日本初CD化となる『ライヴ・イン・ジャパン:スプリング・ツアー1973』を含む全6タイトルが最新リマスターで復刻!

2025年はデビュー60周年、そして2026年は生誕80年!

 〈好きな女の子と砂浜でも歩きながらずっと一緒だったらいいのになあ、でもそれって、風をつかまえるほど難しい〉と、愛の成就がいかに困難かこんな風に表現するなんて素敵だなと思った。“キャッチ・ザ・ウィンド”、それが、若き日のドノヴァンとの出会いだった。1965年前後のデビュー間もない頃は、フォーク・シンガー然としていて、イギリスのボブ・ディランと呼ばれていた。その後、フォーク・ロック、サイケデリック、ヒッピー、フラワー・ムーブメント等々、新しい言葉がメディアで躍り、カウンターカルチャーが吹き荒れる時代に、彼はみずみずしく存在感を放つことになる。アンティークなビロードの服を着て、花に囲まれ、ヴィブラートのきいた穏やかな声で時代を歌った。退屈だったり、平凡だったり、少なくとも当たり障りなくやりすごすぼくの日常を、音楽という魔法を使って特別な世界に変えてくれた。そんな一人だった。彼の音楽は、風の匂いを運び、感覚の産毛を刺激するような、まるで、大人たちには内緒の、あるいは大人になっても失ってはいけない、ぼくらだけの大切な秘密基地が存在することを伝えようとする音楽でもあった。

 今回、初めて紙ジャケット仕様での再発となった5組のCD、『サンシャイン・スーパーマン』、『メロー・イエロー』、『ドノヴァンの贈り物/夢の花園より』、『ハーディー・ガーディー・マン』、『パラバジャガ』は、1960年代後半にぼくらをワクワクさせてくれたアルバムだ。シタールやハープシコード、ボンゴにブズーキ、そしてハーディー・ガーディ、それらの楽器を使い、フォーク、ロック、ジャズ、クラシック、インドに中近東、そしてケルトの民族音楽等々を交えた音楽で、ぼくらの意識を目覚めさせるような音楽を楽しませた。ジミー・ペイジやジェフ・ベック、ダニー・トンプソンやバート・ヤンシュ等々が若き才気を競ってみせた。いま、こうやって聴いていても、60年近い時の壁を軽やかに飛び越えて、ぼくらにタイムカプセルを開けさせ、現代に新風を吹き込んでみせる。

DONOVAN 『Sunshine Superman』 Epic/ソニー(1966)

DONOVAN 『Mellow Yellow』 Epic/ソニー(1967)

DONOVAN 『A Gift From A Flower To A Garden』 Epic/ソニー(1967)

DONOVAN 『The Hurdy Gurdy Man』 Epic/ソニー(1968)

DONOVAN 『Barabajagal』 Epic/ソニー(1969)

 また、今回は、1973年の来日公演を収めた『ライヴ・イン・ジャパン: スプリング・ツアー1973』の初めてのCD化も話題だろう。大阪での二つの公演から編集され、日本だけで発売されていたもので、しかも、2023年にオフィシャル・サイト限定で発売されたのと同じく日本滞在中に撮影された映像『イエロー・スター』のDVDがセットにされている。ちょっとしたコミカルなストーリーも交え、日本の景色の中で動くドノヴァンが楽しい。それにしても、アコースティック・ギターの弾き語りなのに、会場の天井や壁まで利用しているかのように、一つの宇宙を震えさせるあたりには溜め息がでる。

DONOVAN 『Live In Japan: Spring Tour 1973』 エピック/ソニー(1973)

 いま、改めて幾度目かの“サンシャイン・スーパーマン”から聴き始める。いきなり、サイケデリックというか、エスニックというか、そんな異国情緒にあふれたリズムに導かれ、〈今日は部屋の窓から柔らかい陽射しが〉と歌いだされる。幾つになっても、このワクワクする瞬間は変わらない。殊に、不穏で物騒な、重苦しくて殺気立った世の中だ。身の回りの情報に接するだけでも、苛立ち、怒りっぽくなって、そんな我が身が嫌になるのだけど、彼の歌声が部屋に響くだけで、優しくなれそうな気がして、ぼくは救われる。それどころか、誰にというわけでもなく、申し訳ないけど気分がいい。