上白石萌音が、最新アルバム『kibi』を引っ提げた全国ツアーを開催した。2024年12月からスタートした上白石にとって自身最大規模のツアーは、『kibi』の楽曲を中心としながら、彼女がこれまで大切に歌い繋いできたナンバー、そして各会場の開催地にちなんだ選曲などで観客を魅了した。そんなツアーより、2月2日の東京ガーデンシアター公演の公式レポートが到着した。 *Mikiki編集部
選曲・舞台美術で『kibi』の世界観を表現
2016年のデビュー以降、作品のリリースやライヴ活動をコンスタントに続けている上白石萌音。最新アルバム『kibi』を中心とした今回のツアーは、初めて訪れる場所(青森、佐賀、三重、京都、福井、香川、広島)を含んだ自身最多の全10ヶ所11公演。ツアー終盤となる東京ガーデンシアター公演でも彼女は、こだわり抜いたセットリスト、舞台美術、演出、そして、表情豊かなボーカルによって〈歌手・上白石萌音〉の世界を表現してみせた。
開演時間を過ぎると、ステージの幕に浮かび上がっていた〈“yattokosa” Tour 2024-2025《kibi》〉の文字が消える。朝の訪れを想起させるイントロに導かれた最初の楽曲は上白石自身が作詞を手がけた“あくび”。〈ねえ/今日はもうずっと寝転んでいようよ〉というサビで幕が開くと、椅子に座った上白石萌音の姿が。1番を歌い終わったタイミングでスッと立ち上がり、一礼。客席からは大きな拍手が送られた。
セットリストの中心は、〈ある1日の時間の流れの中にある様々な情景や感情の機微を表現した〉という最新アルバム『kibi』の楽曲たち。繰り返す日常への愛しさを描いた“Loop”から、「みなさん、立っていいですよ!」という呼びかけでポップチューン“skip”へとつなぎ、心地よい一体感が生まれた。
「アルバム『kibi』は同世代のアーティストのみなさんとたくさんご一緒しました」とMCでも語ったように、アルバムでは“かさぶた”や“アナログ”を提供した とたや、“perfect scene”を提供したLaura day romanceなど、同世代アーティストの楽曲がライブでもスパイスとなり、上白石萌音の新たな表現を引き出していた。そして、自身の想いが濃く反映されたアルバムの世界観は、図面の時点からこだわった舞台美術などにも繋がって表現されていた。
“風”は、鍵盤と歌のシンプルな編成。アルバムの中でもある意味異色の1曲で、様々なジャンルの提供曲を歌いこなす上白石の、歌手としての軸がそこに見えたような気がして、〈でも風 君はこの空を思うまま行け〉というフレーズを手渡すように歌う姿が強く心に残った。
また、公演先の土地にちなんだ楽曲を歌う〈ご当地ソング〉コーナーで、東京公演では“東京キッド”(美空ひばり)をセレクト。戦後の時代に誘われるようなノスタルジックな雰囲気がゆったりと広がり、幅広い年齢層のオーディエンスを魅了した。ライブ中盤では、〈ロンドンコーナー〉も。昨年、舞台「千と千尋の神隠し」の公演でロンドンに約3ヶ月滞在した上白石。「そのときに得た文化的な刺激をみなさんと共有したいと思いまして」と選ばれたのは、“Yesterday”(ビートルズ)、“A Spoonful Of Sugar“(邦題“お砂糖ひとさじで”、ミュージカル「メリー・ポピンズ」より)、“夢やぶれて”(ミュージカル「レ・ミゼラブル」より)。自ら和訳した歌詞を映し出しながら、楽曲へのリスペクトを込めたボーカルを届けた。