コンピューターで作る世界と人間の世界の中間
――“YES-NO”はシンセポップでありつつ、歌のニュアンスは小田和正さんの歌のニュアンスに通じるものを感じました。この曲はどのようなことをポイントにしたのですか?
「今の時代の響かせ方を意識しました。トラックは基本1人で作ったので、〈西寺郷太サウンド〉になりました。イメージしていたのは、〈ザ・ウィークエンドが“YES-NO”をカバーしたとしたら〉という音像。
ギターソロはオリジナルが完璧なので、知也くんに完コピを頼みつつも、ギターを少しシンセサイザー的に聴かせたかったので、ギターシンセを重ねて構築するアレンジにしてほしいとオーダーしました」
―― “恋におちて -Fall in love-”は、西寺さんの歌と瑞々しいギターサウンドが絶妙なバランスになっています。
「この曲もかなりアレンジが難しかったです。他の方のカバーはフルオーケストラでがっつり歌い上げるアレンジのものが多いのですが、僕はミニマムにできないかと考えました。
この曲の作詞をされている湯川れい子さんと僕を繋いでくれたのは、マイケル・ジャクソンだったので、マイケルの“Human Nature”のイメージでカバーしました。当時のTOTOがやっていたような、シンセを使いつつも、クリスタルで、かつ演奏の上手い人たちが演奏している感じですよね。
知也にギターとプログラミングをお願いして、ゆう大にウーリッツァーを弾いてもらい、途中でシンセベースから生のベースに変わるようにアレンジして、コンピューターで作る世界と人間の世界の中間を目指しました。マシンドラムだからこそ出る人間味が前に出ていると思います」
――女性が主人公の歌ですが、意識していることはありますか?
「自分はどの曲でも、歌詞のシチュエーションがどうあれ、エモーショナルな気分は10%くらいしか常に乗せないようにしています。洋服屋さんでグイグイ来る店員さんが苦手なのと似ていて(笑)」
――過剰な表現になると、リスナーが引くこともありますもんね。
「だと思います。楽曲そのものがすでに表現しているのだから、必要以上に歌でアピールする必要はない。僕はメロディーやコードやハモリの持つ〈数学的な美しさ〉を大切にしたいんです。だから、女性の曲であっても男性の曲であっても、声を発した瞬間に答えはすでにある気がしています」
アンビバレントな感情の並列を表現
――“いっそ セレナーデ”は、西寺さんの歌声が真っ直ぐ届いてきました。
「アルバムの中でもっとも〈裸〉に近い歌ですね。〈今まであまりやってこなかったことを後悔しないようにやりきる〉というテーマを象徴する歌になったのではないかと思います」
――“Woman “Wの悲劇”より”の音像にも驚きました。ピアノのくぐもった残響や、西寺さんと真城さんとの歌声の重なり方が独特で素晴らしいです。
「ゆう大の家にあった古いピアノを直して、そのまま、そこで録りました。この録音の仕方とミックスのおかげで、デヴィッド・ボウイがハンザ・スタジオで録ったベルリン3部作や、70年代のトッド・ラングレンの作品のような、良い意味でのチープさ、謎の空気感が出ています。日本のスタジオのグランドピアノでは出せない音です。
真城めぐみさんは大好きなボーカリストで、彼女とあのようなデュエット形式でアレンジできたのは光栄でした」
――2人のコーラスというよりも、1人の人間の内面が重層的に表れているような印象を受けました。
「“Wの悲劇”というタイトルは角川映画からのものですが、この〈W〉は自分の中の二面性、アンビバレントな感情が並列した状態を表現したかったのかもしれません。ハモリも3度上でずっと行くのではなく、真城さんと並走しているような距離感になった。カバーされることの多い名曲だからこそ、ゆう大と真城さんと相談しながら、今までにない不思議な形に仕上げられたと思っています」