アーティストの年代記をディスコグラフィーを辿って紹介する連載。今回はサイケ・フォークの先駆者たる自作自演歌手!
〈イギリスのボブ・ディラン〉と評された60年代半ばから80歳を目前にした現在に至るまで、活動を続けているドノヴァン。その神秘的なフォーク・サウンドは、ニック・ドレイクやベック、ベル&セバスチャンなど多くの音楽家に影響を与えてきました。そんな〈生きる伝説〉というべき自作自演歌手のデビュー60周年&生誕80年を記念して、黄金期と名高い60年代エピックでの5作に加えて、74年に日本でのみリリースされたライヴ盤『Live In Japan 1973』が日本盤・紙ジャケット仕様でリイシュー。なかでもライヴ盤は、2023年にドノヴァンのオフィシャル・サイトで再販売されたのみで、手に入りやすい流通形態での復刻が待ち望まれていた一枚です。いずれも、日本盤LP帯/高品質Blu-spec CD2/最新マスタリングという充実の仕様。ここでは全6タイトルを紹介します! *bounce編集部
それまでのボブ・ディラン・フォロワー的な路線から脱却し、当時勃興しつつあったサイケデリック・カルチャーに急接近した通算3作目。自身のルーツであるケルトやインドの民俗音楽要素を取り入れたサウンドと、中世をモチーフにしたファンタジックな歌詞によって独自の世界観を確立した出世作でもある。全米1位に輝いた表題曲はサイケ・ポップの歴史的名曲だが、いまの耳で聴くとさらに印象的なのが“Season Of The Witch”。ベースが主導する反復的リズムと醒めた熱気を孕んだ歌唱は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの登場を予見しているかのよう。なお、ヤードバーズ加入前のジミー・ペイジが数曲でギターを弾いている。
ドノヴァンはビートルズの面々とも親交が深かったが、その縁でポール・マッカートニー、さらにジョン・ポール・ジョーンズも参加した4作目。前作同様にフォーキーかつアシッドな楽曲が並ぶが、その筆頭ともいうべき気怠くストレンジなタイトル曲が全米2位を記録したのはフラワー・ムーヴメントの全盛期ならではだろう。しかし、それ以上に興味深いのはジャズの要素を大胆に取り込んだ曲が散見されること。特に“The Observation”は体裁としてはポップスだが、ジャズのスピリチュアルな意匠を纏っている点では翌年リリースされるヴァン・モリソンの名盤『Astral Weeks』に通底する雰囲気さえ感じられる。
2枚組全32曲という大ボリュームの5作目。1枚目はエレクトリック色強めだが、実はかつてないほどポップな楽曲が並んでいる。むしろほとんどの曲が〈ソフト・ロック〉だと言ってしまってもいい。なぜかドノヴァンがその文脈で語られることは少ないが、たとえば“There Was A Time”や“Oh Gosh”などは、どう聴いてもソフト・ロックである。もう一枚は生ギター主体で、〈室内楽的フォーク〉とでも称したいインドアで生々しい音像と、(デビュー時のようなディラン風ではなく)英国らしい翳りを帯びた歌唱とギターが儚い。なかでも“The Mandolin Man And His Secret”に漂う白昼夢めいた感覚はニック・ドレイクを彷彿とさせる。
ビートルズらと共にインドを訪問したあとに制作された6作目。当然インド趣味が随所で垣間見られるものの、ジャズ、ドローン、戦前のミュージックホール風、カリプソなど意外なほど幅広いサウンドに彩られたアルバムでもある。しかし、なによりも注目すべきは、ジミ・ヘンドリックスを想定して書かれたという表題曲だろう。震えるような歌唱、ノイジーなギター、エキゾなメロディーと引きずるようなリズムによるこの奇妙なロック・チューンが全米5位を記録したことに驚く。91年にUSオルタナ界随一の変態ジャンク・バンド、バットホール・サーファーズがカヴァーしたが、彼らはこの曲のサイケな暴力性を見抜いていた。
ロンドンとLAでの幾つかのセッションによって完成したこともあってか、この7作目にはレスリー・ダンカン、スージー・クアトロ、マデリン・ベル、ダニー・トンプソン、ジム・ゴードンら多彩なゲストが参加している。とりわけ第1期ジェフ・ベック・グループとコラボした表題曲は、ハードかつファンキーな演奏とグルーヴィーな歌唱が渡り合う異色の名曲。他にも、ファズ・ギターが唸りを上げるガレージ・サイケ調の“Superlungs My Supergirl”、幽玄なフルートが美しいアシッド・フォーク“Where Is She”、オールドタイミーな“I Love My Shirt”、静かな語りから壮大な展開へと発展するヒット曲“Atlantis”など佳曲揃い。
73年に日本でのみリリースされたライヴ・アルバムで、2回目の来日となった同年3月の大阪公演の模様を収めている。新曲を中心に“Josie”などキャリア初期のナンバーや代表曲の“The Hurdy Gurdy Man”を織り交ぜた内容だが、“A Working Man”と“Tinker Tune”はスタジオ録音が残されていないため本作でしか聴くことのできないレア音源。また録音状態も良好で、ドノヴァンの間近で聴き入っているような臨場感を味わえるのが素晴らしい。さらに今回のリイシューでは来日時に密かに撮影されていたドキュメンタリー・フィルムのDVDも付属されているので、当時の雰囲気を追体験するには格好の作品であるのは間違いない。
ドノヴァン
スコットランドはグラスゴー出身のシンガー・ソングライター。65年のファースト・シングル“Catch The Wind”が全英4位を記録し、ブリティッシュ・フォーク・シーンの寵児となる。間もなくUS西海岸のヒッピー・カルチャーに傾倒し、サイケ色を強めた66年作『Sunshine Superman』の表題曲は全米1位に輝いた。70年代半ば以降はチャートから遠ざかるも、2012年に〈ロックの殿堂〉、2014年に〈ソングライターの殿堂〉入りを果たす。2025年にはデビュー60周年コンサートを開催し、12月にニュー・アルバム『What's A Girl』をリリースした。





