全国公開中のドキュメンタリー映画「レッド・ツェッペリン:ビカミング」。公開7日間で興行収入が1億円を突破、洋画ランキング1位に輝き、売り切れ続出のパンフレットは増刷が決定するなど大きな成功を収めている。そんな同作が焦点を絞っているのが、バンドの前史と1stアルバム『Led Zeppelin』(1969年)および2ndアルバム『Led Zeppelin II』の時代だ。そこで今回はバンド初期のアルバム2枚をレビュー。初作に続いて、2作目の記事をお届けしよう。末尾には補足のディスクガイド付き。 *Mikiki編集部

LED ZEPPELIN 『Led Zeppelin II』 Atlantic(1969)

 

発明的ギターリフで歴史を変えた“Whole Lotta Love”

前作がリリース前年の1968年10月に制作されていたとはいえ、1stアルバム『Led Zeppelin』発表から9か月後、怒涛のペースで1969年10月22日にリリースされたのがこの『Led Zeppelin II』だ。アトランティックからの要請もあり、ツアーの合間合間にイギリスやアメリカ各地のスタジオで忙しなく録音され、なおかつ録音環境としてお粗末なところもあったという事実からは考えられないほど本作はアルバムとしての統一感があり、完成度は極めて高い。それゆえ初期レッド・ツェッペリンは1st派か2nd派か、ファンの間でも意見が分かれるところではないだろうか(ちなみに米ローリング・ストーンは2020年版〈歴代最高のアルバム〉で1stを101位に、2ndを123位にランクしている)。それほど1969年の一年は、バンドにとって濃密かつ充実した時間だったと言える。

まずは何よりも、開幕の“Whole Lotta Love”だろう。メタルの原風景の一つと言っていい5、6弦のヘビーな音を活かしたギターリフは発明的で、ロックにおけるリフの新時代を切り開いた。ギターはこの曲の主役であり、ジミー・ペイジの技を存分に味わうことができる。様々な技法を駆使したブレイク部分もそうだが、その後、キンキンと歪んだ音で弾きまくるギターソロが強烈だ。約15秒と短いものの、すさまじく雄弁。ギターという楽器の表現の幅を大きく広げたのはジミ・ヘンドリックスだろうが、それに次ぐ才能がジミー・ペイジだったことがよくわかる。

官能性も、“Whole Lotta Love”のキーワードである。歌詞はマッチョな男視点のセックスが歌われたものであることは明らかで、ロバート・プラントの歌はのちの“Black Dog”などと同様に喘ぎ声のような発声をしており実に官能的。音楽でもそれを表現しており、コンガなどのパーカッションやテルミンを用いたブレイクパート(本作では、ほかの曲でも様々な楽器が実験的に用いられている)、音や歌がぐるぐると回転するかのように左右のチャンネル間を勢いよく動き回るパンニングは過激かつ艶めかしい。過剰で変則的なミックスはサイケデリックロックの時代に試みられていたことを引き継いだものだが、それをより曲のテーマや演奏に沿った形で自然に聴かせることに成功している(エコーの活用など音響やミックスのマジックは、作品至上主義のZEPが得意としていることだ)。今ならDolby Atmosミックスでぜひ聴いてみたいのが、“Whole Lotta Love”という曲である。

“Whole Lotta Love”はマディ・ウォーターズの“You Need Love”(作曲はウィリー・ディクスン)と似た部分があることから訴訟沙汰になったエピソードもあるが、聴き比べてみればわかるとおり、ほとんど別物である。ブルースやロックンロールのレガシーを受け継ぎながら、それらを衝突・混交させ、斬新な発想の演奏でまったく新しい音楽を生み出すZEPの個性は初期から一貫している。