悲しみによりフリーズしたソウルがついに鼓動を始めた。僕らはただ演奏するのみ――9年ぶりのアルバム『Gravity Freeze』に2人が込めた、バンドのあるべき姿とは?

 バンド単独名義のスタジオ・アルバムとしては9年ぶりとなる、リトル・バーリーの通算6作目『Gravity Freeze』が、ブラック・キーズのダン・オーバック主宰で知られるレーベル、イージー・アイ・サウンドからリリースされた。その長い空白は、2017年に前作『Death Express』を発表してからわずか7週間後に始まった。ドラマーのヴァージル・ハウが突然の心臓発作で急逝。バンドの存続を問わざるをえない喪失だった。

 「本当に辛かった」と、2月の来日ツアー中に取材を受けてくれたバーリー・カドガン(ヴォーカル/ギター)は語る。

 「3人で特別なものを持っていたから、続けられるのかわからなかった。でも演奏する以外に何ができる? ヴァージルはいまもこのバンドの一部だよ。ただ違うものになるだけなんだ」(バーリー)。

LITTLE BARRIE 『Gravity Freeze』 Easy Eye Sound/Concord(2026)

 そのショックを静かに抱えながら前進するために、バーリーとベーシストのルイス・ワートンが選んだのは、長年の友人であるドラマー/プロデューサー、マルコム・カットとのコラボレーションだった。そのパートナーシップは2020年の『Quatermass Seven』と2025年の『Electric War』という2枚のアルバムを生み出し、3人で来日公演も敢行。そうしたプロセスがバーリーとルイスをゆっくりと、しかし確実に再生させていった。

 今回の『Gravity Freeze』は、その経験を経て辿り着いた、純然たるリトル・バーリーの作品だ。マルコムとの2作が即興と実験を軸にした探求であったのに対し、本作はR&Bとソウルに根差した楽曲の強度を前面に押し出している。

 「ヴァージルを失ったあとに書いた曲を眺めていると、マルコムと作り上げたい曲、リトル・バーリーのレコードになりそうな曲、自然とふたつの陣営へと分かれていったんだ」(バーリー)。

 一方でマルコムとの仕事から学んだダイナミクスの感覚、音を詰め込まず曲に呼吸させるという考え方は、確実に本作にも流れ込んでいる。

 「『Death Express』は制御不能な列車を止めようとしているような感覚だったけど、今回はもう少し息継ぎをさせたかった」(バーリー)。

 ルイスも、その変化の手応えをライヴを通して実感したという。

 「音数を絞っても、観客はちゃんと反応してくれる。すべてを全力で埋め尽くさなくていいと気付いたんだ」(ルイス)。

 レコーディングはスティーヴ・クラドックやPP・アーノルドの作品にも参加しているトニー・クートをドラマーに迎え、北ロンドン・ホーンジーの小さなミックス・ルームで、プロデューサーのルパート・リドンと共に行われた。ソファを縦に立ててドラム・キットを搬入するほどの狭さの中、全員がライヴ演奏で録音するというアプローチを採用。バーリーとルイスはアンプ・シミュレーターを通して音作りを行い、さらにベースはPCを経由したうえで古いVOXのアンプから鳴らしたという。

 「部屋にあったキャビネットの背面パネルが緩んでいて、ベースを弾くたびにバタついたんだよ。だから、ルパートと僕が両手でパネルを押さえながら録ったんだ」とバーリーは笑う。コミカルな光景ではあるが、小さな部屋でこそ得られるギター・サウンドの手応えは、バンドが2022年に手掛けたTVドキュメンタリー「Year Of The Dog」のサウンドトラックで確かめていた。だからこそ大きなスタジオを必要としなかった。

 陰鬱さの漂うオープナー“More Bad Miles Of Road”はベースが曲を牽引するミニマルな構造で、デュアン・エディを思わせるダークな質感を持つ。7分超の“Luggin’ Hurt”はほぼ全編ライヴ演奏で、長いジャムから生まれた。「テレヴィジョンが『Marquee Moon』の10分近いタイトル曲でアナログ盤のA面を閉じたように、この曲を4曲目に置くことでレコードのバランスを取ろうとしたんだ」とバーリーは意図を伝えてくれた。

 物憂げな“December”、サイケ感が漲る“Wire”なども収録した作品の表題曲は、バーリーが経験した金縛り状態からインスパイアされたという。

 「目が覚めたのに体が動かせない。その奇妙な宙づり感を僕は〈Gravity Freeze〉と表したんだ」(バーリー)。

 リンク・レイのインストゥルメンタル・ヒットや、ジェイムズ・ブラウンやシュギー・オーティスらのソウル~ファンク。そうした音楽への愛情が、バンド独自のフィルターを通して9曲に染み渡る。その愛と誠実さこそが、21年間ブレることのないバンドの核心だ。悲嘆と再生を経て辿り着いた本作は、リトル・バーリーがいかに深く、いかに遠くまで来たかを静かに、しかし力強く物語っている。

リトル・バーリーの作品を一部紹介。
左から、マルコム・カットとコラボした2025年作『Electric War』(Madlib Invazion)、2017年作『Death Express』(Non-Delux)

リトル・バーリーのメンバーが参加した作品を一部紹介。
左から、ロバート・フィンリーの2025年作『Hallelujah! Don’t Let The Devil Fool Ya』、マイルス・ケインの2025年作『Sunlight In The Shadows』(共にEasy Eye Sound)、リアム・ギャラガーのライヴ盤『Knebworth 22』(Warner)