私たちが意識せざるをえなくなった〈日常〉
日常と非日常のあわいにある〈現在〉とは?
あたりまえだった日常がどこかに行ってしまい、そのかわりに見慣れない日常があたりまえのような顔をしてやってきた。どうにもできないそのズレを現代美術作家はどう受け止め、表現するのだろう? 金沢21世紀美術館で開かれている〈日常のあわい〉展では7組の作家たちがそれぞれに〈日常〉を語る。
7組の中でもっともストレートに〈新しい日常〉を表現しているのが小森はるか+瀬尾夏美だろう。「みえる世界がちいさくなった」は2019年から〈震災後、オリンピック前〉というテーマで始めたプロジェクトが元になったもの。そこに2020年からの〈コロナ禍〉が重なって、プロジェクトの様相も変化した。会場では自粛生活を送る東京の若者3人の声をとらえた映像や、瀬尾が書き続けてきた〈コロなか天使日記〉などが並ぶ。
青木陵子+伊藤存の展示室に並んでいるのは宮城県沖にある網地島の空き家に残されていたものや、〈使えなくなったコード類〉といったモノを組み合わせたインスタレーションだ。そこには〈私達みんな似たとこあるよね〉〈大きな部屋の中にいると思っていたが、小さな部屋の中にいたのかもしれない〉といったサブ・テキストのような文章がつけられている。ありふれたモノの集積が何かを語りかける。
ささやかな日常で見逃しているものに注目したのが下道基行だ。彼の〈ははのふた〉は、下道の義母がポットの蓋として代用しているものを撮ったもの。カップ、小皿、保存容器の蓋といったものがアクロバティックにポットの口を覆っている。義母にとってはこれが日常だけれど、他の人から見るとちょっと奇妙に映るかもしれない。が、日常の細部はそんなものでできている。
元ダムタイプの小山田徹は、家庭ではお弁当の当番だ。あるとき、幼稚園の息子さんの弁当を作ろうとしたら、お姉さん(娘さん)の香月さんが〈こんなお弁当作ったら喜ぶんじゃない?〉と提案してくれたのが〈お父さんの顔〉をかたどったお弁当だった。香月さんのお題は〈みちの下(の地層)〉や星座の〈夏の大三角形〉など次第に難易度を増す。小山田さんはこれを「アートとして出すつもりはなかったけれど、生活の中の何かのヒントになれば」という。「毎日が大喜利」と苦笑しながらも楽しそうだ。
アーティスト・ユニット、髙田安規子・政子の作品はスケールの攪乱がキーワードの一つだ。超ミニ・サイズから普通に座れるものまで大きさの違う椅子が並ぶインスタレーションや、待ち針を編み棒にした極小の編み物が並ぶ。半開きのドアやピラミッドの切手のジグソーパズルなどは内側と外側が分断されたかのようなコロナ禍で、外とのつながりを感じさせる。
岩崎貴宏の「リフレクション・モデル(テセウスの船)」は台風で壊れた広島の厳島神社をモチーフにした作品だ。本物の厳島神社は修復されている。
「建築は記憶の保存庫のようなもの。壊れたものを直すのは日常の再構成ともいえる」と岩崎は言う。本のしおりをほどいてクレーンにする作品ではカミュの「ペスト」など、コロナ禍で注目された本が混ざる。クレーンは建設にも解体にも使われる。ここでも破壊と再構成とがつながっている。
竹村京は壊れた食器などを布で包み、糸で縫って修復するという作品を作ってきた。この展覧会では蛍光色に光る絹糸で補修されたモノが並ぶ。この糸は、蚕に発光するクラゲの遺伝子を組み込んで作られた。が、人間の目では海中と同じ条件でないと光って見えないのだそう。そのため、竹村の作品にはブルーライトがあてられている。クラゲの遺伝子は地上でも海中のことを記憶しているのだ。
この後、マスクやソーシャルディスタンスが必要ない世界が戻ってきたとしても、私たちの記憶にはコロナ禍でのことが深く刻まれるだろう。この展覧会に並ぶアートにはこのちょっと異常な日常がそのまま記録されているわけではない。でも作品をきっかけに変わってしまった日常について考えることができる。代わり映えのしない日常なんて存在しなかったんだ、そんなことに改めて気づかされる。
全て〈日常のあわい〉展示風景
撮影:来田猛 画像提供:金沢21世紀美術館
EXHIBITION INFORMATION
特別展〈日常のあわい〉
2021年4月29日~2021年9月26日(日)石川 金沢21世紀美術館 展示室7~12・14
開場時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
休場日:月曜日(ただし2021年8月9日、2021年9月20日は開場)/2021年8月10日(火)/2021年9月21日(火)
出品作家(五十音順):青木陵子+伊藤存/岩崎貴宏/小森はるか+瀬尾夏美/小山田徹+小山田香月/下道基行/髙田安規子・政子/竹村京
■料金
観覧券[日付指定入場制]
一般:1,200円(1,000円)
大学生:800円(600円)
小中高生:400円(300円)
65歳以上の方:1,000円
※( )内は団体料金(20名以上)およびWEBチケット料金
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1788
主催・お問い合わせ(金沢21世紀美術館):076-220-2800
https://www.kanazawa21.jp/