ワーナークラシックスが誇る名盤を高音質SACD化するシリーズ〈ルミエール〉がスタート!
名だたる音楽家の録音を多く所有するレーベル、ワーナークラシックス。これまでも長い歴史から数々の名盤を送り出してきた。近年その貴重な財産を優秀なリマスターで再発しており、今回新たなシリーズを開始した。その名も〈ルミエール〉。比較的最近の音源をSACDハイブリッド・ディスクとしてリリースするもので、〈光〉というネーミングにふさわしい、輝くような新鮮な音となって装いも新たに甦る。
ワーナーのSACD化プロジェクトとして話題になったのは、昨年リリースされたブルックナーの交響曲シリーズだ。晩年のチェリビダッケとミュンヘン・フィルの記念碑的な録音の新鮮で深みと奥行きを獲得したリマスターは驚きをもって迎えられたし、テイトとロッテルダム・フィルの第9番は、演奏に対するそれまでの定評をも一変させるほどの傑作だった。
〈ルミエール〉シリーズの多くは2000年代以降の録音であることもあって、必ずしもオリジナルのクオリティが低いわけではない。しかし今回のリマスターでは、音の丸みと深み、瑞々しさが加わり、広い空間性も新たに獲得されている。
第1回発売はフルートのパユを中心としたベートーヴェン(2020年)とピアノのケフェレックのサティ(1988、1990年、2枚組)である。
ベルリン・フィルの名首席、パユのベートーヴェンは、共演者の豪華さも注目となったアルバム。ピアノにバレンボイムを迎えたヴァイオリン・ソナタはフルートにより適したとも思われる“春”などではなく、作品そのものの充実度を鑑みて第8番を選んだといい、作曲家を知り尽くしたバレンボイムとの丁々発止がまさに心躍る。他にはベートーヴェンの数少ないフルートのためのオリジナルを集めた。共演は“セレナード”のヴァイオリンには樫本大進、ヴィオラにグロスという両首席、2つのフルートのための“二重奏曲”には現在フランス国立管首席(録音当時はウィーン・フィル首席を退いた直後)のカレッドゥ、“三重奏曲”のファゴットにはベルリン・フィルを経て2015年からウィーン・フィルの首席となったデルヴォーという布陣。これらの作品は必ずしも演奏機会に恵まれないが、(作品自体の充実度はともかく)彼らの巧さとアンサンブルの緊密さ、音の良さが聴きものである。
ケフェレックのサティも名盤。ゆがんだユーモアとか、シニカルさなどが表に出る演奏に出会うことの多いサティだが、彼女が弾くと何より美しく、少し大げさに言えばドビュッシーなど近代フランスのピアノ作品のひとつに並べても遜色のないほどの名作に聴こえるからおもしろい。そして注目なのはそのリマスターの素晴らしさである。録音当時には収録しきれなかった倍音域を最新テクノロジーで復活させたもので、先述したブルックナー・シリーズと同じ手法を採っており、演奏の真価をさらに聴き取ることができるのだ。
第2回発売はカウンターテナーのジャルスキーとギターのガルシアによる歌曲集(2020年)とピアノのタローによるフランス・バロック(2019年)。どちらもシンプルな音の連なりに聴ける艶ややさと余韻の深さが美しい。
ジャルスキーはプーランクの歌曲から取ったタイトルのアルバムで、ダウランドから20世紀までの作品を語るように歌ったアルバム。ギターとの親密なコラボレーションがまさに珠玉の一枚で、シルキーで見事なアーチを描く声に、クリアなアタックとゆるやかな余韻を合わせ持つギターが絡み合ってなんともセクシーな世界が広がる。
タローが現代のピアノでクープランやラモーを弾くアルバムは、まさに時代を超えた一枚。フランス・バロック特有の装飾に満ちた音楽を、まさに優雅に、そして鮮やかに甦らせている。語り口や色彩はめまぐるしく移り変わり、冒頭のクープランの“プレリュード”の静けさから少しずつ形ができあがってくるような流れ、豪快なロワイエの“タンブーラン”と続くクープランの“嘆き”との落差など、一瞬も聴き逃せない。