
悔しさを乗り越えたライブのテーマは〈声〉
韓国と台湾のアジア公演も含む国内外合わせて13万7千人を動員し、バンドの完全復活を知らしめたツアーの国内でのセミファイナル(実質の国内ファイナルは北海道公演)となる11月13日のKアリーナ横浜公演をアンコールも含めて全19曲2時間を完全収録したこの映像作品を貫く最も大きなテーマは、ステージと会場に鳴り響く〈声〉だ。それを最大限ビビッドに伝えるための音響の素晴らしさであり、繊細かつ大胆な画と編集で完成させたのがこの「Official髭男dism Arena Tour 2024 - Rejoice -」だ。
1本のライブというストーリーで見ると、明らかにメジャー3rdアルバム『Rejoice』で聴かせた、気負いのない等身大の日常を藤原固有のリリシズムで表現した歌詞と、新しい音楽性にアプローチしつつも肩肘を張らない姿勢はライブの柱になっていた。アルバム新曲の配置はこのツアーで核になる要素に違いなく、オープニングの“Sharon”を藤原のピアノ弾き語りイントロにライブアレンジし、バンドインしたところで背景に〈IT’S TIME TO REJOICE〉の文字が走り、藤原目線の客席がライトバンドの光で満たされたところは映像ながら鳥肌が立ってしまった。
序盤は再会の感動を表す選曲、そしてメンバー4人のみだったり、最小限のサポートを加えた“キャッチボール”、“濁点”といったアルバム新曲に顕著な日常感(とは言え“キャッチボール”はデジタルなビート感、“濁点”はヒゲダンなりのオルタナティブバンド感という音楽的な新鮮さもあるが)を醸し出す。
そして本編ラストの“B-Side Blues”が、ライブができなかった期間の藤原の悔しさと、その経験をしたからこそ、この日のライブのように音楽の幸せを感じることができたというMCに接続したことでよりしっかり飲み込めたことも大きく、この時点でのバンドのスタンスを表明した『Rejoice』を確かに届けることに成功している。もちろん、ライブ定番の熱量を誇る後半の“ホワイトノイズ”に始まる“ノーダウト”や“ミックスナッツ”などの畳み掛けも見逃せない。
鳥になって会場を縦横無尽に鑑賞できる多彩なカメラワーク
ライブの進行や生での見どころは当時のライブレポートに任せるとして、映像作品としての見どころ、聴きどころを挙げていこう。
ライブ映像作品としては4作目となるが、ファンが見たい、もしくはそれを凌駕してくるアングルの数々は変な喩えだが、もし自分が鳥になって会場を縦横無尽に鑑賞できるならこんな視点も実現するのかも?という多彩さ。メンバー各々の熱い表情だけでなく、この曲ではほとんど全員オフマイクでも歌っているんだ、とか、MCをする藤原に向けられる眼差しの優しさなど、感情を掬い取るカット、楽器を弾く人ならずとも嬉しいプレイヤー目線のカット。例えば“宿命”での小笹大輔(ギター)のレスポールを弾く寄りのカットのダイナミズムを始め、ギタリスト垂涎の曲ごとのフレージングやギターのセレクトも楽しい。“ミックスナッツ”での楢﨑誠(ベース/サックス)のランニングベース、松浦匡希(ドラムス)のジャズ的なドラミングの妙など、細部のプレイと表情をセットにしてガン見できる楽しさったらないのである。
そしてヒゲダンと言えばサポートメンバーの人気も高いことはファンの共通認識で、“Stand By You”のイントロで〈サポメン暴れすぎでは?〉とか、楢﨑込みのホーン隊が練り歩く“ノーダウト”でのステージ上の臨場感あふれるカットとか、互いに何に反応しているのかが手に取るように分かるビビッドさも映像作品ならでは。
ステージを俯瞰で見ることができるクレーンやドローンのカットも曲が持つカタルシスに同期するような構成が素晴らしい。疾走感のある“ホワイトノイズ”で小笹のギターソロが360°旋回するドローンの映像で体感できたり、“Anarchy (Rejoice ver.)”のデジタリックな新しいアレンジとクレーンからの速さのある映像のスリルも堪らない。クレジットを確認するとムービーカメラ22名、さらにクレーンやドローンもある。曲が持つテンポやストーリーとこの日にしかない総勢13名のエモーションが多彩過ぎるアングルと編集で見事に捉えられているのだ。