これは神々の戯れか? それとも天才学者たちが凌ぎを削る知的応酬か? 凄腕ミュージシャン4人を揃えるバンドが新作を完成――『Biblion』をめくった先には、アドレナリン全開の音楽体験が待ち構えている!!!!
一曲一曲が異なる物語
彼らの名前を知らなくても、その演奏はきっとどこかで耳にしたことがあるはず。日本を代表するアーティストのレコーディングやライヴのサポート、ドラマ・映画の劇伴、アニメやゲーム音楽に至るまで、さまざまな音楽の現場で活躍する4人の実力派ミュージシャンが集結したインストゥルメンタル・バンド、それがDEZOLVEだ。2014年の結成時から共に活動する友田ジュン(キーボード)、山本真央樹(ドラムス)、2015 年に加入した北川翔也(ギター)、そしてサポート期間を経て2022年に正式メンバーとなった兼子拓真(ベース)が志向するのは、フュージョンの伝統を礎にしながらも従来の枠に収まらない創造力豊かな音楽性。〈dissolve(=溶解)〉を語源とするバンド名が象徴するように、彼らの奏でるあらゆるジャンルが溶け合ったインストゥルメンタル・ミュージックは、カラフルかつテクニカルな刺激に満ちていて、10周年イヤーを経たいまなお、進化が止まらない。
「僕がDEZOLVEを初めて聴いたときに驚いたのは、楽曲ごとに全然ジャンルが違っているけれど、どの曲にもしっかりとDEZOLVEらしさが感じられたこと。フュージョンもそうですがインスト・バンドは歌がないので〈どれも同じような曲に聴こえる〉と思われがちですけど、そういう先入観はさておき、一度聴いてもらえると何かしら刺さる曲は絶対にあると思います」(兼子)。

約1年半ぶり、通算8作目となるアルバム『Biblion』は、メンバー各自の趣味嗜好がクロスオーヴァーした全12曲を収録。全員が作曲できるバンドの強みを活かした、音楽性の幅広さと懐の深さを知るのに格好の作品となった。
「今回のアルバムのコンセプトは〈自由〉。メンバー各々がいまDEZOLVEでやりたいことを持ち寄るところからスタートした結果、多種多様な音楽性が並び、〈まるで一曲一曲が異なる物語のようだね〉となったんです。そこからアルバム全体を〈図書館〉に見立てて、ラテン語で〈本・書物〉を意味する『Biblion』というタイトルにしました」(山本)。
最近のDEZOLVE、大人しくない?
今回の取材には不在だった北川は、アルバムの幕開けを飾るロッキンな重量級フュージョン“Stray Bullet”を含む4曲を制作。友田が「彼は半分〈数学者〉というか、音楽を数式や設計図として捉えている節がありますね。一人だけ白衣を着て作曲しているイメージ(笑)」と評価する通り、ハーフタイム・シャッフルをさらにトリッキーにしたリズムが不思議なグルーヴと浮遊感を生む“Parallel World”、拍の置き方が独特で「最初は作曲した本人以外はどこが頭(1拍目)なのか把握できなかったんですけど(笑)、その実験的なおもしろさと物憂げで美しいメロディー運びの対比が絶妙」(友田)という“Antipode”などで、らしさを発揮する。また、前作『Asterism』で友田のサポートを得て初めて作曲に挑戦した兼子は、超絶技巧の変拍子アンサンブルがめくるめく展開する“Realm”を単独で作曲。山本が「初期の頃の無茶な全部乗せサウンド、当時のDEZOLVEが持っていた牙を持ち込んでくれた」と語る、みずからの〈Realm=領域〉を展開した渾身の一曲だ。
「DEZOLVEリスナーからメンバーになった自分という、世界で僕一人しか持っていない〈領域〉を表現することにこそ価値があると思って。リスナーとしてDEZOLVEを聴いていた時期の感覚、サポートで学んだこと、メンバーとして3人と過ごすなかで得た知見や楽しさ……それらすべてを大きな鍋に放り込んで、強火で一気に煮詰めるようなイメージで作りました。内心、〈最近のDEZOLVE、ちょっと大人しくなってないですか?〉ってみんなの尻を叩きたい気持ちもありました(笑)」(兼子)。
攻め感の強い北川と兼子に対し、年長組の2人はメロディー重視の多彩な楽曲を用意。友田は穏やかな光が射すミディアム“A Way Yet to Step”とクラブ・ミュージック的なグルーヴを有した“Motion Blur”という対照的な2曲で魅せる。
「“A Way Yet to Step”はどこか懐かしいアメリカーナなテイストを取り入れたくて書いた曲。“Motion Blur”はDEZOLVEの音楽とダンス・ミュージックを掛け合わせたらどうなるか、という実験から始まって、UKガラージのリズムを取り入れてみました。聴きどころは最後に登場するトークボックス。これまでDEZOLVEでは使っていなかった楽器なので、新しい飛び道具として、ソウルフルでグルーヴィーな味付けを加えてみました」(友田)。
良いバランスの入門編
そして最多の5曲を手掛けたのが山本。彼がフルートの腕前も披露した夜行性シティ・ポップ“Velvet Mirage”、前作で初導入された北川と兼子のフレットレス・ギター/ベースのまろやかな音色を活かしたDEZOLVE流アイランド・ミュージック“Coastal Vibes”、ブラス隊を迎えつつ4人の妙技がぶつかり合う“Groovity”、D-50やDX7の実機を持ち込んで80年代後半のリッチな音を再現したバラード“When the Light Returns”が並ぶなか、耳を引くのがゲーム音楽への愛に満ちた“Pixel ∞ Mind”だ。山本と友田、北川は昨年Nintendo Switch 2の人気作「マリオカート ワールド」の一部BGM編曲と演奏を担当。その経験がインスピレーションになったと語る。
「僕らは4人とも大のゲーム好きなので、そのルーツを前面に出してみようと思って、あえてピコピコした8ビットの世界観とフュージョンを融合させました。キャラクター選択画面のSEから、ダンジョン突入、勝利のファンファーレ、エンドロールを経て、〈強くてニューゲーム〉のようにイントロへ戻る、まるで一本のRPGをプレイしているかのような構成にしています。中盤のギターとキーボードが火花を散らすバトル・シーンは、ライヴでは別のメンバーでの対決もできますし、ギミック満載でいろいろと遊び甲斐のある曲になりました」(山本)。
メンバーも「これまでのテクニックの寄せ集めでもなく、かといって難解さを捨てたわけでもない。非常に良いバランスで〈いまのDEZOLVE〉を詰め込んだ、僕らにとっての入門編に相応しい一枚になりました」(山本)と太鼓判を押す本作。この〈音の書庫〉を入り口に、DEZOLVEとフュージョンの奥深い世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
DEZOLVEの作品。
左から、2016年作『DEZOLVE』、2017年作『SPHERE』(共にVEGA Music Entertainment)、2018年作『PORTRAY』、2019年作『AREA』、2020年作『Frontiers』、2023年作『CoMOVE』、2024年作『Asterism』、2025年のライヴ映像作品『10th Anniversary Concert』(すべてキング)
さまざまな作品に溶け込んでいる、匠の技に裏打ちされたDEZOLVEの旨味
昨年、メンバーの3人が「マリオカート ワールド」の一部BGMの編曲や演奏を担当したことでも話題を集めたDEZOLVE。サウンド制作会社のユニークノートと業務提携を結んでいる北川を筆頭に、ゲーム音楽の制作においても引く手あまたで、そこでの経験や私生活でのプレイ体験が、『Biblion』のユニークさに繋がっていることは本文でも語られたとおり。また、アニメの劇伴などでの演奏も多い。
それぞれ超絶技巧を持つプレイヤーたちだけに、結成当初から現在までスタジオやライヴでの演奏/作曲/編曲と多くの局面で重宝される状態が続いている。出自にあたるジャズ~フュージョン畑からJ-Popシーンまで、参加しているアーティストや作品は枚挙に暇がなく、完全に把握/網羅することは難しいが、いずれにせよDEZOLVE的なフレーズやサウンド・カラーは日本のポップ音楽におけるシグネイチャーのひとつだと言っても過言ではないはずだ。
なお、山本と友田、北川はソロ名義や別コンボでのアルバムもリリースしている。いずれも、プレイやアンサンブルの妙を堪能できる名品だが、立ち戻ってDEZOLVEを聴くと、各人がもっとも自由奔放……ともすればアナーキーなまでにアイデアやテクニックをぶつけられるのはやはりこの本隊なのでは、という印象も。 *田中亮太
メンバーの参加作を紹介。
左から、2025年のサントラ『「ワンス・アポン・ア・塊魂」 オリジナルサウンドトラック‐かたまりのまにまに」(ランティス)、2022年のサントラ『HELIOS Rising Heroes』(フロンティアワークス)、2021年のサントラ『「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編』(アニプレックス)、2024年のサントラ『SAND LAND』(サンライズ)、DIMENSIONの2024年作『34』(ZAIN)、角松敏生の2025年作『Forgotten Shores』(ARIOLA JAPAN)、DIALOGUE+の2023年作『DIALOGUE+2』(ポニーキャニオン)、倉木麻衣のB面集『Mai Kuraki B-Side BEST This is Our life』(NORTHERN MUSIC)、Adoの2026年の配信シングル“ビバリウム”(ユニバーサル)、山本真央樹の2021年作『In My World』(キング)、友田ジュンの2021年作『Daybreak』(STEELPAN)、北川翔也が在籍するNankai TRIOの2025年作『Antarctica』(A=tonal)