
“鎌倉物語”と“京都物語”――2つの古都を巡る旅へ
“Anneの街”“少女時代”(ともに1991年)とティーンの揺れ動く感情を丁寧に紡いだのち、最新アルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』(2022年)から“鎌倉 On The Beach”を披露。〈鎌倉〉という土地と呼応し生まれる特別な感慨が会場全体に広がる。MCを挟んで届けられた“うさぎの唄”(1981年)は、宇崎竜童が作曲し、サザンオールスターズの関口和之が詞を書いた1曲だ。演奏が始まると、スクリーンには「まんが日本昔ばなし」を彷彿とさせる温かみあるアニメーション映像と鳥獣戯画を模したイラストが映し出され、農夫の衣装を纏ったダンサー、そして着ぐるみのうさぎも登場し、視覚的にも楽しい演出で会場が笑顔に包まれる。
続く“夕方Friend”(1983年)では打って変わってトロピカルなスチールパンの音色が響き、会場にカリブの風を運んだ。演奏の中盤ではメンバーによる高度なソロ回しに合わせてメンバー紹介をする一幕も。この楽曲はリリースされて以来初のライブ披露となった。続くメンバー紹介を兼ねたMCでは、青山学院大学の後輩であり45年以上の付き合いを持つギターの斎藤 誠がマイクを引き継ぎ、原との学生時代の思い出を披露。その温かい笑いの余韻のなか、原がアコースティックギターを抱えて届けたのが“いちょう並木のセレナーデ”(1983年)。松田 弘がシェイカーを手に取り、バンドはアンプラグドな響きへと移行する。照明によってステージ上に大きな木が現れ、青々しい学生時代を想起させる情景が広がるなか、各楽器との伴奏によって様々な表情を見せる原の歌声に、会場はうっとりと静まり返った。
照明が幻想的な色彩へと切り替わり、ギターのアルペジオが静かに空気を揺らし始まったのは“唐人物語(ラシャメンのうた)”(1998年)。幕末の下田を舞台にした切ない物語を歌ったこの曲のように、原のソロ曲には、知らない街や時代の情景が目に浮かぶものが多い。「国内外を旅する機会は少ないけれど、歌のなかの情景が浮かぶと、その場所に行ったような気持ちになれる」――そうMCで語り、京都と鎌倉という2つの古都での開催と絡めて届けたのが“旅情”(2022年)。最新アルバムに収録されたこの楽曲を経て、鳶の鳴き声と江ノ電の走行音が耳に届くと、“鎌倉物語”(1985年)が静かに姿を現した。きらきらと光る水面を見つめながら昔の恋を思い返すような、美しくも切ないメロディが鎌倉の夜気と重なり、胸の奥をそっと締めつける。
そして祇園囃子の音色が空気を切ると、“京都物語”(2010年)へ。様々な京都の地名が織り込まれたこの楽曲は京都公演でも演奏され、地名ひとつひとつに観客の記憶と感情を呼び覚ます力を持っていた。鎌倉のステージでも、スクリーンに映し出される京都の風景と相まって、バンドの演奏は現地の空気を吸い込んだかのように熱を帯びる。“鎌倉物語”から“京都物語”へと続くこの旅のコーナーは、場所は違えど、いつかの恋心や夢を懐かしく辿る——そんな原の楽曲世界の核心が静かに浮かび上がる今回のアニバーサリーライブのハイライトのひとつだった。