森田貴宏《フリーハンド(free hand)》2018
Photo by Yoshiro Higai

能登半島地震後の被災地での体験を、映像や構築物で作品化。
人々の意識を地域や社会へと繋げる。

 金沢21世紀美術館で、SIDE COREの最大級の個展「Living road, Living space / 生きている道、生きるための場所」が開かれている。

 SIDE COREは、高須咲恵、松下徹、西広太志の3人のメンバーと映像ディレクター播本和宜からなるアートコレクティブ。「災害をはじめとした非常事態に対してアートは何ができるのか?」を問い、ストリートカルチャーを作品表現に取り入れ、社会システムや構造を読み解き、人々の意識を地域や社会へと繋げる作品を発表してきた。

 能登半島地震から2年が過ぎたが、輪島や珠洲などの被災地の復興は、未だ道半ばだ。地震で金沢21世紀美術館も天井のガラスが落ちるなど被災し、半年間の閉館を余儀なくされ、その間、公立美術館のあり方を探った。

 「災害などの危機に対してアートは何ができるのか、ということを考え尽くした展覧会です」と本展の担当学芸員の髙木遊さんはいう。髙木さんは震災後すぐに動き始め、「能登半島地震を考える自主企画の展覧会(「Everything is a Museum」)を立ち上げ、SIDE COREを能登に誘い、地震の被害の跡が生々しい被災地の現場を共に歩いた。それを受けてSIDE COREは映像作品《new land》(2024)を制作発表した。その作品が本展で再び展示される。

 美術館の光庭に現れた高さ4メートルの鉄パイプの足場。登っていくと、美術館の屋上に設置されたスクリーン。そこに映像作品《new land》が繰り返し映し出されている。地震から4ヶ月経った2024年5月に撮影された輪島の鹿磯(かいそ)漁港の光景。岩礁が最大4メートル隆起してできた岩場で一人の女性(高須)が鳥笛を吹き、鳥に餌付けをしている。岩礁隆起4メートルと同じ高さで鑑賞することで、現場にいるような臨場感を味わえる。

 「地盤隆起で、海洋生物があがって死んで真っ白になって、海底の環境そのものが丸ごと化石になってしまったような光景でした。能登半島地震による地質変化で、新しく陸地が生まれていたのです」と松下さんは当時の衝撃について話す。

 「その漁港で、鳥に餌をやる映像を撮りました。鳥が種を運んでくることで、環境も変わっていく。自然のサイクルの中に自分たちも入っていくという作品です」

 《new land》は、地震や鳥や人間などの営みにより更新されていく土地の様子を謳っている。

 能登半島地震以降、奥能登豪雨にも見舞われた能登半島。ボランティアやリサーチ活動で何度も足を運んできたSIDE COREのメンバーたちは、道が更新されていく有り様も目の当たりにしてきた。能登への道における、彼らの経験や体感を最も顕著に投影しているのが新作のロードムービー形式の映像作品《living road》(2025)だ。

SIDE CORE《living road》2025 ©SIDE CORE
Photo by Sachiko Tamashige

 SIDE COREの結成のきっかけは東日本大震災。震災を契機に得た「都市はあらゆる側面で他の地域に依存して成り立っている」という気づきから、ストリートカルチャーを表現手法に取り込み、それを都市の路上に閉じた表現でなく、地域と地域をつなぎ、移動や文化の連鎖反応に基づく表現運動としてとらえ直し、日本各地でプロジェクトを展開してきた。

 本作品も「自分たちの日常生活や東京と能登の接続を探しに行く」という目的で撮影された。制作には、映像ディレクターの播本和宜さんが加わり、意欲的な作品に仕上がった。能登半島地震の復興ボランティアで出会った俳優の坂口彩夏(さかぐちあやな)さんが東京から珠洲まで車を運転しながら移動していく情景をベースに、現実と想像が入り混じりながら、日本における戦後の道路史をたどるような映像が流れていく。

 

SIDE CORE《rode work ver. tokyo spiral junction》2022 ©SIDE CORE
Photo by KIOKU Keizo

金沢21世紀美術館に出現した「新たな道」と「広場」

 SIDE COREの活動や作品の中核にあるキーワードは「道」と「移動」。彼らは、「道=異なる場所や価値観を媒介するもの」と再定義し、本展では、「道」や「移動」をテーマに、美術館内外で多様な価値観や生き方が交差する場を作り出した。

 通常はチケットがいる有料エリアの一部を会期中限定で無料開放し、展覧会ゾーンを東西に貫く通路でつなぎ、自由に往来できるようにした。そこに、ゲストアーティストを招聘し、スケートボードやグラフィティ、音楽イヴェントといったストリートカルチャーの表現を持ち込んだ。まるで、美術館の中に道や広場、街が出現したような様相だ。

 美術館の新たな「道」の壁面には、ゲストアーティストのスティーブン・ESPO・パワーズ(以下ESPO)の壁画が描かれている。ESPOはニューヨークと東京を拠点に活動しているアメリカ人アーティスト。彼は、美術館の壁面だけでなく、昨年夏、能登半島の珠洲市に滞在し、震災の被害の大きかったエリアに残った建物の壁面にグラフィティを描き、地元民と交流した。

 「能登の珠洲で仕事をしたことで、謙虚な気持ちになり、まず、すべてゼロから始めることにした。アートへの向き合い方をリセットできた」とESPOさんは言う。

珠洲市内のスティーブン・ESPO・パワーズの壁画 ©Stephen ESPO Powers
写真提供:金沢21世紀美術館

 展示会場を巡っていると、「グオーッ。バタン」というスケートボード特有の音が聞こえてくる。のぞいてみると美術館中央の円形の展示室に、本格的なスケートパークが現れた。 このスペースを手がけたのは、SIDE COREの招きで本展にゲストアーティストとして参加したプロスケーターの森田貴宏さん。彼は、1990年代から自身のスケート映像プロダクション「FESN」を運営もしているクリエータだ。夜になって照明がフルになると、影や立体感のないフラットな真っ白な不思議な空間になる。何度かスケートで滑ることで汚れがつき、エッジが際立って空間に立体感が生まれるという。 壁面には、色とりどりの文字、グラフィティが描かれていた。「街でスケボーするとき、通常、僕らは、社会の敵なんです。それを37年間やってきた」と森田さん。スケートボードにひらりと飛び乗り、一気に円周を巡った。「美術館のフリーゾーンを巡って、1日の終わりに、スケートボードで遊んで帰れるように調整した」と松下さん。

 「ここには、いろいろな人たちがやってくる。スケボーの価値観に全く興味のない人々が入ってきても、その人たちに敬意を払わなくちゃいけない。異なる価値観が共存することが大事。ここは、スケボー専用の空間ではなく、もっと社会性のある空間にしたかった。だから、ストリートをそのまま、ここにもってきた」と森田さん。

 会期中、閉館前の1時間、誰でも自由にスケートすることができるという。

 「美術館のいろいろな場所を、生き生きとした、生きている場所にしていこうという試みです。金沢21世紀美術館は、もともと公園のように街に開かれている美術館ですが、本展では、ストリートアートで、より街に開かれ、生活と関わっていることを集約してお見せしています」

 と髙木さんは言った。

 


SIDE COREとは?

2012年より活動を開始、東京都を拠点に活動。メンバーは高須咲恵、松下徹、西広太志。映像ディレクターは播本和宜。都市の死角や隙間となる場所で多彩な作品を展開するアートチーム。ストリートカルチャーを、 都市の路上に閉じた表現ではなく、地域と地域をつなぎ、移動や文化の連鎖反応に基づく表現運動として捉え直すことを試みている。

 


EXHIBITION INFORMATION
SIDE CORE
Living road,Living space / 生きている道、生きるための場所

開催中~2026年3月15日(日)金沢21世紀美術館
https://www.kanazawa21.jp/

SIDE COREの作品をきっかけに能登に行こう!
ROAD TO NOTO:能登半島と美術館をつなぐビジティングプログラム

ストリートカルチャーを取り込みながら、被災地と都市とのつながりを探ってきたSIDE CORE。展覧会期間中、金沢の美術館から能登を訪ねるプログラムも開催されている。各地に設置された作品を鑑賞しながら、被災地の現状を知ることができる。
2026年3月7日(土)~8日(日)〈1泊2日〉
詳細決定次第募集開始
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=25&d=2247