Photo by Simon Fowler
©Parlophone Records Ltd.

知られざるカンタータを現代に蘇らせ、世界初録音!

 カウンターテナーのフィリップ・ジャルスキーが、ギター界の先鋭、ティボー・ガルシアと共に来日、3回のコンサートを行った。いずれも盛況で、終演後のサイン会は長蛇の列。いまも彼は熱狂的なファンに囲まれている。「今回のプログラムは色々な言語やスタイルがあって大変でした。ガルシアとは理解し合えるし、共感できる。即興も巧いので、声をよく聴きながら音を出してくれる」

 ジャルスキーは1999年にプロ・デビューして、25周年を迎えている。長年美声を保ち、自然で滑らかな発声と豊かなニュアンス表現を維持し続ける秘訣は何だろう。「アスリートと同じで、年齢と共に成熟は勝ち取るけど、柔軟性は失われていく。だから鍛錬を自分に課していて、常に声の状態を確認する。18歳から同じ先生のレッスンに通っていて、声を磨くことは出来るようになりました」

 2002年に〈アルタセルセ〉を創設し、指揮者としても活躍する。「活動の最初から、指揮者としての自分がイメージできた。25歳のとき、多くの指揮者と共演してインスパイアーされた経験を生かし、指揮活動を始めた。カウンターテナーというより、音楽家という意識の方が強いのかも」

 2年前の来日公演『オルフェーオの物語』が好評だったように、企画力にも才能を発揮。「一人の歌い手と一緒に物語を作り舞台を作り上げるのが好きです。新しいものを歌っていく残り時間は、あと5年か10年。過去に自分が出したものの隙間を埋めて、全体で統一感のある、より大きな世界観を見せるものにしたいです」

 10月に18世紀イタリアン・カンタータ集『ジェロジア!』が発売。「オペラ・アリアは曲の抜粋なのでドラマの流れがないけれど、カンタータは短い中にも、レチタティーヴォが2つ、アリアが2つあり、ドラマチックな掘り下げが出来る。愛や苦しみを語り,起承転結もあるという形式。カンタータはイタリアの作曲家にとって、私的な日記のように、実験工房的な仕事だった。カンタータから大編成のバロック・オペラへと聴衆の興味が移行し、作曲家も形式を変化させた歴史がある」

PHILIPPE JAROUSSKY, ENSEMBLE ARTASERSE 『Gelosia!』 Erato(2025)

 このアルバムでは1つの台本を二人の作曲家が異なる曲に仕上げた。その聴き比べの楽しみもある。「二人の作曲家の解釈やパーソナリティーが出るし、登場人物の個性も違うのが面白い。どちらも世界初録音。珍しい曲を探すのが大好きで、インターネットで世界の図書館の資料を宝探ししている。自分のパソコンには百曲ほどの珍しいオペラが入っているんです」