ブームの余波とキャリア最長のブランクを乗り越えて、懐かしくも新鮮なあの音が帰ってきた! 原点回帰だけでは終わらない感動をつれて、3人はふたたび前へ進みはじめる……
もう一度、魂が動き出す
〈I feel a spirit move in me again(僕の中でもう一度、魂が動き出すのを感じるんだ)〉――最新作となる通算5枚目のアルバム『RUSHMERE』の1曲目に置いた“Malibu”で、そんなふうに高らかに歌いながら、マムフォード&サンズが帰ってきた。もっとも彼らは解散したわけでもないし、活動休止していたわけでもないから、帰ってきたという言葉を使うのはちょっと違うのかもしれない。
しかし、前作の『Delta』(2018年)から『Rushmere』のリリースまでの約7年というインターヴァルはマムフォード&サンズ史上最長であるし、その約7年の間に彼らのサウンドを特徴づけたバンジョーを奏でるウィンストン・マーシャルがバンドを去ったり、フロントマンであるマーカス・マムフォードがソロ・アルバムをリリースしたりしていたことを考えると、結成から10余年を経て、バンドの求心力は、やはりバンドを始めた頃に比べて弱まっていたようにも思う。
加えて言えば、『Delta』とその前の『Wilder Mind』(2015年)におけるサウンドの変化を考えると、世界中に鮮烈な印象を与えたマムフォード&サンズにはもう会えないんじゃないかと悲観的になっていたリスナーも少なくなかったんじゃないか。そんなふうに想像するのは、筆者もその一人だったからだ。
だから、あえて帰ってきたという言葉を使ったのだが、『RUSHMERE』のどんなところがそう思わせるのか、早速聴いていきたいと思う。とはいえ、何と言っても7年ぶりのリリースだ。もしかしたら今回初めてマムフォード&サンズを知るという読者もいるかもしれないから、まずはマムフォード&サンズがどんなバンドなのか今一度振り返っておきたい。
成功と試行錯誤
結成は2007年。マーカス・マムフォード(ヴォーカル/ギター/ドラムス)、テッド・ドウェイン(ヴォーカル/ベース)、ベン・ラヴェット(ヴォーカル/キーボード)、ウィンストン・マーシャル(ヴォーカル/バンジョー/ギター)の4人が集い、ロンドンを拠点に活動を開始。ノア&ザ・ホエール、ローラ・マーリングらと共に〈ニュー・フォーク〉と名付けられたムーヴメントから頭角を現してきた彼らがバンジョー、マンドリン、アコーディオン、ダブル・ベースといった伝統楽器を使いながら演奏するアンセミックな曲の数々はたちまち多くの人の気持ちを掴み、2009年にリリースしたファースト・アルバム『Sigh No More』は、いきなりイギリスおよびアメリカのナショナル・チャートの2位に食い込むと、ブリット・アワードの年間最優秀アルバムを受賞する。続く『Babel』(2012年)はUK/US共にNo. 1ヒットになり、ブリット・アワードとグラミーで年間最優秀アルバム賞を受賞。彼らはその人気を揺るぎないものにすると同時に、グラストンベリー、ボナルー、レディング&リーズといった名だたるフェスティヴァルでヘッドライナーも務めてきた。
そんな活躍がマーカス・マムフォードのインスピレーションになった米国アメリカーナ・シーンに対して、逆に刺激を与えたことも見逃せないが、バンドはいつしか〈新世代フォークの旗手〉と言われることを窮屈に感じはじめ、脱フォークを大胆に推し進めるようになる。
ウィンストンがバンジョーをエレクトリック・ギターに持ち替え、U2やコールドプレイからの影響も指摘されたロック・サウンドを鳴らす『Wilder Mind』も物議を醸しながら、UK/USの両方でチャート1位を獲得したのだから、当時のバンドの勢いが窺える。南アフリカのアーティストとコラボレーションした2016年のEP『Johannesburg』も、ふたたびバンジョーも使いながら『Wilder Mind』以上に音楽性の幅を広げた『Delta』も、共に同じことを繰り返しているだけではバンドとして成長できないと考えるメンバーたちの向上心を印象づけるものだったが、いま思えば、脱フォークを意識するあまり試行錯誤を繰り返していたようにも感じられるが、どうだろう?
その答えが『RUSHMERE』なのだと思うが、マムフォード&サンズが結成され、音楽的な方向性が決められた思い出の地=ロンドンのウィンブルドンにあるラシュミア・ポンドから付けたアルバム・タイトルが物語るのは、バンドの原点回帰だ。「すべてが始まった場所にリスナーを連れ戻したかった」とメンバーたちも語っているが、今年1月17日に発表されたアルバムからのリード・シングル“Rushmere”のバンジョーが鳴るアンセミックなフォーク・サウンドは、『Sing No More』や『Babel』の頃のマムフォード&サンズを思い出させるものだった(バンジョーはマーカスが弾いている)。
〈Light me up I’m wasted in the dark(暗闇で疲れ果てた僕に、希望の光を)〉と歌う同曲のMVをぜひ観ていただきたい。昨年12月、ロンドンのスタジオに招かれたファンが“Rushmere”を聴き、泣き笑いする様子を捉えただけの映像なのだが、なぜ彼ら彼女らがそこまで心を震わせているのかと言えば、マムフォード&サンズが帰ってきた!と思ったからなんじゃないか。その思いは2月19日に発表されたセカンド・シングル“Malibu”で確信に変わる。
進むべき道
そう、『RUSHMERE』はマムフォード&サンズがフォーク回帰を宣言したアルバムとなった。マーカス・ドラヴスをはじめ、英国人のプロデューサーとレコーディングしてきた彼らが今回組んだのはアメリカ人のデイヴ・コブ。カントリーやオーセンティックなアメリカン・ロック・サウンドを得意として、ブランディ・カーライル、ライヴァル・サンズ、ジェイソン・イズベル、クリス・ステイプルトンらを手掛けてきたプロデューサーだ。
もっとも、そこまでアメリカンと言うか、乾いたサウンドになっているわけではないけれど、カントリーともロックンロールとも言えるウェストコースト・ロック風の“Carolina”や60年代のブルース・ロックを思わせる“Truth”は、コブによるサジェスチョンも大きかったんじゃないかと想像する。
また、ピアノ・バラードの“Where It Belongs”をはじめとするバラードも粒揃いだ。なかでも、シンセをアンビエントに鳴らしながらリヴァービーな音像を作り上げた“Anchor”は、前述した試行錯誤が今回のフォーク回帰と見事な化学反応を起こしたひとつの成果と言ってもいい。また、メランコリックなフォーク・ナンバー“Blood On The Page”は、人気上昇中のシンガー・ソングライター/ギタリストであるマディソン・カニンガムとのデュエットが話題になっている。
全曲通して、メンバー全員で歌声を重ねるハーモニー・ワークも大きな聴きどころであることは言うまでもないだろう。そして、アルバムは60sっぽいと思わせ、歪んだギターが鳴るフォーク・ロック・ナンバー“Carry On”でエンディングを迎える。ここで歌われている、どれだけ非難されても進み続けようという決意は、新たに進むべき道を見据えたマムフォード&サンズによるステートメントに聴こえるのだった。
マムフォード&サンズの近作。
左から、2020年のライヴ盤『Delta Tour EP』、ファレル・ウィリアムズとコラボした2024年のシングル“Good People”(共にGlassnote/Island)
マーカス・マムフォードの参加作品を一部紹介。
左から、テイラー・スウィフトの2020年作『Evermore』(Republic)、デイジー・ジョーンズ&ザ・シックスの2022年作『Aurora』(Warner)、ジョニ・ミッチェルの2023年のライヴ盤『Joni Mitchell At Newport』(Rhino)、ルシウスの2024年作『Wildewoman [The New Recordings]』(Fantasy)
『RUSHMERE』に客演したマディソン・カニンガムの2022年作『Revealer』(Verve Forecast)
マムフォード&サンズの決して短くない歩みをギュッとご紹介!
マーカス・ドラヴスをプロデューサーに迎えた記念すべきファースト・アルバム。エモーショナルな“Little Lion Man”や疾走感に溢れた“The Cave”、メロディアスな“Winter Winds”などのシングル・ヒットが次々に生み出す一方、アルバム全体の流れで昂揚を掻き立てる構成はいま聴いても巧みだ。
グラストンベリー出演や北米ツアーの成功を受けて登場し、USとUKでNo. 1を獲得した堂々の2作目。逞しさを増して威勢良く迫る“I Will Wait”を筆頭に騒やかな賑やかさに溢れた楽曲が揃い、バンドの昇り調子な勢いを如実に感じさせる。デラックス盤ではポール・サイモンとの共演も実現した。
ジェイムズ・フォードをプロデューサーに迎えてフォークからの脱却を図り、賛否両論を招いた3作目。シンセを導入したアリーナ・ロックの“Believe”やオルタナ路線の“The Wolf”など、曲ごとの完成度はバリバリ高い。デモ制作したスタジオの主であるアーロン・デスナーも鍵盤などで関与している。
南アフリカをツアー中にアフリカ圏のアーティストたちとの録音を敢行して作られたコラボ企画EP。セネガルのバーバ・マール、マラウイ系のヴェリー・ベスト、ケープタウン発のベアテンベルクという個性的な3組が招かれ、マムフォードもオーガニックな雰囲気で呼応した5曲が並ぶ。
サウンド的にはスタジアム感が後退し、全体の雰囲気としては内省的な方向に揺り戻した4作目。新たにポール・エプワースをプロデュースに迎え、先行曲の“Guiding Light”やオーケストラルな“If I Say”など、また角度の違うポップな佳曲が揃っている。結果的にはこれが4人で最後のアルバムとなった。
バンドのインターヴァル期間に外部仕事も増やしたマーカスが、多彩な共演や作家陣を招いて作り上げたソロ・アルバム。ブレイク・ミルズにプロデュースを委ね、ブランディ・カーライルやフィービー・ブリジャーズ、クレイロらを迎えたほか、ラファエル・サディークやサウンウェイヴの参加まである。






