原点に立ち返った3人での大復活は、次なる創作意欲を掻き立てる導火線となった――このバンドにいることの喜びから生まれた新作は新たな全盛期の始まりを告げる!
僕たちは全盛期を迎えている
「『RUSHMERE』の核となる要素は、僕ら3人が一緒に音を出し、6、7年ぶりにまた一緒に歌ったことだと思う」――マムフォード&サンズが昨年3月にリリースした通算5作目『RUSHMERE』の全英No. 1ヒットは、そのマーカス・マムフォード(ヴォーカル/ギター/ドラムス/マンドリン)の発言通り、音楽的にはもちろんだが、精神的にもバンドの原点に立ち返ったことが歓迎された結果だった。そんなアルバムからわずか1年。『RUSHMERE』に至るまでの7年間は何だったんだと思わず突っ込みたくなるくらいの短いスパンで、マムフォード&サンズが早くも新しいアルバムを完成した。タイトルは賞金目的の素手のボクサーを意味する『Prizefighter』。
それにしてもだ。『RUSHMERE』発表後の彼らは、アルバムのリリース・ツアーに加え、エドワード・シャープ&ザ・マグネティック・ゼロズ、オールド・クロウ・メディスン・ショウと共に北米大陸を列車で回る〈Railroad Revival Tour〉を14年ぶりに開催していたから、新作の制作に費やせる時間はそれほどなかったはず。いったいいつ作ったんだろう!? 不思議に思っていたら、なんと『RUSHMERE』の制作を通じてふたたび3人で音楽を作る喜びを噛み締めながら、改めて気持ちを1つにしたマーカスとベン・ラヴィット(ヴォーカル/キーボード/アコーディオン)、テッド・ドウェイン(ヴォーカル/ベース)の3人は『RUSHMERE』の完成後も曲作りを続け、それがニュー・アルバムの制作に発展したのだという。しかも、アルバムに必要な曲数を10日間でレコーディングしてしまったというんだから、「僕たちはいまクリエイティヴの面で全盛期を迎えていると感じている」というマーカスの言葉も大いに頷けるではないか。
今回、プロデューサーを務めたのは、テイラー・スウィフトやエド・シーランの作品を手掛けたアーロン・デスナー。NYのインディー・ロック・バンド、ナショナルのギタリスト兼キーボーディストだ。ナショナルのファンだったというマムフォード&サンズのメンバーに乞われ、2015年のサード・アルバム『Wilder Mind』に加え、『RUSHMERE』にもキーボード奏者として客演してきたが、今回はサウンド・プロデューサーとして、シンセやドラム・プログラミングも含めて複数の楽器も担当しながら、アンセミックなフォーク・ロックという意味では『RUSHMERE』の延長上にあるとも言える『Prizefighter』の全14曲に『RUSHMERE』の単なる続きとは言えない音像を加えることに大いに貢献している。
その点、オーソドックスなロック・サウンドに定評がある『RUSHMERE』のデイヴ・コブ(クリス・ステイプルトン、マーカス・キング・バンド、グレタ・ヴァン・フリート他)からアーロン・デスナーというプロデューサーの交替は、メンバーたちが狙ったかどうかはさておき、象徴的と言えるだろう。
その意味では、バンジョーが軽快に鳴るヒルビリー・サウンドをアトモスフェリックな音像に落とし込んだ“Run Together”、インディー・フォークのインディー感を際立たせた“Alleycat”と“Prizefighter”、シューゲイザーあるいはオルタナ・ロックとも言えそうな“Begin Again”“Icarus”“Stay”などが今回のアルバムの聴きどころと言えるかもしれない。熱い血潮を迸らせる心臓の鼓動とシンクロする力強いバスドラのキックやエモーショナルなハーモニー・ワークをはじめとするマムフォード節はもちろん、メンバーとアーロンが作り上げたサウンドにも、ぜひ耳を傾けていただきたい。
手放したくないものの始まり
そして、聴きどころはもうひとつ。多彩な顔ぶれのゲスト・シンガーたちとの共演だ。冒頭の“Here”でしゃがれた歌声を響かせ、いきなり存在感を見せつけるグラミー受賞カントリー・シンガーのクリス・ステイプルトンは、マーカスいわく「いま世界でいちばん好きなシンガー」。マーカスと共に歌い上げ、バラードの“Rubber Band Man”に熱を込めるアイルランドのシンガー、ホージアはマムフォードのメンバーたちとは長い付き合いなのだそうだ。アルバムの全曲を聴いたうえで、ブランディ・カーライルも共作した“Rubber Band Man”を歌いたいと申し出たという。
ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが参加していると聞いたら、“Prizefighter”のアトモスフェリックなサウンドも、あぁ、なるほどねと頷けるだろう。“Icarus”に可憐な歌声を加えているジジ・ロペスは、USインディー・シーンのブライテイスト・ホープ。マムフォードとステージを共にしたことから、今回、客演が決まったようだ。さらに、クラシカルなピアノがメランコリックに鳴る“Badlands”では、ビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴと並び称される新世代シンガー・ソングライター、グレイシー・エイブラムスが美しい歌声を重ねている。彼女の参加は、そもそもはアーロンのコネクションなのだと思うが、当初アルバムのレコーディングでマーカスいわく「チアリーダー役」を務めていた彼女はメンバーたちから客演を求められ、〈それなら〉とみずから“Badlands”を選んだのだという。
そんなグレイシーをはじめとするゲストの歌声もまた、『Prizefighter』が『RUSHMERE』の単なる続きなどではないと思わせる要因のひとつなのだろう。そういう意味で聴きどころなのだが、かつてファンの間で物議を醸した、バンドの進化を目的としたさまざまなチャレンジとは違って、『RUSHMERE』における原点回帰の延長上でバンドの前進を確信させる今回の試みは、昔からのファンからも歓迎されるに違いない。
きっとメンバーは自分たちが求められているものをちゃんと理解したうえで、何をやるべきなのかしっかりと把握しているのだろう。そこに結成から20年を迎えようとしているバンドの成熟を感じたりもする。
「僕たちはまだまだ終わっていないよ。僕はいま、自分たちが手放したくないものの始まりにいると願い、信じている。このバンドの一員でいることに、これまで以上に興奮しているんだ」。
そんなマーカスの言葉からも、マムフォード&サンズというバンドが現在のメンバーたちにとって、どれだけ大事な存在なのかが窺える。『Prizefighter』を聴きながら、その思いを分かち合いたい。 *山口智男
『Prizefighter』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、クリス・ステイプルトンの2023年作『Higher』(Mercury Nashville)、ホージアの2023年作の豪華版『Unreal Unearth Unending』、ジジ・ペレスの2025年作『At The Beach, In Every Life』(共にIsland)、ボン・イヴェールの2025年作『SABLE, fABLE』(Jagjaguwar)
マムフォード&サンズのアルバム。
左から、2009年作『Sigh No More』、2012年作『Babel』、2015年作『Wilder Mind』、2018年作『Delta』(すべてIsland)
左から、マムフォード&サンズの2025年作『RUSHMERE』、マーカス・マムフォードの2022年作『(self-titled)』(すべてIsland)
アーロン・デスナーのさらなる躍進
双子の兄弟ブライスらと組んだナショナルはもちろん、ジャスティン・ヴァーノンとのビッグ・レッド・マシーンなどで活動してきたアーロン・デスナーだが、『folklore』(2020年)の制作から深まったテイラー・スウィフトとの縁は彼にメインストリームな活躍の舞台を与えることに繋がった。彼女との諸作やエド・シーランでの大仕事を経た近年は、今回『Prizefighter』にも招かれたグレイシー・エイブラムスのブレーンとしても名を上げながら多方面の才能とジョインしており、今後の飛躍にも注目したい。
左から、グレイシー・エイブラムスの2024年作『The Secret Of Us』(Interscope)、テイラー・スウィフトの2024年作『The Tortured Poets Department』(Republic)、ナショナルの2024年のライヴ盤『Rome』(4AD)
エキセントリックでスケールの大きいチェンバー・アート・ポップが神秘的に広がる全英No. 1ヒット作品。アイドルズのマーク・ボーウェンらを交えつつ全曲で共同プロデュースを手掛けたアーロンにとってもこの年きっての大仕事になった。
ジャズ基盤の独自世界を確立している人だが、フォーキーな“Castle In Hollywood”“A Cautionary Tale”ではアーロンをプロデューサーに迎えている。グラミーの〈最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム〉を受賞したばかり。
ジャスティン・ヴァーノンらと並んで制作陣に名を連ねたアーロンは、共作した“A War With Time”など4曲をプロデュースしたほか、要所で演奏に参加。その流れもあってか、マムフォードの“Rubber Band Man”はブランディがコライトしている。
ロスタムとの共作でも知られたウォークメンのフロントマンによるソロ3作目。本人らと共同でアーロンがほぼ全曲のプロデュースに加わり、生々しい音像が印象的な“Knockin’ Heart”や“Burn The Boats”のダイナミックな展開に貢献している。 *轟ひろみ




