開は、どんどん希望の光が見えてくるようで清々しさすら感じます。

小池「自分がキラキラしていて、ワクワクドキドキできる時間は日常のなかで非常に限られているのが〈現実〉ですけど、だからこそ〈いま輝いているな〉と思えたときは気分が跳ね上がるし、そんな輝きを切り離せない〈理想〉も存在しているので。基本的に自分はいろんなことを諦めている人間なんですけど、どうせならば楽しいほうがいいし、そんな希望の歌として“あのトワイライト”を最後に置きました」