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渋谷慶一郎による新作アンドロイド対話劇「IDEA」の問題提起――人間とテクノロジーの共存が五感に未知の領域を開いた象徴的パフォーマンス

渋谷慶一郎+池上高志「IDEA — 2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話」

『IDEA ー2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』 渋谷慶一郎+池上高志
金沢21世紀美術館 2023年
©️Keiichiro Shibuya + Takashi Ikegami
Photo by ATAK

 音楽家の渋谷慶一郎とAlterのコードネームをもつヒューマノイドロボットとの共演によるシアターピース、すなわちアンドロイドオペラは2018年の「Scary Beauty」、21年の「Super Angels」、昨年のドバイ博や今年のパリのシャトレ座で評判をとった「MIRROR」と、テクノロジーと主題とサウンドを更新しながらいまなお発展の途上にある。このたび一連のアンドロイドオペラの新作にあたるパフォーマンス「IDEA ― 2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話」が2023年10月13~14日の両日、金沢21世紀美術館のシアター21において開催の運びとなった。公演は現在開催中の〈DXP (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)― 次のインターフェイスへ〉の関連プログラム。表題の〈DX〉とは社会のすみずみにデジタル技術が浸透することでうまれる変革というような意味で、すでに人口に膾炙したきらいがあるが、広範な射程をもつキーワードらしく理解と解釈には幅があり、その点でもアートが働きかける余地は少なくない。参加作品の詳細は別項にゆずるが、概観すると、鑑賞者の知覚と認識に多角的かつ包摂的なアプローチをこころみた作品が多く、メディアアートを土台にファッション、建築、食やゲームやアミューズメントまで、領域横断的な志向性をつよく感じさせるものだった。「IDEA」はいわば、その音楽的な展開であり、生身の感性をもつ人間とテクノロジーの結晶としてのアンドロイドが一場で共存するパフォーマンスは象徴性すら帯びている。

『IDEA ー2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』 渋谷慶一郎+池上高志
金沢21世紀美術館 2023年
©️Keiichiro Shibuya + Takashi Ikegami
Photo by Hiraku Ikeda

 10月14日の公演がはじまった直後に感じたことである。舞台では下手から上手へAlter3、Alter4、2体のアンドロイドがならび、画面を二分割した背後のスクリーンがそれぞれの表情をとらえている。渋谷慶一郎は彼らの前方で、シンセ各種と生ピアノから次々と音響を導き出していく。形式はこれまでと同じく歌劇だが、台本はプラトンとともに分析哲学のカール・ポパーのプラトン批判を学習したGPTが生成したテキストで、特定の作者はいない――と聞くと、芸術行為における人間中心主義と抵触するかにみえるが、本作の力感はそのような陳腐な議論にとどまるものではなかった。内容を簡単に説明すると、プラトンのいう万物の鋳型となる理想世界(イデア界)と私たちの住まう現実の世界(現象界)を、基本は問答のプラトンよろしく、おのおのAlter3とAlter4にわりふり、対話をかさねるなかで愛や死、欲望や感情というアンドロイドには本来無縁なはずの想念が不意に去来するというもの、その自己言及的で、破綻をおりこんだテキストは〈DXP〉展の参加作家でもある岸裕真の協力をえて作成したという。本作ではそれらの言語と構想を、東京大学池上高志研究所のAlter3の複雑きわまりない身体表象と、渋谷慶一郎の演奏に即座に反応し、ことばを歌にするAlter4(大阪芸術大学アートサイエンス学科所属)によるパフォーマンスがみたしていく。

『IDEA ー2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』 渋谷慶一郎+池上高志
金沢21世紀美術館 2023年
©️Keiichiro Shibuya + Takashi Ikegami
Photo by Hiraku Ikeda

 私は前日の公演は未見のため、比較はできないが、二日目はより即興的な要素を加味したという関係者の弁をふまえるなら、その完成度と一回性のかねあいこそ、理想的(ideal)というべきか。渋谷の奏でるサウンドはノイジーな電子音からロマン派ふうの水際立った旋律まで多彩だが、2体のアンドロイドと空間を共有することで、観客の五感にも未知の領域をひらいていく。その方法は社会制度や権利保護の観点とも位相を異にする、テクノロジ-からアートへの根源的な問題提起といえるであろう。

 


INFORMATION
「DXP―次のインターフェースへ」特別企画
『IDEA ー2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』渋谷慶一郎+池上高志

2023年10月13日(金)-2023年10月14日(土) *終了
会場:金沢21世紀美術館 シアター21
出演:Alter3/Alter4
脚本:GPT
音楽/コンセプト:渋谷慶一郎(ピアノ/エレクトロニクス)
Alter3 プログラミング:吉田崇英/johnsmith
Alter4 プログラミング:今井慎太郎
GPTテクニカルサポート:岸裕真
Alter3 所属先:東京大学池上高志研究室
Alter4 所属先:大阪芸術大学アートサイエンス学科 Android Music and Science Laboratory
Alter4 台座設計:妹島和世建築設計事務所
映像:小西小多郎
音響:鈴木勇気
舞台監督:串本和也
制作サポート:川越創太/田中健翔
制作マネジメント:松本七都美
協力:大阪芸術大学
制作:ATAK

 

DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ
会期:2023年10月7日(土)-2024年3月17日(日)10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館
展示室7〜14(要チケット)/デザインギャラリー(無料)/長期インスタレーションルーム(無料)
休場日:月曜日(ただし10月9日、30日、1月8日、2月12日は開場)/10月10日/31日/12月29日~1月1日/1月4日/1月9日/2月13日

https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1810

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