
シーンの激しい変化に反応したフュージョン“ブエン ディア”
――B面曲“ブエン ディア”はガラッと雰囲気が変わってクロスオーバー風味ですね。
岡井「茂木くんのウーリッツァーがうちに置いてあった時に、それをいじって個人的に作った曲です。でもシングルのB面曲なら、こういうのでも構わないだろうというノリで入れました(笑)」
森園「当時の音楽シーンは日々目まぐるしく変化していて、ピンク・フロイドなんかも聴いてはいたけど、一方ではデオダートとかビリー・コブハムとか、いわゆるクロスオーバーも聴いていて、演りたくなっちゃうわけですよ」
岡井「ギタリストのモリはそんなふうにジャズ/フュージョン系にどんどん詳しくなっていったんだけど、僕はやっと(アントニオ・カルロス・)ジョビンの“Wave”を好きになり始めたくらいで、それでデオダートの“Moonlight Serenade”は気持ちいいなとか思うようになってた(笑)」
森園「佐久間くんが入った頃には荻窪のLOFTで、デオダートやボズ・スキャッグスの曲をなんの脈絡もなく演ってたよね」
岡井「まあ、つまり“ブエン ディア”は僕の曲なんですけど、生まれた経緯からして、四人囃子の流れの中に存在している曲じゃないんです。
でも、この曲が交通情報のBGMに使われたことによる印税が役に立って、モリが抜けた後に佐藤ミツルくんとセッションするために北海道へ行く時の旅費になったというオチもあります(笑)」
純粋な衝動だけで作ったアルバム
――この時期の四人囃子への、最近の海外や若い世代からの再評価についてはいかがでしょうか?
岡井「ネットの時代になってからの豊富な情報量でいくと、ある意味で本場でのネタも尽きぎみだったりしてないですかね。もしそうなら、ちょうど聴きやすくて西洋文化を基盤にして作られた音楽が改めて掘り起こされているとか……。その中の一つとして引っかかり、個性のある音として聴こえているんだろうなと思います」
森園「和風というか、日本的な部分も個性として認めてくれたんじゃないかな。今、世界の若者に日本語の上手い人が多いのは、アニメとかで聴く機会が多いからなんだってね。オレたちがビートルズを聴いて英語を覚えたように、日本語の上手い人が多いらしいよ」
岡井「50年前の作品ですが、いつの時代にもバンド名先行ではなく作品ありきで聴いてもらえて、評価の対象にしてもらえるのは、きっと何か訴えるものがあるからなんだな、という自負心は持たせてもらってます。
100%納得のいくレコーディングだったかと聞かれれば、それは難しい質問ですね。その後経験を積んでから思うことはまた別ですから、この時は目一杯やらせてもらったと思ってます」
――改めて、〈今思えば……〉という問いかけを敢えてするなら、どのようにお答えになりますか?
森園「ギターに関しては、僕がこれまでたくさんレコーディングしてきた中でベストのサウンドだと思う。あんな音は二度と出せないよ。プロフェッショナルな聴き方をすれば、厳密にはピッチが微妙な箇所があるんだけど、その点も〈味〉と思ってくれたら嬉しいね」
岡井「ドラマーとしては今の自分の方が上手いと思っていますので、録り直すことができたらいいんですけどね(笑)。でも、その今の自分よりアレンジメントやサウンドの雰囲気にちゃんと貢献したドラムを叩けていたようだなと思っています。
アルバムの構成的なことでしたら、初めて聴く人のためには“おまつり”から始まった方がいいかもしれませんね。“[hΛmǽbeΘ]”とかSEとかって、時代と共に美学・美観の対象じゃなくなっていくような気がするんですよ。元の構成やテイクに対して失礼にならない程度に、新しいマスタリングみたいな感覚での、アーティストが関与するリイシューは、これからあってもいいなと思っています」
――70年代前半という、あの特殊な時代というものを考慮に入れることでどのような考察ができますでしょうか?
岡井「あの頃の約4年間はグローバルなカウンターカルチャーの時代で、少年心をロックというものに刺激されて音楽を作っていました。
その後の時代は、売れることも含めて成功することがプロには必要になってきますが、僕たちが始めた頃は有名になるとかスターを目指すためのモノではなく、まずやりたい音楽があって〈こんなことやれたら笑っちゃうよね〉とか〈こんな音楽を作れたら興奮するよね〉みたいなノリでしたから、純粋な衝動だけで作ったアルバムと言えますね」
森園「ポップスというものは元々売るための音楽なのに、あの頃の4年間は考え方が逆転してたんだよね」
岡井「そういう世界的な息吹がなければ、デビュー当時のグレイトフル・デッドなんかが時代のアイコンとして活動できるわけないもんね」
森園「四人囃子はあの時代の空気の中で生まれたんだと思う。そこで1969年のウッドストックの出演者の中で誰が一番好きかっていう話しになるんだけど、誰だと思う? メンバー4人とも、カントリー・ジョー・マクドナルドなんだよ。意外だと思われるだろうけど、ピンク・フロイドじゃなくてそこで繋がってるバンドなんだ」
岡井「あと、ビートルズに関しては全員オッケーだった」
森園「皆んなの意見が合うのがビートルズ(笑)」