TVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズの関連アルバム5作品、そしてアニメ映画「イノセンス」のサウンドトラックがそれぞれアナログ化され、2026年7月22日(水)と8月26日(水)に3作品ずつリリースされる。「S.A.C.」シリーズは菅野よう子、「イノセンス」は川井憲次が指揮を執り、いずれも単体の音楽作品として高い完成度を誇っている。
7月からは士郎正宗の原作コミックをベースとした新アニメシリーズ「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」の放送も控えるなか、ライターの北野創に全6作品をレビューしてもらった。 *Mikiki編集部
〈ヴァーチャロイド・シンガー〉のシャロン・アップルの楽曲においてサイバネティックなサウンドを構築した「マクロスプラス」(1994年)や、ジャズからドラムンベースまで取り入れた「カウボーイビバップ」(1998年)などの前例からも予測できた通り、菅野よう子のジャンルや国境の垣根を感じさせないコスモポリタンな音楽性は、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(2002年)の世界観にこの上なくマッチしている。
ロシア人シンガーのオリガがロシア語だけでなく英語も交えて歌うオープニングテーマ“inner universe”や第1話で流れたガブリエラ・ロビンの霊妙な歌声が舞うトライバルテクノ“スタミナ・ローズ”を筆頭に、ワールドミュージック的な要素とデジタルビートが融合した楽曲群は作品のサイバーパンクな世界観を拡大。タブラをフィーチャーしたメディテイティブなインスト“surf”はタルヴィン・シンのようでもあるし、かつてトリップホップやビッグビートと括られていた英国~欧州圏のエレクトロニックなポップミュージックとの共振性を感じさせるサウンドは、今の耳で聴いてもなお新鮮だ。
イタリア人歌手のイラリア・グラツィアーノが歌う“where does this ocean go?”はどこかビョークの“Hyperballad”っぽい。一方で今堀恒雄のギターが暴れ倒すプログレハードな“ヤキトリ”をはじめ菅野作品ではお馴染みの凄腕演奏陣が支える人間味に満ちた楽曲も多く、スコット・マシューが歌うエンディング主題歌“lithium flower”は公安9課の野郎ども目線から〈少佐〉こと草薙素子の〈いい女〉ぶりを描いたような電化ブルースに仕上がっている。
むさ苦しい面々ときな臭い事件ばかりの公安9課にコミカルな空気をもたらしてくれるマスコット的な存在、AI搭載型思考戦車のタチコマにフォーカスしたミニアルバム。アニメ本編のタチコマ登場回やDVDに収録されたショートアニメ「タチコマな日々」で使用された楽曲が中心で、軽やかでどこか稚気を帯びたアンサンブルが微笑ましい室内楽“タチコマの家出”やファニーなフレンチテクノポップ風味の“お散歩タチコマ”など、1~2分程度のかわいらしい小品が多く並ぶなか、アニメ第12話「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」の迷子の犬を探す少女との交流シーンを印象深いものにした“ロッキーはどこ?”のように哀愁を帯びたノスタルジックな楽曲も。スコット・マシューが歌うドリーミーな表題曲“be human”で繰り返し登場する〈if I only was more human(もっと人間らしくあれば)〉という願いの言葉は、劇中で徐々に自我と思われるものを形成していき、第25話でバトーを救うために自ら犠牲となったタチコマのことを思うと涙なしには聴けない。
オーケストラがまるで弔いのように深い悲しみと慈しみを持って重厚な音楽を奏でる“piece by ten”から、サニーという名のまだ子供と思われる歌い手がタチコマに呼びかけるように歌うジャズボーカル曲“what can I say?”で締め括られる構成も込みで、菅野よう子の愛と思い入れがたっぷり詰まった〈タチコマ追悼盤〉だ。なお、CDではシークレットトラック扱いだった、タチコマ役の声優・玉川紗己子が歌う戦隊ソング風の“AI戦隊タチコマンズ”や「タチコマな日々」のSEを含む7曲もアナログ盤にしっかりと収録されているので、思う存分タチコマとの日々に浸ってほしい。
ツインドラムの生演奏のような躍動感に満ちた高速ブレイクビーツと勇壮なオーケストレーション、ガブリエラ・ロビンの透き通るようなボーカルが一体となって迫る圧巻のバトル曲“サイバーバード”で幕を開ける、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(2004年)のサントラ第1弾。無国籍な神秘性は保ちつつデジタルロック色を強めたサウンドが生々しい熱量を放つオリガ歌唱のオープニングテーマ“rise”、TV地上波放送版のオープニングを飾ったjillmaxによるラップ入りミクスチャーファンク“GET9”と、シリーズ前作にも増してボーダーレスかつ雑多な楽曲が詰め込まれており、本作の刑事ドラマ的な側面を補強するようなチェイス感溢れるジャズファンク“ride on technology”などのインパクトもあってか、アルバム全体としてはアッパーかつエネルギッシュな印象が強い。
もちろん公安9課の面々の群像劇としての魅力に寄り添う叙情的な楽曲も多く、スコット・マシューのブルージーで気怠い歌声が心に染み入る曲名通りのナンバー“サイケデリックソウル”、〈shell(=義体)〉の中に眠る自分自身の本質(=ゴースト)を見つめるような冷静さとエモーションを湛えたスティーヴ・コンテ歌唱のエンディングテーマ“living inside the shell”は、本作のハードボイルドな一面を象徴している。
そして最終話のクライマックスで流れるイタリア語のドラマチックな歌曲“I do”。イラリア・グラツィアーノの可憐で繊細な歌声が紡ぐのは、記憶や人格の改ざんさえも可能で〈個〉の概念が揺らぐ電脳ネットワーク社会において、それでも〈I do〉と自らの意志を示し貫くことの美しさ。それは草薙素子の高潔さにも通じるものだ。
「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」のサントラ第2弾となる本作は、佳境に差し掛かるにつれて緊迫感が増していく物語とシンクロするように、公安9課の作戦シーンで流れる楽曲はよりアグレッシブに、軍事サスペンスを象徴する不穏かつミステリアスな楽曲はよりスケール豊かに、そして〈個〉の在り方を問い質す作品の本質に触れるような楽曲はよりディープに描かれている。生演奏とデジタルエディットを織り交ぜた複雑なポリリズムが圧倒的なグルーヴを生み出す“break through”、インダストリアルなビートとタブラが交差する“access all areas”といったインスト曲の苛烈さたるや凄まじく、高速スクラッチと共に展開するハードなミクスチャーロック“レーザーシーカー”のアンサンブルの厚みもシートベルツとほぼ同メンバーが演奏している本作だからこそ。
ちなみにシンセプログラマーとして参加している浦田恵司は元Aragonのメンバーであり、芸能山城組のサウンドアーキテクト担当として映画「AKIRA」(1988年)のサントラにも大きく貢献した存在。そのように菅野サウンドにおいてはミュージシャンの力も大きく、同じく菅野が手掛けた「カウボーイビバップ」の劇伴にも関わっていた菊池成孔が深く物悲しいトーンでサックスソロを披露する“エウロペ”は、前半は映画「ブレードランナー」の名曲“Love Theme”を彷彿させる部分もありつつ、後半はECMのような抒情的かつ無国籍なジャズに発展する逸品だ。
その他にも、ガブリエラ・ロビンの造語による宗教音楽的な多重コーラス、神秘的なシンセサウンド、トライバルなビートが混然一体となって広がる“トルキア”は本作を象徴する人気曲のひとつ。スコット・マシューの何重にも揺らぐ歌声が存在の不確かさを思わせる壮大かつエレクトリックな決別の歌“dear john”などの歌曲も充実している。
2006年にOVAで発表された続編「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」のサウンドトラック。オリガがみたび担当したオープニングテーマ“player”は、女性デュオのHeartsdalesによる鋭角的なラップが加わることでさらに激しくエッジーなデジタルロックに。同じくオリガが歌うエンディングテーマ“date of rebirth”もまたハードなバンドサウンドとマシナリーなトラックが合わさった重厚なナンバーで、聖母のような響きを持った歌声と武骨なグルーヴが作り出すトランシーなうねりがサイバー空間へと誘ってくれる。
造語の神秘的なチャントから重苦しいビートとインダストリアルなノイズ、歪んだギターが融合した暗黒美溢れるサウンドに展開する“zero signal”はマッシヴ・アタック好きにもきっと刺さることだろうし、イラリア・グラツィアーノをフィーチャーしたトリップホップ調の歌もの“from the roof top~somewhere in the silence[sniper’s theme]”の約2分にもおよぶ前奏部分におけるジャズとブレイクビーツの結合は、ロニ・サイズ&レプラゼントが打ち出したニューフォームにも通じるものがある。曲想はさまざまなれど、冷たくも都会的なスタイリッシュさが際立つダークなサウンドはまさにサイバーパンク的だ。
物語のフィナーレとなる少佐とバトーが語り合うシーンで流れる“take a little hand”は、草薙素子の過去が描かれる「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」の第11話「草迷宮 affection」のラストにも使用されていたガブリエラ・ロビン歌唱の幻想的なアンビエントフォーク。歌詞は造語だが公式による日本語訳がLPにも掲載されるそうので、ぜひ少佐が辿ってきた道と重ね合わせて味わってほしい。
後続のサイバーパンクSF作品に多大な影響を与えた押井守監督による世界的な人気作「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」(1995年)の続編にあたる劇場アニメ「イノセンス」(2004年)のサウンドトラック。音楽を手掛けたのは、押井監督とは「機動警察パトレイバー the Movie」(1989年)など数々の名作でタッグを組んできた川井憲次。前作「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」で提示した、エスニックな打楽器や民謡グループの西田和枝社中が歌う不可思議かつ根源的な響きを持った〈謡〉の要素をアップデートしたような楽曲が並ぶ。なかでも75名もの民謡歌手を集めてレコーディングした“傀儡謡”シリーズは圧巻のひと言で、ブルガリアンボイスに着想を得たというハーモニーの神秘的な響きと茂戸藤浩司の演奏による和太鼓のプリミティブなリズムが、電脳化が進んだ近未来を舞台にした作品世界の対比として強烈なイメージを記憶に焼き付ける。
また本作の主人公であるバトーの心の揺らぎや悪夢めいた映像美を印象付ける楽曲も多く、銅鑼やガムランのゴングのような金属音にシンセサイザーの不穏な音色が重なる“TYPE 2052 “HADALI””、オルゴールの音源を洞窟で再生および録音することで深い残響が加わった“THE DOLL HOUSE”など実験的なアプローチが刺激的な音を生んでいる。
ジャズシンガーの伊藤君子が歌うテーマ曲“Follow Me”は、マイルス・デイヴィスからジム・ホールまで名だたるジャズの巨匠が取り上げたホアキン・ロドリーゴの名曲“アランフェス協奏曲”の第2楽章に歌詞を付けたもの。坂本美雨が作詞、川井が作編曲した伊藤歌唱の挿入歌“River of Crystals”と共に、本作全体に漂う哀感とバトーの寄る辺なき想いにそっと寄り添う名品だ。
RELEASE INFORMATION
■アナログ盤
リリース日:2026年7月22日(水)
品番:VTJL-42~3
価格:6,600円(税込)
2LP
TRACKLIST
Disc 1
Side A
1. run rabbit junk/HIDE
2. ヤキトリ/菅野よう子
3. スタミナ・ローズ/Gabriela Robin
4. surf/菅野よう子
Side B
1. where does this ocean go?/Ilaria Graziano
2. train search/菅野よう子
3. シベリアン・ドール・ハウス/菅野よう子
4. velveteen/Ilaria Graziano
5. lithium flower/Scott Matthew
Disc 2
Side A
1. home stay/菅野よう子
2. inner universe/Origa
3. fish~silent cruise/菅野よう子
4. some other time/Gabriela Robin
Side B
1. beauty is within us/Scott Matthew
2. we’re the great/菅野よう子
3. モノクローム/Ilaria Graziano
4. GET9[TV size]/jillmax
5. rise[TV size]/Origa
■アナログ盤
リリース日:2026年7月22日(水)
品番:VTJL-46
価格:4,950円(税込)
1LP
TRACKLIST
Side A
1. be human/Scott Matthew
2. trip city/Scott Matthew
3. patch me/菅野よう子
4. タチコマの家出/菅野よう子
5. お散歩タチコマ/菅野よう子
6. bang bang banquet/菅野よう子
7. FAX me/菅野よう子
8. ロッキーはどこ?/菅野よう子
Side B
1. spotter/菅野よう子
2. let’s oil/菅野よう子
3. cream/HIDE
4. spider bites/菅野よう子
5. good by my master/菅野よう子
6. piece by ten/菅野よう子
7. what can I say?/SUNNY
8. Hi!/菅野よう子
9. I’m not straight/菅野よう子
10. AI戦隊タチコマンズ/Tamagawa Sakiko
11. プロボウラータチコマ/菅野よう子
12. don’t sponge me/菅野よう子
13. po’d pod/菅野よう子
14. ciao!/菅野よう子
■アナログ盤
リリース日:2026年7月22日(水)
品番:VTJL-44~5
価格:6,600円(税込)
2LP
TRACKLIST
Disc 1
Side A
1.サイバーバード/Gabriela Robin
2. rise/Origa
3. ride on technology/菅野よう子
4. アイドリング/菅野よう子
Side B
1. i can’t be cool/Ilaria Graziano
2. 3tops/菅野よう子
3. gonna rice/菅野よう子
4. GET9/jillmax
Disc 2
Side A
1. Go DA DA/菅野よう子
2. サイケデリックソウル/Scott Matthew
3. what’s it for/emily curtis
4. living inside the shell/steve conte / shanti snyder[reading]
Side B
1. ペットフード/菅野よう子
2. security off/菅野よう子
3. to tell the truth/菅野よう子
4. i do/Ilaria Graziano
5. we can’t be cool/菅野よう子
■アナログ盤
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:VTJL-50~1
価格:6,600円(税込)
2LP
TRACKLIST
Disc 1
Side A
1. the end of all you’ll know/Scott Matthew
2. トルキア/Gabriela Robin
3. know your enemy/菅野よう子
4. レーザーシーカー/菅野よう子
Side B
1. break through/菅野よう子
2. flying low/菅野よう子
3. エウロペ/菅野よう子
4. 半島の東/菅野よう子
5. 未完成ラブストーリー/菅野よう子
Disc 2
Side A
1. CHRisTmas in the SiLenT ForeSt/Ilaria Graziano
2. access all areas/菅野よう子
3. sacred terrorist/菅野よう子
4. dear john/Scott Matthew
Side B
1. 35.7℃/菅野よう子
2. スマイル/菅野よう子
3. flashback memory plug/Origa / benedict Delmaestro
4. dew/Ilaria Graziano
■アナログ盤
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:VTJL-52~3
価格:6,600円(税込)
2LP
TRACKLIST
Disc 1
Side A
1. player/Origa with Heartsdales
2. replica/Ilaria Graziano
3. zero signal/菅野よう子
Side B
1. solid state society/菅野よう子
2. tempest/菅野よう子
3. born stubborn/菅野よう子
4. she is/Gabriela Robin
Disc 2
Side A
1. from the roof top~somewhere in the silence[sniper’s theme]/Ilaria Graziano
2. undivided/菅野よう子
3. blues in the Net/菅野よう子
4. human step~aramaki’s theme/菅野よう子
Side B
1. date of rebirth/Origa
2. take a little hand/Gabriela Robin
3. remedium/菅野よう子
■アナログ盤
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:VTJL-54
価格:4,950円(税込)
1LP
TRACKLIST
Side A
1. DUNGEON/川井憲次
2. 傀儡謡_怨恨みて散る/西田和枝社中
3. TYPE 2052 “HADALI”/川井憲次
4. River of Crystals/伊藤君子
5. ATTACK THE WAKABAYASHI/川井憲次
6. 煉獄{煉獄=エトロフ}/川井憲次
Side B
1. 傀儡謡_新世に神集ひて/西田和枝社中
2. THE DOLL HOUSE 1/川井憲次
3. THE DOLL HOUSE 2/川井憲次
4. 傀儡謡_陽炎は黄泉に待たむと/西田和枝社中
5. 遠神恵賜/西田佳づ美、清水多永子、伊藤予示子
6. Follow Me/伊藤君子
■「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」アナログ盤リリース記念 Tシャツプレゼントキャンペーン
「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズのアナログ盤をご購入の方に、アルバムジャケットがデザインされたTシャツを抽選で各タイトル50名、計250名様にプレゼントいたします(「イノセンス」はキャンペーン対象外)。
応募方法:対象商品に封入されている応募券のQRコードからご応募ください
※詳しくは商品に封入されている応募券をご覧ください





