©Rosie Cohe

ダップトーンから登場したヴィンテージ・ソウルの体現者がセカンド・ステップへ到達! さらにパワフルに進化したパフォーマンスが時流を越えて表現する〈愛の教義〉とは?

 「毎日1964年のデトロイトでファンク・ブラザーズとレコーディングして目覚めたいと思っていると言っても誇張じゃない。でも僕の人生はそうじゃない。だからできることは、その音と時代への思いと魅力を表現し続け、ただアーティストであり続けることなんだ」。

 こう語るジェイレン・ンゴンダは、94年生まれでメリーランド州ウィートンの出身。シャロン・ジョーンズやリー・フィールズ、チャールズ・ブラッドリーといったソウル・シンガーを送り出してきたブルックリンの名門ダップトーンと彼が出会ったのは運命的だったのかもしれない。

 「11歳の時にラジオでテンプテーションズを聴いたのが始まりだった。衝撃だったよ。古い音楽だということはわかったけど、〈どうしてこんなに良い音なんだ?〉と思ったんだ。それで1964年には他にどんな音楽が出ていたんだろうと思って、ビートルズやアニマルズ、ソニー&シェールを聴いた。古いかどうかは関係なくて、ただ音が好きだった」。

 祖母から山ほど譲り受けたスタックスやモータウンの7インチを聴き漁った彼は、ギターや鍵盤、ドラムの演奏も独学で習得して楽曲制作を開始。やがて家族や地元の教会の後押しを受けてリバプール舞台芸術学院(創設者はポール・マッカートニー)に進むために渡英するが、基礎課程を修了すると自身の活動に専念するため中退してロンドンに移り住む。2016年からは自主で楽曲配信もスタートし、数年の奮闘を経てローリン・ヒルやマーサ・リーヴスのツアー・サポートも務めた彼は、2022年にダップトーンと契約。翌2023年のファースト・アルバム『Come Around And Love Me』はヴィンス・キアリートとマイク・バックリーのプロデュースで、彼らはいずれもイーケイベイ・シェイクダウンやリゾネアズ(マーケット・イーストのヴィンセント・ジョンも在籍)などのバンドで活動してきたディープ・ファンク/アフロビート/ヴィンテージ・ソウル系の気鋭たちだ(レコーディングも彼ら所有のハイヴ・マインド・スタジオで行われている)。演奏面ではこの界隈で馴染みのヴィクター・アクセルロッドやベニー・トロカン、ブライアン・ウルフらが援護している。アルバムからはシングル“If You Don’t Want My Love”がヒット。エルトン・ジョンやスヌープ・ドッグのようなセレブからの支持も集めた彼は翌年に〈グラストンベリー〉出演も果たすことになった。

JALEN NGONDA 『Doctrine Of Love』 Daptone(2026)

 そしてゴリラズやホリー・クックとのコラボも経験したジェイレンから届いたのが待望の新作『Doctrine Of Love』だ。引き続きハイヴ・マインドのチームと組んで、前作で確立された彼ならではの作法にさらなる洗練が意欲的に加えられている。エレガントな冒頭曲“Anyone In Love”や〈愛の教義〉という大仰さが似合う表題曲からも顕著な、全体的なトーンの変化について彼はこう説明する。

 「前作は初期70年代的な雰囲気で、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールド、デルフォニックスをたくさん聴いていた。今回のアルバムは68年あたりに設定しているから、50年代半ばのニューオーリンズのレコードやガール・グループ、ビートルズやバーズのようなフォーク・ロックを聴いていた」。

 そんな彼の現代的なブレンド感覚こそが往時のソウル・ミュージックの在りようを体現するものなのかもしれない。曲名通りに弾けるアップ・ナンバー“Burning Temptation”、苦味を湛えたサザン・マナーの“I Can’t Ever Leave You”、ドゥワップ風味も取り込んだ“Good Good Love”など幅広いスタイルの好曲が並び、先行シングルだった名曲“Hang It On The Shelf”ももちろん収録。荒々しさと瑞々しさを備えた極上のファルセットも最高だし、何よりバック・シンガーとの掛け合いも含めたサウンドの全体像が今回も素晴らしすぎる。理屈じゃなくシンプルに聴いて心が動くようなジェイレンの教義に触れてみてほしい。 *出嶌孝次

左から、ジェイレン・ンゴンダの2023年作『Come Around And Love Me』(Daptone)、ジェイレンが客演したホリー・クックの2025年作『Shy Girl』(Mr. Bongo)、ゴリラズの2026年作『The Mountain』(Kong)

 

©Raka Syahreza

インドネシアからビッグ・クラウンを経由して吹いてきた、スウィートでサイケでエキゾな懐かしくも新しい風! よりボーダレスになった待望の2作目はどんな情緒を伝える?

 NYブルックリンを拠点に世界各国のヴィンテージなソウルやファンクを送り出しているリオン・マイケルズ主宰のビッグ・クラウンから2024年に『Perak』でアルバム・デビューを果たしたマーローズ。インドネシア第2の都市として知られるスラバヤ出身の3人組で、メンバーは聖歌隊出身でヴォーカル/キーボードを担当するナタッシャ・シアントゥリ、ドラムスのトミー・サトウィック、ギターなど複数の楽器を操り、プロデュースやエンジニアリングも行うシナティリヤ・ダッラカから成る。母国の村にちなんだグループ名には、ハート・トーンズやセイクリッド・ソウルズらと同じくミッドナイターズ(Thee Midniters)への憧れから〈Thee〉を冠し、チカーノ・ソウルのようなメロウでスウィートな曲を披露。が、マーローズはチカーノではなく、英語とインドネシア語を使い分けたリリックでエキゾティックなムードも漂わせながらラウンジ感のある洒脱な曲を奏でている。そんな彼らの2年ぶりとなるアルバム『Di Hotel Malibu』が到着した。

THEE MARLOES 『Di Hotel Malibu』 Big Crown(2026)

 その新作に“6 Years”という曲がある通り、グループの結成は6年前の2020年。同年に自主レーベルから“Nanti”、2021年に“Love Potion”といったシングルを出し、その後、憧れのビッグ・クラウンと契約を結んだ。2023年に7インチで発表した“Midnight Hotline”のほか、“I Know”“Not Today”といった人気曲を収録した初作『Perak』は、タイトルに地元スラバヤにある貿易港の名前を用いているように、インドネシアから世界へ飛び立つ彼らのボーダレスな感覚が滲む作品だった。

 実際に影響を受けた音楽も、母国のレジェンドを含む新旧のソウルをはじめ、ラテン、ジャズ、ヨット・ロック、さらには山下達郎のようなジャパニーズ・ポップスまでと幅広い。マッドリブやエイドリアン・ヤングにも憧れる彼らの音楽はヒップホップを経由したヴィンテージでサイケデリックな現行ソウルのビート感もあり、リオン・マイケルズが手掛けたノラ・ジョーンズに近い雰囲気も漂わせるが、メロディーやブリッジ、コーラスにはアジア的とも言える繊細さや切なさを感じさせる。

 新作『Di Hotel Malibu』ではそんな前作の美点を踏襲しながら、ノスタルジックでシネマティックな曲を展開。プレスリリースによれば〈社会的な現実、揺れ動く恋愛関係、成功によってもたらされた変化〉を描いたという。遠距離恋愛における苦さと甘さを歌ったという冒頭の“Under The Silver Moon”からナタッシャの甘く優しいヴォーカルが映えるクラッシーなソウルが登場し、アルバムはこのムードを基調として進んでいく。トロピカルなムードの“Through The Changes”など、前作以上にメロディアスでスムースな曲が増えた印象も受ける。エレキ・シタールが悩ましく響くスロウ“What’s On Your Mind”、ギロやグロッケンシュピールを鳴らしながらラテンのリズムで進行する“The More”では、グループ名に〈Thee〉を冠した彼ららしいチカーノ・ソウル的な趣味も顕になる。

 ソングライティングはメンバー3人を中心に行われているが、共作者としてビッグ・クラウンの共同設立者であるダニー・アカレプスが名を連ねた曲もある。先に挙げたチカーノ・ソウル風情の曲に加えて、爽やかで軽快な“I’d Be Lost”、ドラムやパーカッションと共に疾走するグルーヴィーな“I’m Just A Girl”、タイトなドラム・ビートにヴィブラフォンの音色を絡めた“Crazy Eyes”などには、以前ダニーがマネージャーとして関わっていたトゥルース&ソウル一派のファンクネスも感じられる。

 表題曲など、今作でもインドネシア語で歌われた曲が複数あり、希望と不安をテーマにしたという“Harap Dan Ragu”での70年代ジャパニーズ・ポップスに通じるノスタルジックなメロディーと仄かに漂うエキゾ感には、彼らが東南アジアのグループであることを改めて実感させられる。幻想的なムードを漂わせたラストの“Rahasia”まで、流れる空気はひたすら穏やか。そんなアルバムを提げて9月に行われる2年ぶりのジャパン・ツアーも大盛況になりそうだ。 *林 剛

左から、マーローズの2024年作『Perak』、ハート・トーンズの2024年作『Forever & Ever』(共にBig Crown)、セイクリッド・ソウルズの2024年作『Got A Story To Tell』(Penrose/Daptone)

 

ジェイレン・ンゴンダとマーローズに繋がるヴィンテージな地下鉱脈の良品たち!

MARKET EAST 『French Street』 Eraserhood Sound/Colemine(2026)

トゥルース&ソウル〜ビッグ・クラウン音源でよく演奏していたヴィンセント・ジョンが故郷のフィリーで興したレーベルから、彼を含むトリオの初作がリリース。バロック・ソウルとソフト・ロック、ドゥワップ、サイケが融和したヴィンテージな意匠と清らかな3声のハーモニーが甘い憂いを美しく伝える。ミックスはヴィンス・キアリート。

 

THE JAMES HUNTER SIX 『Off The Fence』 Easy Eye Sound(2026)

ダン・オーバック(ブラック・キーズ)主宰のイージー・アイ・サウンドもリオン・マイケルズらとは縁の深い一派だけに、ダップトーンで活躍してきた英国のヴェテランの移籍も実に自然でスムース。変わらずボスコ・マン制作のペンローズ録音で50〜60年代のサウンドを追求し、ミックスはナッシュヴィルでオーバックが手掛けている。

 

KIRBY 『Miss Black America』 Diamond West(2025)

メジャー・アクトのコライトやコーラス仕事を多く手掛け、エル・マイケルズ・アフェア作品でも歌っていたミシシッピの実力派シンガーが、トーマス・ブレネック率いるダイアモンド・ウェスト勢のバックアップで作り上げた初のアルバム。生音主体のトラディショナルなサザン〜ゴスペル感覚をモダンな質感で豊かに響かせたソウルフルな快作だ。

 

THE OLYMPIANS 『In Search Of A Revival』 Daptone(2026)

ダップ・キングスやエル・マイケルズ・アフェアでも活躍したマルチ奏者、トビアス・パズナーのプロジェクトによる9年ぶりの2作目。前作以上にエイドリアン・ヤングにも通じるシネマティックで劇画的なインストの風情はダップトーンよりもビッグ・クラウン寄りでもある。ヴィンス・キアリートがミックスを担当し、ベニー・トロカンも参加。

 

BRUNO MARS 『The Romantic』 Atlantic/ワーナー(2026)

年頭を席巻した問答無用の世界的ヒット作。かねてからダップトーン一派のヴィンテージ感と縁のある人だが、本作ではセイクリッド・ソウルズやアルトンズでお馴染みのペンローズでホーン・セクションを録音し、ガブリエル・ロス(ボスコ・マン)とアンソニー・マシノのエンジニアリングに麗しいチカーノ・ソウル感の表出を託している。

 

LES IMPRIMÉS 『Fading Forward』 Big Crown(2026)

ノルウェーはクリスチャンサン在住のマルチ演奏家、モーテン・マーテンスのセルフ・プロジェクトによる2作目。前作にはリオン・マイケルズも少し関与したが、今回は濃密な独自性を増して昼下がり系のメロウなサウンドを洗練味たっぷりに奏でる。フリー・ソウル的な音の洒脱さと不器用な歌声の甘いマッチングは今回も最高だ。