UKソウルの現在形を前進させた待望のニュー・アルバム!

 ブリット・スクール出身という先入観もあってか、エイミー・ワインハウスやアデルを引き合いに出したくなる瞬間もあるイースト・ロンドン出身のソングストレス、オリヴィア・ディーン。高評を得た2023年のファースト・アルバム『Messy』は現代UKらしいポップ濃度の高いシンガー/ソングライター・ソウルとでも言うべき内容だった。が、2年ぶりのセカンド・アルバム『The Art Of Loving』は同じポップでも前作とは違う穏やかさとエレガンスを感じさせる。テーマは、母親譲りのフェミニストを自認する彼女が黒人活動家/フェミニストのベル・フックスの著書を参考に、人生のさまざまな悩みに向き合い、ロマンティックな気分にも浸りながら自己愛を探究するというもの。ローリン・ヒルやアンジー・ストーンの曲に救われてきたというだけに、その片鱗も覗かせるが、いわゆるネオ・ソウルをやっているわけではない。そもそもバイレイシャルである彼女は音楽においても特定のジャンルやスタイルにとらわれず、今作では内省的でありながら気分が高揚するような曲を歌い、居心地のいい空間を作り出している。

OLIVIA DEAN 『The Art Of Loving』 Capitol(2025)

 美しいイントロに続いて登場する“Nice To Each Other”は、「フリートウッド・マックみたいなギター感があって、ちょっと挑発的で、軽やかな色気も漂って」とオリヴィア自身が解説する通りのアップ。今作のテーマを集約したような曲だ。また、カナダのトバイアス・ジェッソJr.が作者に名を連ねた“Man I Need”もシャッフル調のポジティヴな曲で、現在ヒット中のこの情熱的なラヴソングもアルバムの軸になるものだろう。サー・ノーランがコライトし、オーガニックな音とミニマルなビートで疾走する“Something Inbetween”あたりは前作の流れも汲むが、力強さとともに聴き手に優しく寄り添う。

 メイン・プロデューサーはザック・ナホーム。彼と複数の制作陣が組むことでアルバムは多彩な表情を見せる。前半にはホーマー・スタインワイスたちとの共作でリオン・マイケルズが制作に加わった“Lady Lady”も登場。クレオ・ソルあたりを思わせるメロウなミディアム・ソウルだ。続く3曲ではジュリアン・ブネッタが制作に絡み、ヴィンテージ・ソウル感のある“Close Up”、バート・バカラック作品を思わせる小粋で洒落たサウンドにビート感が加わった“So Easy (To Fall In Love)”、ゴスペルのムード漂う3連のバラード“Let Alone The One You Love”と60年代ポップ・ソウル的なムードで進行。ジュリアンが手掛けるアンバー・マークに近い雰囲気もある。

 アコースティックな音色にストリングスが被さるメランコリックな雰囲気のバラード“Loud”、英国的な仄暗さを感じる80年代ポップス風のミディアム“Baby Steps”など、繊細な音使いの曲が並ぶ終盤ではヴォーカルの生々しさが際立つ。ゲストを招いていない本作だが、ノスタルジックなバラード”A Couple Minutes”ではバック・コーラスでマイケル・スタッフォード(マーヴェリック・サブレ)がハーモニーを重ね、ドラマティックな曲のムードを引き立てている。グローヴァー・ワシントンJr.“Just The Two Of Us”の歌い出しを思わせるフレーズを交えたクロージングのバラード“I’ve Seen It”では、フォーキーな曲調も相まってビル・ウィザーズを連想。心にスッと溶け込むような歌と音から静かで確かな成長を感じる作品だ。 *林 剛

左から、オリヴィア・ディーンの2023年作『Messy』、ロイル・カーナーの2022年作『Hugo』(共にEMI)、エズラ・コレクティヴの2024年作『Dance, No One’s Watching』(Partisan)